近畿大学CASPワークショップ(2018.7.1開催)の予習ついでにキイトルーダの費用対効果の論文を読んでみた
<背景>
Pubmedの「Similar articles」に出てきたので、なんとなく読んでみた。
なお、がんを扱っていない病院勤務の為、現物を見たことはないです。
<お題論文とチェックシート>
PMID: 28620848
Dropbox - 費用対効果チェックシートver2.pdf
<リサーチクエスチョンは?>
チェックシート(チェックリスト)に従ってアブストラクトから抽出、本文メソッドより追加の内容を拾うと(追加情報は赤字)
P: 進行性非小細胞肺癌(NSCLC)stage IV の患者。→要は前記事のP(腫瘍細胞の50%以上にPD-L1発現。18歳以上。NSCLCに対する全身化学療法の治療を受けていない。平均余命3ヶ月以上。RECIST 1.1で放射線学的に評価できる病変が1つ以上。ECOGのパフォーマンスステータス0または1。)
I:ペムブロリズマブ200 mgを3週ごとに静脈内投与。(35サイクル)
C:プラチナベースの化学療法
(5種類のうち1つを担当医が選択。投与スケジュールは事前登録情報かプロトコルを参照してください)
①カルボプラチン(AUC5~6)+ペメトレキセド(500mg/m2、アリムタ)
②シスプラチン(75mg/m2、ランダ)+ペメトレキセド(500mg/m2)
③カルボプラチン(AUC5~6)+ゲムシタビン(1250mg/m2、ジェムザール)
④シスプラチン(75mg/m2)+ゲムシタビン(1250mg/m2)
⑤カルボプラチン(AUC5~6)+パクリタキセル(200mg/m2、タキソール)
※PDが発生した場合、条件によってはI群の治療を受けることも可能
O:ICER(効果はQALYとLYで測定、QOL値はEQ-5Dで計測)
※LY=生存年数(QALYからQOLの評価を除いたもの)
<方法の評価>
・分析の立場:US third-party public healthcare payer
(公的保険支払者。つまりメディケア、メディケイド)
・分析期間:20年
・割引率:年率3%
・コスト見積もり:Table1に記載
・見積もりの根拠:NCCNガイドラインなど
・価格:米ドル(2016年)
・モデル:分割生存時間モデル
(癌患者の予後を「無増悪生存」「増悪後の生存」「死亡」の3状態に分けたモデル)
・パラメータ:Fig.2~4が相当するか?
・パラメータの根拠:KEYNOTE-024、専門家の意見
・根拠なしの値の感度分析での扱い:±25%で動かしている(一部50%も)
<結果とその頑健性>
・ICER(Table2):$US97621/QALY、$US78344/LY
・不確実性
→トルネード図による分析(Fig5):遷移確率
→散布図(Fig6):y=axの数式を見ているよう
・異質性:記載なし
・閾値:$US171660(WHOの$US50000/DALYを換算したとディスカッションに記載)
・資金源:公開されている(メルク)
・COI:公開されている(著者はメルク社員)
<まとめ>
有害事象の見積もりが肺炎を除いて、KEYNOTEでの報告値より軒並み高い。
閾値がディスカッションで三倍強の値になった根拠はよくわからない。
ただ、思ったより安いかな?
なお、日本でのキイトルーダの薬価は100mg/瓶で410541
2016年の為替レート(月平均)101~118
日本の価格をドル換算すると6958.3~8129.5となり、本文中のキイトルーダ治療費の$US8762より安い?
