窓際さんのお勉強な日々

こそっと論文読んで、こそっとメモ

crossover試験を読む~スピオルト®レスピマットの実力は?(対スピリーバ)~

<はじめに>

 

ネットでたまたま見かけたVESUTO試験が全文フリーだったので読んでみたというだけの記事です。

「レスピマット」でお気づきの方がいるとは思えませんが、この試験のスポンサーはワタクシの大嫌いな某ベーリンガー社です。

そのため、「粉飾してるやろ、常識的に考えて」くらいの気持ちで論文を読んで記事にしています。

本記事を読むにあたっては、強烈なバイアスがかかっていることを理解していただけますようお願いいたします。

 

<急ぐ人向け結論>

 

 プライマリエンドポイントである最大吸気量で有意差をもってスピオルトが改善しました。

でも、解析怪しい。。。

 

<お題論文>

Efficacy of tiotropium/olodaterol on lung volume, exercise capacity, and physical activity. - PubMed - NCBI

PMID: 29750027

 

以下はプロトコル論文

Study Design of VESUTO®: Efficacy of Tiotropium/Olodaterol on Lung Hyperinflation, Exercise Capacity, and Physical Activity in Japanese Patients wi... - PubMed - NCBI

PMID: 28537001

コッチは事前登録情報

Comparing the Efficacy of Tiotropium + Olodaterol Fixed Dose Combination (FDC) Over Tiotropium in Improvement of Lung Hyperinflation, Exercise Capacity and Physical Activity in Japanese COPD Patients - Full Text View - ClinicalTrials.gov

 

<リサーチクエスチョン>

黒字はアブストラクト記載分。赤字は本文より追加分。

 

P:40歳以上の日本人COPD患者184名。GOLDstageⅡ~Ⅳ期(中等~重症)。

 FEV1<80%、FEV1/FVC<70%、喫煙歴有りかつ10箱/年以上、MRC(息切れスケール)1点以上(1点=強い労作で息切れするレベル)6分間歩行テスト(6MWD)<400m

 

I:チオトロピウム2.5μg/オロダテロール2.5μg 1回2吸入、1日1回朝

 

C:チオトロピウム2.5μg 1回2吸入、1日1回朝

 

O:(プライマリ)6週間後の薬剤吸入1時間後のIC(最大吸気量)

  (セカンダリ)薬剤吸入30分後のFEV1(努力性肺活量で最初の1秒間で吐き出した量の割合)、薬剤吸入30分後のFVC(努力肺活量)、薬剤吸入1時間後のSVC(肺活量)、6MWD、1日の歩数、4METs以上の活動時間、3METs以上の活動時間、2METs以上の活動時間、平均運動量(3MET以上)

  (プロトコルにも事前登録にもないアウトカム)有害事象

 

※参考。MRCについて

http://www.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/046080593j.pdf

 

⇒実際に集まった患者層は、男性89.7%、平均年齢72.8歳、平均BMI22.2、平均罹病期間5.49年

 

 

<批判的吟味>

 

ランダム化:コンピュータで発生させた乱数。ベーリンガー社管理。

 

盲検化:二者(被験者、研究者) 解析はベーリンガー社。

 

真のアウトカム:呼吸困難の改善なら真に近い気がするが、ICの改善の程度と呼吸困難の相関がわからない

 

アウトカムの数:プライマリは1つ(プロトコルや事前登録情報からの変更はない)

 

ITT:Fig1より脱落7名が解析に回っていないことからper protocolと思われる。

プロトコル論文ではFASで解析することになっている(追跡が90%を下回るとper protocolに変更する予定だったよう)

 

サンプルサイズ:0.1Lの差を90%で検出=180名

 

<結果>

有意差があった項目は赤字。後付け解析は青字で記載。

 

肺機能(Fig2)

 IC(プライマリエンドポイント)

   スピオルト1.990L vs スピリーバ1.875L  MD0.115L  95%CI:0.077~0.153

 FVC  3.020L vs 2.857L  MD0.163L  95%CI:0.130~0.197

 FEV1 1.275L vs 1.169L  MD0.105L  95%CI:0.088~0.123

 SVC 3.096L vs 2.962L  MD0.134L  95%CI:0.091~0.176

運動(Fig3)

 total 311.5m vs 307.4m MD4.2m 95%CI:-6.2~14.5

 以下、後付け解析

 ベースラインでGOLDⅢ~Ⅳ 301.5m vs 283.4m MD18.1m 95%CI:2.3~33.9

 6MWD完遂者 357.3m vs 346.6m MD10.7m 95%CI:4.2~17.3

活動量(Fig4):このFigは後付け解析

 2METs以上の活動(着衣8時間未満は除く)191.5min  vs  186.5min   MD5.0min 95%CI:0.39~9.69

 1日の歩数(着衣8時間未満は除く) 3871.1歩 vs 379.6歩 MD77.5歩 95%CI:-92.7~247.7

有害事象(Table2)

