窓際さんのお勉強な日々

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ネットワークメタ解析チェックリスト改訂への道③~日本人統合失調症患者に対する抗精神病薬の効果比較~

 ネットワークメタ解析(NMA)チェックシートを改善すべく、どんどんNMAの論文を読んでいきたいと思います。

 

 お題論文は藤田保健衛生大学の岸先生のグループによる報告になります。

Comparative efficacy and safety of antipsychotics in the treatment of schizophrenia: a network meta-analysis in a Japanese population. - PubMed - NCBI

 

チェックシートに沿って、どんどん読み進めたいと思います。

 

先ずはアブストラクトから臨床疑問を定式化していきます。

 

P:日本人統合失調症患者

I/C:第二世代抗精神病薬ハロペリドールプラセボ

O:有効性(反応率)、忍容性(すべての理由による治療中断)

 

前回の論文と違い、とても素直なアブストラクトでした。

次は本文で追加情報を確認します。(追加分は赤字で表示)

 

P:日本人統合失調症患者

I/C:第二世代抗精神病薬アリピプラゾール(エビリファイ)、ブロナンセリン(ロナセン)、クロザピン(クロザリル)、クロカプラミン(クロフェクトン)、モサプラミン(クレミン)、オランザピン(ジプレキサ)、パリペリドン(インヴェガ)、ペロスピロン(ルーラン)、クエチアピン(セロクエル)、リスペリドン(リスパダール

ハロペリドールセレネース)、クロルプロマジンコントミンプラセボ

O:有効性(反応率:PANSS20~30%改善か全般改善度中等度以上改善)、忍容性(すべての理由による治療中断)

 

 組み入れ患者背景に追加情報がない(登録情報を見ても追加情報なし)のが気になる。診断基準は改訂を受ける上に、患者の年齢や疾患重症度の指定がないのも気になる。

 第二世代抗精神病薬の例としてクロカプラミンとモサプラミンが入っているが、分類違うような(;^ω^)

 後、反応率の基準が緩すぎてプラセボとの反応差が出るのかも心配。

 

あくまで数を読みこなすのが目的なので、疑問点は無視して次へ。

 

ステマティックレビュー(SR)の評価

 

・データベースはMEDLINE(本文のPubMedとなっているが、データベースの検索エンジンなので正しくはコッチ)、Cochrane Library、医中誌

検索語は薬剤名と「統合失調症」、検索期間は1970.1.1~2016.11.10

 

・元論文バイアスは二重盲検とPROBE(評価者のみ盲検化)のRCTに限定しているが、質の評価については言及がない。(登録情報ではRisk of Bias Toolで評価したとあるが、質への言及がない)

 

・評価者バイアスは二者独立で評価とあるが、意見対立時の解決についての記載がない。

 

・出版バイアスは言語が英語と日本語に限定。(日本人患者限定なので問題ないと思われる)添付文書の試験の組み入れの他、メーカーに問い合わせている。ファンネルプロットは集まった研究数が18なので、実施されていない。

 

異質性バイアスは事前登録はあるものの、登録番号は記載していない。

http://www.crd.york.ac.uk/PROSPERO/display_record.php?ID=CRD42016037307

対象患者はかなり広く、統合してよいのか疑問。

アウトカムは統合できるように設定されている。

 

 岸先生ってメタ解析の論文いっぱい書いてなかった?と思う程度には雑なSRという感じ。

 最初に読んだ論文が比較対照なので、ほぼすべての論文が「雑」評価になるという(;^ω^)<読む順番を明らかに間違えた

 

NMAの評価

 

・ネットワーク図はappendix3にあり、載っている図がすべてスカスカ。研究数やサンプルサイズも小さい。(日本人対象なので当然の結果)

 

・直接比較と間接比較を分けて記載していない

 

・不一致の組み合わせについて記載はあるが、そもそも一致率の検証が充分にできない

 

・COIの記載はある。研究資金は科研費で賄われている。

ランク付けはsupplement6にあるが、図に説明がなく読み方がわからない。

http://www.dovepress.com/get_supplementary_file.php?f=134340_6.pdf

 

で、結果

有効性の指標である反応率は、プラセボとの比較で有意差のあったものだけ示すと

オランザピン OR1.23(95%CI:-2.301~-0.149)

パリペリドン OR1.205(95%CI:-2.157~-0.2846)

忍容性の指標である全中止は、プラセボとの比較で有意差のあったものだけ示すと

オランザピン OR1.246(95%CI:0.3667~2.124)

パリペリドン OR1.275(95%CI:0.5335~2.023)

 

薬物治療の切り札クロザピン、有意差示せず。

 

 適応患者の縛りが一切ない状態なので、クロザピンのみ治療抵抗性患者が集まっていることは容易に想像できることと、反応率の基準が緩くわずかな改善を反応としてしまったことが響いたのではないかと思いますが、詳細は不明です。

 

最後に気になったことを一つ。

著者の中に統計を専門的にやっている人がいない。

日本では統計の専門家とかレアポケモンよりレアな存在なので、仕方ないか。

 

今回の検証ではチェックシートの改定はなし。

最新バージョンはver4のまま。

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