近畿大学CASPワークショップ(2018.7.1開催)の予習をしてみた件
<はじめに>
2018.7.1開催の近畿大学CASPワークショップの予習です。
抗がん剤とは無縁の職場なので、解釈に間違いがある可能性が高いのでご注意ください。
ワークショップの流れに沿って、論文の内的妥当性の吟味→外的妥当性と適用で進めていきます。(本当はシナリオの臨床疑問の抽出を最初に行う)
また、内的妥当性の吟味はCASPのチェックシートに沿った形で行います。
<お題論文>
・ペムブロリズマブ(キイトルーダ)の第三相臨床試験より
PMID: 29129441
KEYNOTE-024の後付け解析(事前に規定されていたとの記載はあるが、登録情報には事前に設定されていた痕跡はない)としてQOLを扱った論文です。
※以下、おまけ
事前登録情報
NCT02142738
(主要解析の事前登録情報なので、お題論文の内容を必ずしも反映していません)
プロトコル論文(全文フリー)
Pembrolizumab versus Chemotherapy for PD-L1-Positive Non-Small-Cell Lung Cancer. - PubMed - NCBI
PMID: 27718847
<内的妥当性>
・A-1:研究仮説(RQ)
P: 進行性非小細胞肺癌(NSCLC)stage IV の患者。腫瘍細胞の50%以上にPD-L1発現。18歳以上。NSCLCに対する全身化学療法の治療を受けていない。平均余命3ヶ月以上。RECIST 1.1で放射線学的に評価できる病変が1つ以上。ECOGのパフォーマンスステータス0または1。
※キイトルーダ審査報告書(2016年12月19日)より「化学療法歴のない、EGFR 遺伝子変異陰性、ALK 融合遺伝子陰性及び PD-L1 陽性(≧50%)の進行・再発の NSCLC 患者」
I:ペムブロリズマブ200 mgを3週ごとに静脈内投与。(35サイクル)
C:プラチナベースの化学療法
(5種類のうち1つを担当医が選択。投与スケジュールは事前登録情報かプロトコルを参照してください)
①カルボプラチン(AUC5~6)+ペメトレキセド(500mg/m2、アリムタ)
②シスプラチン(75mg/m2、ランダ)+ペメトレキセド(500mg/m2)
③カルボプラチン(AUC5~6)+ゲムシタビン(1250mg/m2、ジェムザール)
④シスプラチン(75mg/m2)+ゲムシタビン(1250mg/m2)
⑤カルボプラチン(AUC5~6)+パクリタキセル(200mg/m2、タキソール)
※PDが発生した場合、条件によってはI群の治療を受けることも可能
O:15週時点でのQLQ-C30(がん種を問わない自記式QOL測定質問用紙)、QLQ-LC13(肺がんに特化した自記式QOL測定質問用紙)
・A-2:研究手法(デザイン)
薬剤効果を見ることが目的なので、RCTが適切と考えられる。本研究はRCT。
・A-3:割り付け
ランダム割り付け(ブロックランダム法、ブロックサイズは4)
・A-4:盲検化
なし。本文中の「blinded independent central review」はPFS(無増悪生存期間)の評価を指しているので注意。(なので、本解析はPROBE法)
・A-5:解析法
FAS(審査報告書ではITTとなっているが、製薬協会の決まりで治験の解析はFASで行われる)
・A-6:介入以外の処置は同等か?