 全有害事象:37.8% vs 34.6%

supplementalへ追いやられたセカンダリアウトカム

 1日の歩数 MD9.5歩 95%CI:-155.7~174.7

 4METs以上の活動時間 MD-0.3min 95%CI:-1.2min~0.6min

 3METs以上の活動時間  MD0.9min 95%CI:-1.0min~2.9min

 2METs以上の活動時間  MD2.3min 95%CI:-3.0min~7.5min

 平均運動量       MD2.4min 95%CI:-4.6min~9.4min

 

⇒当初の予想通り、結果をよく見せるための粉飾が行われていた。(セカンダリで粉飾する意味が分からないのだけど)この辺りに安定と信頼のベーリンガー製臨床試験といった感じを受ける。

 粉飾の手口としては、「解析方法の変更」「後付けアウトカム」「有意差のないアウトカム隠し」。脱落が小さいのでFASで解析しても、プライマリエンドポイントに有意差がつきそうな気がするがどうだろう?

 とりあえず、結論は「スピオルトはスピリーバに比べて、呼吸は楽にするが身体活動性の改善まではもたらせない」だろうか。(元々の疾患の重症度の影響が大きそうだが)

 COPD臨床試験でよく見る「COPDの増悪」は、本研究では検討されていない。

これは、DYNAGITO試験で有意差が出なかったことによるものだろう。(疾患管理薬としてスピオルトはスピリーバを超えないと暗にメーカーが認めているということか)

 

臨床試験の粉飾を扱った論説といえば、本ブログではたびたび登場するコレ!

 医学書院/週刊医学界新聞(第3246号 2017年10月30日)

 奥村泰之先生、いい仕事をしてくださいましてありがとうございます。

 

 

 

 

第16回神戸薬科大学Student CASP ワークショップのお題論文を予習してみた

<はじめに>

 

 今回の記事は来る2018/6/3に神戸薬科大学で開催されるStudent CASP ワークショップのお題論文を予習し、その結果のメモ的記事になります。

 当日参加される方は、あくまで記事は僕個人の意見であり、この意見に引っ張られないようにご注意ください。

 「どうしても引っ張られちゃう」という方は、自己紹介中に「居酒屋抄読会、参加者募集!」と大きな声で言うようにしてください。

 そんな宣伝嫌!という方は、「おっぱい!」でも構いません。ミッションを達成することにより、僕の意見に引っ張られることはなくなるはずです。

 

<お題論文>

 

A Cluster-Randomized Trial of Blood-Pressure Reduction in Black Barbershops. - PubMed - NCBI

PMID: 29527973

この論文一言で言うと「散髪屋さんで薬剤師vs理容師で血圧管理のデキを比較してみた」ですね。

さっそく読んでいきましょう。

 

<リサーチクエスチョン>

 

研究仮説を確認しましょう。

アブストからの情報は黒字、本文からの追加情報は赤字で示します。

 

P:収縮期血圧140mmHg以上の非ヒスパニック系黒人男性。35~79歳。2回のスクリーニングで収縮期血圧140mmHg以上6ヶ月以上の期間に6週間に1回以上理髪店を利用する常連客

I(E):薬剤師介入(血圧測定。抗高血圧レジメンに沿った薬剤の処方。生活習慣指導。電解質レベルのモニタリング月1回面談。月4回電話相談。面談毎に受診・薬剤費として25ドルの支給

※抗高血圧レジメン:①アムロジピン+ACE阻害薬かARB→②インダパミドなどチアジド系利尿薬→③アルドステロン拮抗薬 (医師の指示があった場合は別のクラスの薬剤に変更可)

C:理容師による生活習慣改善指導(パンフレット渡す)。受診勧奨。

O:6ヶ月後の収縮期血圧

 

事前計画(NCT02321618)より変更有り。以下は元の情報。

P:40~79歳。黒人男性(非ヒスパニックの限定無し)。理髪店利用頻度は1年で8回。

O:収縮期血圧の8mmHg以上の改善。セカンダリは12か月後の収縮期血圧の6mmHg以上の改善。

なお、アウトカム(エンドポイントと同じ意味で両者をごちゃまぜで使っています)は全データの収集解析後の2018/2/7に行われている。

 