プロトコル47ページ「Concomitant Medications/Vaccinations (Allowed & Prohibited)」に記載あり。
・A-7:サンプルサイズ
後付け解析の為計算できない
・B:結果
①ベースライン(お題論文に記載がないのでプロトコル論文より)
I (154名) C(151名)
年齢:中央値、(幅) 64.5(33~90) 66.0(38~85)
男性:人数、(%) 92(59.7) 95(62.9)
東アジアからの参加: 21(13.6) 19(12.6)
EOCG PS0: 54(35.1) 53(35.1)
現喫煙者: 34(22.1) 31(20.5)
非喫煙者(喫煙歴無): 5(3.2) 19(12.6)
扁平上皮癌: 29(18.8) 27(17.9)
脳転移: 18(11.7) 10(6.6)
②QLQ-C30(Table 2より)
I群6.9 vs C群-0.9 MD7.8 95%CI:2.9~12.8
③QLQ-LC13(Figure 3:悪化までの生存曲線)
HR0.66 95%CI:0.44~0.97
④仮想症例シナリオ用(Figure2より)
疲労:I群で少ない、不眠・下痢は両群で同程度。
<外的妥当性>
Aさん(stageⅢANSCLC)へキイトルーダ開始の説明に行くも、Bさんに説明に行くという痛恨のミス。
Bさんは倦怠感、下痢、不眠を前治療で経験しており、同じような症状に苦しむくらいなら治療はしたくないと。(主治医は把握していなかった)という設定。
Bさんの基本情報がなく、適用してよいのか不明な部分が多いが、倦怠感は少なくなりそうなので、効果も合わせるなら年齢等の状態にもよるがチャレンジする価値はありそう。
その前に、患者を取り違えるなど事前情報の把握の甘さと勉強資料がメーカーパンフというシナリオの「あなた」がヤバすぎる。
あと、舞台の病院の教育研修状況も危険。早急に改善しないと取り返しのつかない事故が近日中に起こりそう。
ブレクスピプラゾール(レキサルティ)のシステマティックレビューとネットで拾った怪しげな医療経済評価の怪文書を読んでみた
<はじめに>
ブレクスピプラゾール(レキサルティ)の院内採用に当たって効果を検証したシステマティックレビュー&メタアナリシスの文献を探すついでに、海外での費用対効果の文献を探してみたら学会ポスター風の変なチラシみたいなのを見つけたので、ついでに読んでみた。
くわばら先生のブログが詳しいので、よろしければご参照ください。
新規抗精神病薬レキサルティについて | hidex公式ブログ『はぐれ薬剤師のココロ』
後、院内採用になりそうな薬は必ず目を通す審査報告書も貼っときます。
<お題論文と怪文書>
PMID: 27157799
怪文書
http://www.pharllc.com/wp-content/uploads/2016/04/Brexpiprazole-Poster-for-CPNP.pdf
怪文書といっても、著者の所属とか書いてあるんですけどね(;^ω^)
ルンドベックとか大塚アメリカ社のメディカルアフェアーズ部門の人の名前あるし。
<システマティックレビューを簡単に読む>
・RQは?
I:ブレクスピプラゾール0.25mg、1mg、2mg、4mg
C:プラセボ
O:6週間後のPANSS
・phase2:1試験、phase3:2試験(VECTOR、BEACON)のうちphase3を統合
→元試験の質以外はバイアスのかかったシステマティックレビュー。
→(おまけ)2mgでプラセボと有意差が出なかったBEACON試験はメーカーからは紹介されません。
・結果
(プラセボとの間に有意差の見られなかったphase2とphase3の0.25mg、1mgは割愛)
PANSS
2mg -18.79 vs placebo -13.33 MD -5.46 95%CI:-8.46~-2.47
4mg -20.01 vs placebo -13.33 MD -6.69 95%CI:-9.67~-3.70
CGI-S(ベースラインからの変化量)
プラセボ:-0.82
2mg:-1.07
4mg:-1.20
※日本国内では、第三相臨床試験で4mgはプラセボと有意差がなかったため、2mgまでしか承認されていません。「エビデンスが~」といって2mg錠を2錠使わないように!
※4mgが承認審査でけられたことを隠して「1mg→2mgのシンプルな用量設定です」と宣伝してるの、油断してると吹き出しそうになるのは秘密です。
※対プラセボでPANSSの差が1ケタ台って、他の薬剤では中等量くらいの効果のような(;^ω^)<大体、最大用量では10点台の改善はあるで
<「An Economic Evaluation of Brexpiprazole Treatment in Adult Patients with Schizophrenia in the United States」を読んでみる>
・RQは?
P:18~65歳の統合失調症患者 2nd lineの治療
I: Brexpiprazole(以下、「brex」と略) 2mg ,4mg
C:QuetiapineXR600mg,Lurasidone120mg(ともに国内未承認)
O:ICER(有効性の評価尺度はPANSSとCGI-Sの二つ)
※今回はPANSSの方だけで検証してみる
・批判的吟味
分析の立場:US Managed Care Payer(支払者)
分析期間:6週間
リソース・コスト見積もり:Table2と3(brex2mgと4mgで価格が同じ?)
価格:2014 US Dollars
モデル:決定樹
パラメータ:Table1(PANSS Score Changeより抜粋)
brex2mg-19.65 brex4mg-20.93 lurasidone-18.69 quetiapineXR-25.72
根拠:brexはVECTORとBEACON(要は上のシステマティックレビュー)
QuetiapineXR600mgが9~10,Lurasidone120mgが6~8と文献番号が振られているが、実際に調べてみると根拠は逆になっている。
QuetiapineXR600mg
PANSS(6週)-30.9
PANSS(6週、プラセボとの差)-13.01
PANSS(6週)「the differences were not statistically significant」とあるが数値無し
Lurasidone120mg
PANSS(6週)「significantly greater improvement at week 6」とあるが数値無し
PANSS(6週)-20.5
※根拠とパラメータを数値のわかる範囲で比較すると、brexは上方修正され比較対象薬剤は下方修正されているよう
・結果:ICER(PANSS)
ブレクスピプラゾールはlurasidoneにdominatedであった
<感想>
有効性の数値を都合のいいように修正したからでは?
認知症患者さんにがっつり運動してもらった認知機能はどうなる?⇒変わりませんでした!
<はじめに>
はい、タイトルにオチ入れちゃいました(;^ω^)
もう記事を読む価値はないかもしれませんが、お付き合いいただければ幸いです。
<お題論文>
PMID: 29769247
こちらはプロトコル論文
PMID: 27015659
で、双方で事前登録情報が異なっています。
上:ISRCTN10416500
下:ISRCTN32612072
上は急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の換気方法の研究です(OSCAR試験)
本文の解釈には全く関係ありませんが、参考までに。
<臨床疑問>
P:軽度~中等度の認知症患者494名
→(本文より)DSM-Ⅳで診断。MMSE>10、10Feetを独歩で移動可能、椅子に着席できる。
→4ヶ月週2回グループセッション:理学療法士監督下にジムもしくは施設でエアロバイク(ウォーミングアップ5分+許容レベルに合わせた運動)+ダンベルなどを使ったレジスタンス運動+1時間のホームワーク。その後、自宅で150分/週の運動。
C:通常ケア
O:12ヶ月後のADAS-cogのスコア
→11項目、70点満点。高得点ほど認知機能悪化を示す
→大元のプライマリアウトカムは6ヶ月、12ヶ月でのMMSEとBADL(要はADL)
→事前登録情報の最新のプライマリアウトカムは6ヶ月、12ヶ月でのADAS-cog
(「6ヶ月」が論文では削除されている)
⇒実際に集まった患者群にTable1で示されている範囲で特に気になる偏りはないが、併存疾患は示されていない。平均年齢I76.9歳vsC78.1歳。独居I16%vs21%。
⇒介入の指示を守れた人とそうでない人をTable2で示している。やや男性が多いよう。
<批判的吟味>
・ランダム化:コンピュータで作成した乱数による。I群:C群=2:1。グループセッションがあるため、アンバランスなランダム化になった。
・マスキング:アウトカム評価者のみ
・真のアウトカム:代用
・アウトカムは明確?:明確
・ITT解析?:ITT
・サンプルサイズ:468名(20%は脱落する見込み)
・追跡率:I群85%、C群83%
<結果>
Table3より
ADAS-cog I vs C
開始時: 21.2 vs 21.4
6ヶ月: 22.9 vs 22.4 MD-0.6 95%CI:-1.6~0.4
12ヶ月: 25.2 vs 23.8 MD-1.4 95%CI:-2.6~-0.2
⇒1年後、有意差をもって介入群で悪化(臨床的意味のある差ではないが)
NIHR健康技術評価プログラムで公的資金を投じて行われた研究だが、認知機能の他QOLも測定している(医療技術評価の為QALYを測定したかったのだろう)が、そちらも有意差はなかった。
個人的感想「運動、キツ過ぎね?」
※この研究には4つほどコメントがついているので、一部を紹介
「4ヶ月間の介入後に評価されなかったため、著者は認知における中高度運動の効果について結論することができない」
いやいや、4ヶ月で認知機能に差がついたら、元の診断名が間違ってるでしょ!(アルツハイマー病は年単位で進行する疾患)
「この研究は認知症における身体活動の役割に関する多くの否定的な報道を生み出している」
こんだけの強度の運動を平均年齢76.9歳に課した部分を報道は考慮しないのね(;^ω^)
るるーしゅ先生から「るるーしゅが命じる!とにかく読め❕」と言われた緑内障治療薬の防腐剤に関するナラティブレビューを読んでみた
<背景>
前回の記事を投稿したところ、黒の薬剤師会の首領である「るるーしゅ先生」より以下のようにお題が与えられましたので、読んでみました。
るるーしゅ先生のブログ:黒の薬剤師会
なお、当ブログは強敵(とも)たちのブログには入れてもらってません(´;ω;`)
途中から初心者置き去りも辞さないクソブログになったことが原因でしょうか?