<批判的吟味>

 

盲検化:不可能

アウトカムの数は:1つ

真のアウトカム?:代用

サンプルサイズは?:6ヶ月で6.9mmHgの差を検出する参加者数として500人と見積もり(実際に参加したのは319人)

脱落:全体で5%

ITT解析?:どんな解析法だったか不明。ITTもおまけで使っている。

⇒ベースラインに大きな差は見られないが、介入群の方がより低所得者が多いように見える。

 

<結果>

 

プライマリエンドポイント(6か月後の収縮期血圧のベースラインからの変化)

介入-27.0±13.7vs対照-9.3±16.0 MD-21.6(-28.4~-14.7)

 

以下、セカンダリエンドポイント

拡張期血圧:介入-17.5±11.0vs対照-4.3±11.8 MD-14.9(-19.6~-10.3)

薬剤数:介入2.6±0.9vs対照1.4±1.4 MD1.9(1.3~2.4)

服用割合

ACEiもしくはARB:98.5%vs41.5% RR2.4(2.0~2.8)

CCB:94.7%vs32.7% RR3.0(2.4~3.6)

利尿薬:46.2%vs28.7% RR1.6(1.3~2.1)

アルドステロン拮抗薬:10.6%vs1.2% RR7.0(2.5~19.2)

有害事象は両群で差はなかった。

 

⇒薬剤師介入群の方がたくさん薬を服用し、血圧が下がったという結果。

介入の中でも25ドルの支給が一番効いたのでは?と思ってしまう。

(低所得層が多く、受診・服薬がままならないので)

 

ここまで差があると、元のプライマリエンドポイントでも有意差が出そうだが、解析後にプライマリエンドポイントを差し替え、セカンダリエンドポイントを多数追加している。より結果をよく見せるための印象操作?

(なお、消されたセカンダリエンドポイントは延長試験のプライマリエンドポイントとして復活している。)

 

あと結果の解釈と関係ないかもしれないが、研究協力がUniversity of California, San Francisco、Charles Drew University of Medicine and Science 、University of Southern California 、Kaiser PermanenteからNational Institutes of Health (NIH) 、National Heart, Lung, and Blood Institute (NHLBI) 、The California Endowment 、Lincy Foundationと公的な機関に差し替えられている。なぜだろう?

 

 ただ、高血圧治療に最も抵抗性の高いと言われている黒人男性でここまでの降圧効果を示したのはすごいことなので、それが本論文の新規性といったところだろうか。

 注意が必要なのは、継続中の延長試験も含めて血圧という代用のアウトカムの評価だということ。心血管イベントを防いだわけではない。(黒人男性は血圧のコントロールが十分できず次々と心血管イベントを起こす層ではあるのだが)

 

 個人的な印象ではあるが、一番大事なのは自身の健康に気遣えるだけの最低限以上の収入ではないかと思う。(自分のスカスカな財布の中身を見ながら)

ネットワークメタ解析チェックリスト改訂への道⑪~脳血管イベントの二次予防に対するスタチン間の効力の違い~

<お題論文>

Secondary prevention of major cerebrovascular events with seven different statins: a multi-treatment meta-analysis. - PubMed - NCBI

PMID: 28919704

 

<急ぐ人向け結論>

アトルバスタチンが良いとの結果だが、ネットワークメタ解析(NMA)の手法が雑で、結果としてとても使えたものではない。

というか、読むだけ時間の無駄。

 

薬剤師界のエビデンスマスターこと青島先生へ

これを読む時間を、金麦タイムか出張時にお泊り許可がもらえるように奥様に媚を売る時間にあててください。

 

<リサーチクエスチョン>

 

P:アテローム動脈硬化性心血管疾患の患者

 

I/C:lovastatin、アトルバスタチン(リピトール)、フルバスタチン(ローコール)、シンバスタチン(リポバス)、ピタバスタチン(リバロ)、プラバスタチン(メバロチン)、ロスバスタチン(クレストール)

 

O:主要脳血管イベント(致死性脳卒中、非致死性脳卒中TIA)

 

⇒実際に集まったのは、24.3%女性、143~319週の研究(4週以上が組み入れ条件)

Table1より、被験者は50代以上であることが分かる(5研究は年齢不明)

 

<システマティックレビュー(SR)の評価>

 

データベース: PubMed,、Embase、 Cochrane Database of Systematic Reviews、Cochrane Central Register of Controlled Trials

 

検索語:各スタチンの成分名、心血管疾患、HMG-CoA還元酵素阻害薬

 

検索期間:2011.1.1~2016.6.30(2011年以前はSRの参考文献を利用)

 

元論文:RCT対象。文献の質を評価した形跡なし

 

評価者:2者独立でスクリーニング、研究の組み入れは第三者が独断で選択

 

出版:言語に関する制限の記載なし。参考文献は見ている。専門家連絡なし。funnnel plotなど報告バイアスの検討はしていない

 

異質性:事前登録なし。Pの近似性は年齢等不明項目あり疑問が残る。Oは問題なさそう

 

⇒SR部分にバイアスが入り過ぎである。

(まさかの設定したバイアス評価全項目フルコンプリートでバイアス有りとは)

特に評価者バイアスはキーワードだけを見ていると二者独立で評価し意見対立時は第三者が仲裁したように見せかけており悪質。

言語制限は有無しか想定していなかったが、今回初めて「確認できない」という事態に。

なお、年齢「NA」となっている文献㊾を確認するとTable1にロスバスタチン群60±11歳、アトルバスタチン群59±12歳との記載を見つけることができる。

Comparison of the efficacy of rosuvastatin versus atorvastatin in reducing apolipoprotein B/apolipoprotein A-1 ratio in patients with acute coronar... - PubMed - NCBI

著者は元論文を読んでおらず、当然の帰結として元論文の質の評価ができなかったようだ。

 

<ネットワークメタ解析(NMA)の評価>

 

ネットワーク図:プライマリアウトカムのものが一つだけ示されている

 

閉じた環:少数有

 

直接・間接比較:Table2と3が該当?わかりにくい

 

一致性:検討された形跡はないが、結果を見比べると一致していない

 

資金源、COIの開示:資金源は公開されていない

 

<結果>(Table3より)

 

有意差があったのは以下の二つ

アトルバスタチンvsロスバスタチン RR1.7(1.10~2.50)

アトルバスタチンvsコントロール RR1.5(1.10~1.90)

予防効果として見るようだが、結果の見方についての説明がない。

 

アブストラクトの結果にあったアトルバスタチンvsロスバスタチン RR0.6(0.40~0.92)に相当する結果が本文中に出てこない。

 

<結論>

 

読んでしまったアナタへ。

手遅れです。

 

最初に結論から読んで、途中過程をすっ飛ばしたアナタへ。

論文データを捨てましょう。

紙で印刷してしまったのなら丸めてゴミ箱へ投げ入れましょう。

 

<感想>

 

少し読めば「ヤバい」とわかる論文を掲載したDrug Design, Development and Therapy は科学雑誌として大丈夫なのだろうか?査読体制はどうなのかと思い調べてみると、査読者名が公開されており「Dr Akshita Wason」エディター「Dr Tuo Deng」という名前が確認できた。

このエディターは現在はアメリカで研究している中国人であり、著者が中国人であるので身びいきが働いたのではないかと邪推してしまった。

 

※注意!

エディターがPPARγの研究者なので、J-DOITがらみで門脇教授(PPARγ下流の物質、アディポネクチンの研究者)に良い感情を持っていないので、そうしたバイアスが記事全体にかかっていることにご注意ください。

 

 

 

費用対効果の論文(Cost-Effectiveness Analysis=CEA)チェックシート改訂への道①~過活動膀胱に対するソリフェナシンの費用対効果は?~

<背景>

以前公開したCEAチェックシートを改訂すべく過活動膀胱(OAB)に対するソリフェナシンの費用対効果の論文を読んでみることにした。

Dropbox - 費用対効果チェックシートver1.pdf

 

<お題論文>

Cost-effectiveness of solifenacin compared with oral antimuscarinic agents for the treatment of patients with overactive bladder in the UK. - PubMed - NCBI

PMID: 29686801

この論文は、イギリスで承認を受ける際にメーカーが提出するCEA報告です。

 

<ざっくり結論>

著者「ソリフェナシン5mg/日は他の抗コリン薬より費用対効果高かったよ~」

僕「コストを安く見積もったからってだけじゃないっすか?」

 

<リサーチクエスチョンは?>

チェックシート(チェックリスト)に従ってアブストラクトから抽出すると

 

P:過活動膀胱の患者

I:ソリフェナシン5mg/日(日本ではベシケア5mg/日なので、日本と同じ用量)

C:他の経口抗ムスカリン

O:ICER(効果はQALYで測定、QOL値はEQ-5Dで計測)

 

本文メソッドより追加の内容を拾うと(追加情報は赤字

 

P:過活動膀胱の成人患者

 