(´;ω;`)<初心者向けってどうやってやるの?
<お題論文>
Glaucoma therapy: preservative-free for all? - PubMed - NCBI
PMID: 29713138
コペンハーゲン大学病院の先生によるナラティブレビューです。
本ブログでナラティブレビューを扱うのは初めてです。たしか。
システマティックレビューと異なり、一定のストーリーのもとに文献が紹介されるため、研究の流れは読みやすいですが、あくまで著者の先生の意向に沿った文献しか紹介されません。
そのため、いつものような批判的吟味はできませんので、内容をかいつまんで紹介したいと思います。
頭の番号はリファレンスの番号です。
<内容>
・25.点眼使用者の角膜障害の有病率(横断研究)
→9658名(防腐剤の有無は関係なし)中74%に見られた。症状は防腐剤有り群で多かった。
Ocular symptoms and signs with preserved and preservative-free glaucoma medications. - PubMed - NCBI
・34.ラタノプロストの防腐剤入りと防腐剤無し製剤の直接比較(非劣性試験)Fig3,Fig4の図のもとになった試験
I:防腐剤フリーのラタノプロスト(T2345)
C:防腐剤入りのラタノプロスト(キサラタン)
O:平均IOP低下(84日)でT2345-8.6±2.6mmHg(-36%)vs キサラタン-9.0±2.4mmHg(-38%)で有効性では非劣性。
充血は T2345群21.4% vs キサラタン群29.1%; p=0.02
※全文フリーでないので確認できなかったが、Fig3の開始時のズレはなんだろう?ランダム化がうまくできてない?
・26.防腐剤入りチモプトールから防腐剤フリーのチモプトールへ切り替え
結膜充血の割合は24.4%から14.6%に減少。
※本論文中では「同じレジメン」と紹介されているが、アブストラクトを確認する限り防腐剤入りチモプトールは1日2回で、防腐剤フリーのチモプトールは1日1回投与。本文がフランス語で、要登録なので読めない(´;ω;`)
・36.防腐剤入りラタノプロスト(Xalatan)から防腐剤フリーのトラボプロスト(Travatan Z)へ切り替え
角膜上皮障害をOSDIスコアで比較したところBAK-free travoprost 0.004% group (score = 11.6 ± 10.8 units) vs BAK-preserved latanoprost 0.005% group (score = 14.4 ± 11.9 units)で防腐剤フリーの方がスコアが小さかった。
※トラバタンズの最後って大文字だったのか(;^ω^)<シランカッタ
・38.前回記事の論文。
アドヒアランス部分は省略。
「どんな患者がいい?」→角膜上皮障害(OSD)のある患者、高齢者、40代くらいの早発性緑内障、若年者の手術前のコントロール、PCつかう職場にいる人(ドライアイが多い)、リスクファクター持ち、女性、コンタクトレンズ使用者、アジア人(アジア人はドライアイが多い)
⇒要は全員じゃねえか
<まとめ>
防腐剤フリー推しのナラティブレビュー。
網羅性がなく本当に防腐剤フリーが優れていると結論していいのかは不明。
個人的に読んでいて気になったのは、「有害事象が多いとアドヒアランスは低下する。防腐剤フリーは有害事象が少なくアドヒアランスが良い」という論調だったが、薬剤効果の指標である眼圧(IOP)の低下に紹介された文献ではどれも防腐剤の有無は影響していないのだが、、、
解析が脱落を考慮しないPPS解析(試験完遂者のみの解析)だからだろうか?もちろんそんな考察も記載もないが。
「JJCLIP_#57 緑内障の点眼薬は防腐剤が無いほうがよいのでしょうか?」を予習してみた件
<はじめに>