I:ソリフェナシン5mg/日(日本ではベシケア5mg/日なので、日本と同じ用量)

 

C:他の経口抗ムスカリン

→主たる比較対象として、トルテロジン徐放4mg(デトルシトール)

→サブの比較対象として、フェソテロジン4mg・8mg(トビエース)、オキシブチニン10mg(徐放・速放 ポラキス)、ソリフェナシン10mg、TolterodineIR4mg、トロスピウム(スパスメックス、日本では販売中止)

 

O:ICER(効果はQALYで測定、QOL値はEQ-5Dで計測)

 

用量が日本と同じ薬剤が多い

 

<方法の評価>

 

・分析の立場:NHS(保険支払者)

 

・分析期間:5年

 

・割引率:年率3.5%

 

・コスト見積もり:Table2に記載

 

・見積もりの根拠:主に公的機関からのプレス発表。リソースの見積もりはアステラスの資料

 

・価格:ポンド(2015~2016年)

 

・モデル:マルコフモデル

(TableS1は治療の流れ。状態遷移を含めたモデルの提示無し)

 

・パラメータ:Table1に記載

 

・パラメータの根拠:治療効果はネットワークメタ解析。状態遷移についてはミラベグロン(ベタニス)のCEAより引用している。副作用で中断した後の再開率5.6%は仮定の数値

 

パラメータの設定根拠はバイアスの入りやすいものなので注意が必要か

 

<結果とその頑健性>

 

・ICER(Table3):1QALY増加に必要なポンド

→ソリフェナシン5mg/日が優位を示したもの:トルテロジン徐放4mg、フェソテロジン4mg・8mg、オキシブチニン10mg(徐放)、ソリフェナシン10mg

→オキシブチニン10mg(速放)22393、TolterodineIR4mg 23975、トロスピウム 15007

 

・不確実性

→トルネード図による分析(結果に影響を与えた因子):AEによる中断(仮定値)

→散布図:優勢に偏っている

 

・異質性:記載なし

 

閾値:3万ポンド

 

・資金源:公開されている(アステラス)

 

・COI:公開されている(著者はアステラス社員)

 

優位の根拠は有効性の差ではなく、コストの見積もりの差(ほぼ差はない)

 

<個人的結論>

 

当然のごとく入っているスポンサーバイアスを考えれば、どの薬剤を用いても費用対効果の面で差はないと考える。

 

 

<チェックシート改訂>

 

改訂内容

検索に使えるキーワードを追加:分析期間(time horizon)、マルコフモデル(Markov)

閾値に有無をチェックするボックスを追加

 

Dropbox - 費用対効果チェックシートver2.pdf

 

是非、ご活用ください!

費用対効果の論文(Cost-Effectiveness Analysis=CEA)を読むとき用のチェックシートを作ってみた

 今回はタイトルのように、費用対効果の論文を読むための、簡便(?)なチェックリストを作成しましたので、公開します。

費用対効果チェックシートver1.pdf

 

<作成の背景>

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 薬剤師界が誇るエビデンスマスターこと青島先生の上記ツイートにクソリプを送って絡んだわけですが、論文の怪しさはわかるものの、「具体的に何がヤバいのか・結果の信憑性はどのくらいなのか?」に回答できませんでした。

 なお、青島先生が疑問を投げかけていた論文は以下になります。

Cost-effectiveness of a New Opportunistic Screening Strategy for Walk-in Fingertip HbA1c Testing at Community Pharmacies in Japan. - PubMed - NCBI

研究実施機関である筑波大学からのプレスリリース

薬局での指先 HbA1c チェックの優れた医療経済性 

 

 

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そして、こういう結論に。

 CEAは、諸外国では薬剤承認申請時の資料として必須ですが、日本では「CEA?出しても承認にも薬価にも反映されないゴミだから出さねぇよ」がまかり通ってました。

 近年、オプジーボC型肝炎治療薬など高額な医薬品が承認されるようになり、医療行政の破綻の危機が叫ばれ、CEAを用いて効果だけでなく経済性(コスト)も評価する流れ(医療技術評価=HTA)となりました。

(実際はすでに破綻してるんですけどね。税金と問答無用に天引き額の上がる保険料が証拠です)

 世界的に何年遅れだよって感じの遅さですが、日本でもHTAが行われるので、医薬品の専門家である薬剤師が医薬品のCEAを読めないのは極めてマズいです。

 ただ、集学的な研究なので、読みこなすのは極めて難しく、CEAを読み解く勉強会はレギュラトリーサイエンスが主催するワークショップが東京で開催されているほかは、以前の記事で紹介した岡山CASPくらいしかありません。

 つまり、研究論文を読みこなすための素地すらできていないのが現状です。

読みこなすための素地としての日本語での解説本はありますので、実際に数を読みこなすためのツールが必要であると判断し、今回のチェックシートの作成となりました。

 

<既存のチェックリスト>

Consolidated Health Economic Evaluation Reporting Standards (CHEERS) Statement | The EQUATOR Network

日本語の解説

 

<作成の元論文>

 

 CEAの報告様式の統一を目的に2013年に複数の雑誌で同時にCEA報告様式(=CHEERS声明)が出されました。

過去記事では(先週、費用対効果の論文を読むワークショップに参加しました - 窓際さんのお勉強な日々)PLoS Oneのものを利用しました。

Cost-Effectiveness Analysis of a National Neonatal Hearing Screening Program in China: Conditions for the Scale-Up

その他のCHEERS声明(掲載雑誌が違うだけで、同じ内容)

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23531194

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23531108

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23529982

なお、CHEERS声明はCONSORT声明を基に作成されている。

 

<各項目の採否と理由>

①タイトルは経済評価研究であることを明らかにしているか?

→「×」:このチェックシートは「CEA」であることを確認していないと使えないので

②構造化抄録か

→「△」:研究の目的(仮説)の抽出だけ採用。

③研究の目的(リサーチクエスチョン)と現実の政策や診療の関係

→「×」:②と本文メソッドで抽出するように作成したので、簡便に読むために、ここの部分をチェックリストに盛り込むことは避けた

④分析対象となるベースケースの集団とそのサブグループの特徴。

→「〇」:Pの本文相当部分。

⑤介入の状況と場所

→「〇」:要はI群

⑥研究の立場(視点)

→「〇」:患者個人やその家族、医療機関医療保険の支払者、政策決定者など立場によって計算すべきコストが変わってくるため、CEA読解には必須の項目

⑦比較対照

→ 「〇」:要はC群

⑧分析期間

→「〇」:CEAはモデルを構築し、一定期間動かすシミュレーションで成り立つ研究なので必須の項目と考えた。

⑨割引率

→「〇」:良い結果は早期に得られるほど価値が高い(遅くに得られるほど価値が下がる)ことを軸に、各研究国ごとの経済状況を踏まえ、遅くに出た良い結果の価値を下げて(割り引いて)評価する。その際の価値の減衰の程度。長期分析するCEAでは必須と考えた。

⑩アウトカムの指標

→「〇」:評価における効果(ベネフィット)の尺度は何を選択したか?を見る。研究のアウトカムは多くはICER(増分費用対効果比)であるが、このICERの計算にはコストと効果が必要である。効果の測定に何を使ったかを選択形式で提示した。

 ・OALY(質調整生存年)、DALY(障害調整生存年、QALYの逆。WHOで採用されている)、その他(主には生存年LYを想定)

⑪効果の測定(推計に用いたデータ)

→「×」:ここまでやると大変だと思い、一応外すことにした。(改訂で盛り込みなおすかも)

⑫選好に基づくアウトカムの測定や評価

→「×」:ここまでやると大変だと思い、一応外すことにした。(改訂で盛り込みなおすかも)

⑬資源の消費と費用の推計

→「〇」:コストの見積もりの根拠を求めている。

⑭通貨

→:「〇」:研究時点ごとでお金の価値は異なる。特にドル換算で表現している場合、為替レートがないと、実際に見積もられた費用がわからなくなる。経済評価が必須の研究なので、必須の項目と考えた。

⑮モデルの選択

→「〇」:シミュレーションの元となる大事な項目。CHEERS声明では図示することを強く推奨しているが個人的には必要不可欠と考えている。アウトカムの発生が1回だけの場合に用いる決定樹モデルと、アウトカムの発生が複数回発生する場合に用いるマルコフモデルがあるので、選択形式にした。また選びやすいよう模式図も添付した。

 

⑯仮定

→「△」:⑱でカバーできると考えた。

⑰解析方法

→「△」:歪んだ、欠測した、打ち切られたデータ。外挿方法。データを統合する方法。モデルの妥当性を検討・調整する(半サイクル補正など)方法をみるが、異質性の検討でカバーできると考え、独立項目としては設定していない。

⑱パラメータ

→「〇」:すべてのパラメータについて、その値と範囲、リファレンスを提示する。要はシミュレーション各選択肢での確率(移行確率、遷移確率)の見積もり。これがないとシミュレーションできないので必須の項目である。リファレンスの頑強性に注目しないと恣意性が見抜けないと考え、リファレンスの研究デザイン確認の項目を追加した。