来る6/10の21:00より薬剤師のジャーナルクラブ(JJCLIP)が開催されます。
視聴無料で、以下のリンクを踏むと視聴可能です。
(放送は1時間30分の予定。雑談などで30分はかかりますので、本編は21:30前後から開始と考えておくと、忙しいあなたでも視聴できます)
精神科薬剤師くわばらひでのり (@89089314) 's Live - TwitCasting
なお、コメントはツイッターかFacebookのアカウントがあればできます。
(過去放送分の録音も公開されていますので、是非ご視聴ください)
基本的に「初心者が、簡単に、医学論文を使いこなす」を解説付きで配信されていますので、「医学論文読めない~」というレベルでも十分楽しめます。
(大まかな内容をとるだけなら英語能力云々より、小1終了程度のアラビア数字の読解力だけで行けてしまいますが)
なお、本記事を読んでしまった方は、本配信中に「居酒屋抄読会参加者募集!7/7
札幌、7/21大阪梅田、7/28大阪天王寺、8/19新潟、8/25岡山」と宣伝お願いします。
<お題論文と仮想症例シナリオ>
JJCLIP_#57 緑内障の点眼薬は防腐剤が無いほうがよいのでしょうか? – よろず屋「雅(Miyabi)」のみたて
AHEADMAP共同代表の一人、山本雅洋先生のブログです。
配信の告知は上記ブログで行われますので、RSS登録がお勧めです。
PMID: 27041987
<シナリオの臨床疑問>
あくまで参考までに。
(JJCLIPでは臨床疑問の定式化をPECOにしていますので、本記事ではいつものPICOではなくPECOで記載しますが、内容は同じです)
P:緑内障の患者
E:防腐剤フリーの後発医薬品
C:防腐剤入りの先発医薬品
O:角膜上皮障害(有害事象)の発生は抑制できるか
で、先発医薬品に防腐剤が入ってて後発医薬品に防腐剤フリーがある緑内障治療薬
ミケラン、チモプトール、レスキュラ、キサラタン、ハイパジール、ミロル
防腐剤フリーの後発医薬品は日点のPF容器製剤がメインですね。
<論文のRQと概要>
P:ラタノプロストで角膜上皮障害が出た患者
本文より→18歳以上、症状2項目か症状1項目+症候1項目の合致、高眼圧か緑内障、ラタノプロスト治療6ヶ月以上、眼圧(IOP)22以下
E:タフルプロストへの切り替え
C:(C群の設定なし)
O:症状、眼圧、好み(プライマリアウトカムの明示はないが、サンプルサイズの計算が症状で行われているので、プライマリアウトカムは症状5項目と思われる)
⇒343名、男性37.6%、平均年齢67歳(23~88歳)、原発性開放隅角緑内障85.1%
タフルプロストの販売メーカー参天製薬の北欧子会社、サンテンオイ社の出資で行われた二つの切り替え試験を統合したメタ解析になります。
本論文の著者は二つの切り替え試験の研究者による合同チームです。
いつも読むのはシステマティックレビュー&メタ解析の論文ですが、本論文はシステマティックレビューをしていない純粋なメタ解析です。
全例切り替えのシングルアームの前後比較試験のメタ解析なので、C群がありません。
<方法論>
・評価者バイアス:本研究の著者グループ=2件の前後比較の研究者(すなわち、自分の研究の再解析)
・出版バイアス:自分たちの研究のまとめで、システマティックレビューではない
・元論文バイアス:単アームのオープンラベル前後比較。(評価するまでもなく低質)
・異質性バイアス:同一プロトコル。個人データの統合。(一応、異質性はなかったとの記載あり) そもそも、統計的に統合していない。
⇒全項目にbiasあり。
統合された試験
PMID: 20546237
と
RMJ Clin Ophthamol 2015:1-
(pubmedやgoogle schlarではヒットしない)
<結果>
baseline→6週→12週で表記。脱落27名(9名はAEで脱落)。結果で3名復活。