⑲増分費用と増分アウトカム

→「△」:要はICERの分子分母の値。(実際はICERをすべてに求めているわけではない)項目としてはICERとして扱った。

⑳不確実性

→「〇」:⑪で不確実だったデータの値を想定される範囲で変動させて結果に違いがないか見ている。選択形式にした。また、閾値を動かして適正価格を探る感度分析を考慮し、閾値を変動させる項目を追加した。

一因子づつ動かしてICERへの影響を検討(トルネード図)

f:id:zuratomo4:20180504235118p:plain

複数因子を同時に検討(ICER Scattered Plot)

ãICER Scattered Plotãfreeãã®ç»åæ¤ç´¢çµæ

㉑異質性

→「〇」:ベースライン特性が異なることによる患者間変動で説明できる費用や効果、費用対効果の差についての検討。集学的研究であるCEAでは不可避の検討と考え設定した。

㉒考察(研究結果、限界、一般化可能性、現在の知見)

→「×」:エビデンスを使うのに考察を読むことは少ないので削除。

㉓資金源、㉔利益相反

→「〇」:恣意性が入り込みやすい研究デザインなので必須と考えた。

 

以上です。

使ってみて、「こうした方が良い」「ここ間違っている」などご意見をいただければ幸いです。

 

広島文献を読む会(2018.4.27開催)のお題論文を読んでみた~内視鏡術後のピロリ菌除菌で胃がんが予防できるか?~

<背景>

 

 HCAのメンバーには入れてもらっているものの参加できていないので、一人寂しく読んでみた。

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<急ぐ人向け結論>

 

除菌した方が良いとの結果。

しかし、研究中に怪しげな操作が行われており、除菌が有用とは言えない。

 

<お題論文>

 

Helicobacter pylori Therapy for the Prevention of Metachronous Gastric Cancer. - PubMed - NCBI

PMID: 29562147

 

事前登録情報

Effects of H. Pylori Eradication on the Gastric Preneoplastic Lesion and Neoplasm After ESD - Tabular View - ClinicalTrials.gov

 

使用するチェックシート

論文を10分で読むためのワークシート - aheadmap ページ!

 

<臨床疑問>

 

アブストラクトより

P: 早期胃癌または高悪性度腺腫の内視鏡的切除を受けた470人の患者

I: H. pylori除菌療法

C: プラセボ

O1: 1年のフォローアップかそれ以降での内視鏡検査で検出された異時性胃癌の発生率

O2: 3年後の胃体部小弯の腺萎縮の改善

 

本文より追加

P:18~75歳。がんは内視鏡検査で診断。(転移のない早期がん)ピロリ菌は組織学的検査かウレアーゼテストで確認。

I:アモキシシリン1000mg、クラリスロマイシン500mg、ラベプラゾール10mgを1日2回7日間

C:プラセボ+ラベプラゾール10mg

O:最初の1年は3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月。それ以降は年2回。最大3年。

 

⇒実際に集まったのは平均60歳、男性約70%、家族歴有が20%弱。偏りはなさそう。

 

<ランダム化比較試験(RCT)の批判的吟味>

 

ランダム化?:OK

アウトカムは明確?:二つなのでOK

真のアウトカム?:発生率はいいけど、腺萎縮の改善は代用度が高そう

盲検化?:二重盲検(正確には参加者、ケア提供者、研究者、アウトカム評価者の4者)

ITT解析?:modified intention-to-treat(mITT)とアブストラクトにある

(実際にmodified intention-to-treatで解析されたのはO1: 1年のフォローアップかそれ以降での内視鏡検査で検出された異時性胃癌の発生率だけのよう)

脱落率:O1は15.8%、O2は30.4%

 

⇒「modified intention-to-treat」で解析から除外していいのは、割り付け後に治療を受けなかった者のみなのに、追加手術も除外されておりmITTとは言えない。

O1での除外は介入群42名、対照群32名だが、介入群42名中36名と対照群32名中24名が追加手術を理由に解析から除外されている。

このやり方は、介入群で有意差を出すときに使われる結果の信頼性を損なう方法。

(介入群の結果が良いように錯覚させるバイアスが働くため)

 

※なお、ここで不誠実な方法で除外された人をO1のアウトカム発生者として計算すると、介入群50名(21.2%)、対照群51名(21.8%)となり、有意差は消える。

 

<結果>

Fig2より

O1:異時性胃癌の発生率 HR 0.50(0.26~0.94)

 

Table2より(記載順も論文準拠)

O2:腺萎縮改善率

幽門 I:25.8%  C:18.8%   OR 1.51(0.88~2.59)

小弯   I:48.4%  C:15.0%   OR 5.30(3.08~9.13)

大弯  I:24.5%  C15.8%    OR 1.73(0.98~3.03)

 

Table2で、プライマリアウトカムが二つ目に記載されていることに強烈な違和感。

(プライマリアウトカムは論文でもっとも言いたいことなので、通常1番最初に記載する)

で、登録情報を見ると「腺萎縮および腸上皮化生の改善」がオリジナルのプライマリアウトカム。

はい、SPIN(良い結果に見せかけるためにアウトカムを途中で変更すること)です。

途中もっともらしくサンプルサイズの計算が載ってましたが、デコイです。

更に解析で都合の悪い症例を除いているので、ほぼ捏造ですね。

「ちょっと盛られた」臨床試験どころの話ではないです。

( 医学書院/週刊医学界新聞(第3246号 2017年10月30日 )

 

この結果をもとにピロリ菌の除菌を迫るのは止めましょう。

それは、極めて不誠実で詐欺的な行動です。

 

今回は以上です。

会場がどんなふうに盛り上がっているのか気になって仕方ありません(´;ω;`)

ネットワークメタ解析チェックリスト改訂への道⑩~SGLT2阻害薬、GLP1アゴニスト、DPP4阻害薬の全原因死亡の比較~

<急ぐ人向け結論>

 

SGLT2阻害薬サイコー!(そりゃあ、そういう論文集めてるからね)

 

<この論文を選択した理由>

ツイッターのTLで見かけて読んだものの、まだPMIDが決まってなかったので放置していた論文。(内容的にも大した価値はないし)

たまたまTLで再度見かけたので、PMIDを確認出来たので記事化することにした。

 

<お題論文>

Association Between Use of Sodium-Glucose Cotransporter 2 Inhibitors, Glucagon-like Peptide 1 Agonists, and Dipeptidyl Peptidase 4 Inhibitors With ... - PubMed - NCBI

PMID: 29677303

 

評価シートはコチラ

Dropbox - ネットワークメタ解析チェックシートver7.pdf

 

<リサーチクエスチョン>

 

P:2型糖尿病

 

I/C:SGLT2阻害薬、GLP1アゴニスト、DPP4阻害薬

 

O:primary→全死亡

   secondary→心血管死、心不全心筋梗塞全、非致死性)、不安定狭心症脳卒中全、非致死性)、有害事象(全、重篤、試験中断に至ったもの)、低血糖minor、major)、(class-specific SGLT2阻害薬=尿路感染症、GLP1アゴニストとDPP4阻害薬=急性膵炎

 

アブストラクトより抜粋。赤字は本文より追加

 

⇒実際に集まったのは、50代(DPP4阻害薬群がやや若い)、BMI29超、男性比率50%超、Hba1c 8%強

 

<システマティックレビュー(SR)の評価>

 

データベース:MEDLINE、Embase、Cochrane library

 

検索語:不明(eMETHOD1)

 

検索期間:~2017.10.11

 

元論文:RCT、risk of biasはしたが結果はeFig1,Etable4のため確認できず

 

評価者:二者独立→第三者介入

 

出版:英語のみ。reference OK 、専門家連絡なし、Egger testでバイアスが一部にみられる

 

異質性:事前登録なし。 PとOの統合は問題ないと思われる

 

<ネットワークメタ解析(NMA)の評価>

 

ネットワーク図:総合のものが一つ示されている

 

閉じた環:すべてに有

 

一致性:非一致無し

 

資金源、COIの開示:OK

 

<結果>

 

Fig3(通常のメタ解析)

つまりは、対プラセボ

 

DPP4阻害薬  HR1.02(0.94~1.11)

GLP1アゴニスト HR0.88(0.81~0.94)

SGLT2阻害薬      HR0.80(0.71~0.89)

 

NMAの結果→eTable5,eFig6(見れない)

ランキング→プロットのみ

 

クラスごとにくくった大雑把な比較。

最初に設定されたアウトカムのうちsecondary扱いのものはすべてappendixへ

(そもそも個々の研究の統合解析でprimaryとかsecondaryとか意味あるの?)

NMAをランキング付けに使っているが、クラスごとに分けているのでやる意味は少ない。

比較検証が雑過ぎて、この研究のリサーチクエスチョンに臨床的・研究的価値があるのか疑問。

要は有名論文読んどけばいいってことで。