※訳は適当です。あと、6週のデータは本文になかったので手計算です。
table3より
・症状(軽症以上の割合)
刺激/熱感/刺痛:59.6%→21.7%→16.8%
異物感:39.8%→15.7%→13.9%
裂傷:40.7%→16.4%→15.2%
かゆみ:34.2%→16.4%→14.9%
ドライアイ:57.8%→25.2%→23.1%
・症候
眼瞼炎:60.2%→38.7%→34.2%
table4より
・症候
角膜フルオレセイン染色(グレードI〜IV):82.9%→54.7%→41.8%
結合性結膜フルオレセイン染色(グレードII〜VIII):87.9%→59.7%→50.9%
table5より
・症候
結膜充血度:1.51±0.76→0.86±0.59→0.72±0.59
本文にのみ記載あり
涙液分泌時間(tBUT):5.9±4.5秒→7.7±4.2→8.7±4.7
涙液分泌(Schirmer's test):7.8±6.9mm→10.6±8.6→11.5±8.4
IOP:16.6±2.6mmHg→16.0±2.3→15.7±2.5
不快感(開始時→12週):mild42%,moderate31%,sereve1%→mild22%,moderate2%
⇒すでにラタノプロストで有害事象を出ている人を集めタフルプロストに切り替えた比較対照のない前後比較試験のメタ解析。
脱落者を解析に含めないなど、試験デザイン上タフルプロスト有利な試験。
本結果がBAC(防腐剤)の有無なのか、ラタノプロスト→タフルプロストなのかはわからない。
⇒有症状なら切り替えの価値はあるかも。なお、本研究から角膜上皮障害の発生が予防できるかはわからない。
crossover試験を読む~スピオルト®レスピマットの実力は?(対スピリーバ)~
<はじめに>
ネットでたまたま見かけたVESUTO試験が全文フリーだったので読んでみたというだけの記事です。
「レスピマット」でお気づきの方がいるとは思えませんが、この試験のスポンサーはワタクシの大嫌いな某ベーリンガー社です。
そのため、「粉飾してるやろ、常識的に考えて」くらいの気持ちで論文を読んで記事にしています。
本記事を読むにあたっては、強烈なバイアスがかかっていることを理解していただけますようお願いいたします。
<急ぐ人向け結論>
プライマリエンドポイントである最大吸気量で有意差をもってスピオルトが改善しました。
でも、解析怪しい。。。
<お題論文>
PMID: 29750027
以下はプロトコル論文
PMID: 28537001
コッチは事前登録情報
<リサーチクエスチョン>
黒字はアブストラクト記載分。赤字は本文より追加分。
P:40歳以上の日本人COPD患者184名。GOLDstageⅡ~Ⅳ期(中等~重症)。
FEV1<80%、FEV1/FVC<70%、喫煙歴有りかつ10箱/年以上、MRC(息切れスケール)1点以上(1点=強い労作で息切れするレベル)6分間歩行テスト(6MWD)<400m
I:チオトロピウム2.5μg/オロダテロール2.5μg 1回2吸入、1日1回朝
C:チオトロピウム2.5μg 1回2吸入、1日1回朝
O:(プライマリ)6週間後の薬剤吸入1時間後のIC(最大吸気量)
(セカンダリ)薬剤吸入30分後のFEV1(努力性肺活量で最初の1秒間で吐き出した量の割合)、薬剤吸入30分後のFVC(努力肺活量)、薬剤吸入1時間後のSVC(肺活量)、6MWD、1日の歩数、4METs以上の活動時間、3METs以上の活動時間、2METs以上の活動時間、平均運動量(3MET以上)
(プロトコルにも事前登録にもないアウトカム)有害事象
※参考。MRCについて
http://www.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/046080593j.pdf
⇒実際に集まった患者層は、男性89.7%、平均年齢72.8歳、平均BMI22.2、平均罹病期間5.49年
<批判的吟味>
ランダム化:コンピュータで発生させた乱数。ベーリンガー社管理。
盲検化:二者(被験者、研究者) 解析はベーリンガー社。
真のアウトカム:呼吸困難の改善なら真に近い気がするが、ICの改善の程度と呼吸困難の相関がわからない
アウトカムの数:プライマリは1つ(プロトコルや事前登録情報からの変更はない)
ITT:Fig1より脱落7名が解析に回っていないことからper protocolと思われる。
プロトコル論文ではFASで解析することになっている(追跡が90%を下回るとper protocolに変更する予定だったよう)
サンプルサイズ:0.1Lの差を90%で検出=180名
<結果>
有意差があった項目は赤字。後付け解析は青字で記載。
肺機能(Fig2)
IC(プライマリエンドポイント)
スピオルト1.990L vs スピリーバ1.875L MD0.115L 95%CI:0.077~0.153
FVC 3.020L vs 2.857L MD0.163L 95%CI:0.130~0.197
FEV1 1.275L vs 1.169L MD0.105L 95%CI:0.088~0.123
SVC 3.096L vs 2.962L MD0.134L 95%CI:0.091~0.176
運動(Fig3)
total 311.5m vs 307.4m MD4.2m 95%CI:-6.2~14.5
以下、後付け解析
ベースラインでGOLDⅢ~Ⅳ 301.5m vs 283.4m MD18.1m 95%CI:2.3~33.9
6MWD完遂者 357.3m vs 346.6m MD10.7m 95%CI:4.2~17.3
活動量(Fig4):このFigは後付け解析
2METs以上の活動(着衣8時間未満は除く)191.5min vs 186.5min MD5.0min 95%CI:0.39~9.69
1日の歩数(着衣8時間未満は除く) 3871.1歩 vs 379.6歩 MD77.5歩 95%CI:-92.7~247.7
有害事象(Table2)
全有害事象:37.8% vs 34.6%
supplementalへ追いやられたセカンダリアウトカム
1日の歩数 MD9.5歩 95%CI:-155.7~174.7
4METs以上の活動時間 MD-0.3min 95%CI:-1.2min~0.6min
3METs以上の活動時間 MD0.9min 95%CI:-1.0min~2.9min
2METs以上の活動時間 MD2.3min 95%CI:-3.0min~7.5min
平均運動量 MD2.4min 95%CI:-4.6min~9.4min
⇒当初の予想通り、結果をよく見せるための粉飾が行われていた。(セカンダリで粉飾する意味が分からないのだけど)この辺りに安定と信頼のベーリンガー製臨床試験といった感じを受ける。
粉飾の手口としては、「解析方法の変更」「後付けアウトカム」「有意差のないアウトカム隠し」。脱落が小さいのでFASで解析しても、プライマリエンドポイントに有意差がつきそうな気がするがどうだろう?
とりあえず、結論は「スピオルトはスピリーバに比べて、呼吸は楽にするが身体活動性の改善まではもたらせない」だろうか。(元々の疾患の重症度の影響が大きそうだが)
COPDの臨床試験でよく見る「COPDの増悪」は、本研究では検討されていない。
これは、DYNAGITO試験で有意差が出なかったことによるものだろう。(疾患管理薬としてスピオルトはスピリーバを超えないと暗にメーカーが認めているということか)
※臨床試験の粉飾を扱った論説といえば、本ブログではたびたび登場するコレ!
医学書院/週刊医学界新聞(第3246号 2017年10月30日)
奥村泰之先生、いい仕事をしてくださいましてありがとうございます。