ネットワークメタ解析チェックリスト改訂への道⑤~抗菌薬による下痢の予防効果の高いプロバイオティクスは何か~
早速ですが一部チェック項目の順を間違えていたので、ネットワークメタ解析(NMA)のチェックシートを改訂しました。
Dropbox - ネットワークメタ解析チェックシートver7.pdf
今回は中華製NMAの論文を読んでいきたいと思います。
<今回の記事作成の背景>
中国では論文投稿ごとに特別ボーナスが出るらしく、論文の投稿数がものすごく多いですが、一方で質が問題視されています。
特に研究の二次解析であるメタ解析の分野は、きちんとシステマティックレビューをしたうえでメタ解析を行うととても大変なのですが、システマティックレビューとはとても呼べない適当な集め方をしており、その結果は読むに値しないほど信頼性の低いものしか出てきていないという現状があります。
信頼できない論文を「読む価値なし」と判定できることもチェックリストには求められていると考えているので、質の低いものは低いと評価できるかを検証する意味も込めて読んでいきたいと思います。
では、お題論文を
PMID: 29511547
先ずはリサーチクエスチョンを見ていきます。
P:抗菌薬服用者
I/C:プロバイオティクス
O:有効性、忍容性
Pがきちんと書いていないが、わからなくはないレベル。
本文で情報を追加すると
P:何らかの理由で経口抗生物質療法を受けた個人
I/C:プロバイオティクス、形態はサプリメント(カプセル、小袋)か食品(例:ヨーグルト)、対象菌種はTable1参照。()内のコメントは国内の販売状況を調べたものですが、漏れている可能性はあります。
Multi-genera II=Combinations of two types of genera (Lactobacillus + Bifidobacterium, Lactobacillus + Streptococcus, Bifidobacterium + Streptococcus, Bifidobacterium + Clostridium)
Multi-genera III =Combinations of three or more types of genera (Lactobacillus + Bifidobacterium + Streptococcus, Lactobacillus + Bifidobacterium + Enterococcus, Lactobacillus + Bifidobacterium + Lactococcus + Saccharomyces + Leuconostoc, Lactobacillus + Bifidobacterium + Propionibacterium)
LGG =Lactobacillus rhamnosus GG(ヨーグルト)
L. rhamnosus =Lactobacillus rhamnosus species except for Lactobacillus rhamnosus GG
L. casei =Lactobacillus casei species (ビオラクチス、ヤクルト系)
L. acidophilus =Lactobacillus acidophilus species(サプリメントのみ)
L. reuteri =Lactobacillus reuteri species(輸入系サプリメント)
L. plantarum =Lactobacillus plantarum species(漬物、キムチ、ザワークラウト)
B. clausii =Bacillus clausii species(該当商品無し)
S. boulardii =Saccharomyces boulardii species(輸入系サプリメント)
O:有効性→下痢の発生率(下痢の定義は個々の研究に依存)、Clostridium difficile 感染率
忍容性→全有害事象の発生率
実際に集まったのは平均43.2歳、男性比率59.5%。介入群の男性の比率次第で結果がゆがみそう。
PICOがたったら、システマティックレビューの評価へ
データベース:Medline(PubMed)、Embase、Cochrane library 、 Web of Science
検索語:プロバイオティクス、菌種、ヨーグルト、抗菌薬、下痢
検索期間:1996.1.1~2016.12.31
・元論文バイアス
RCTのみ。 Risk of biastoolで評価したとあるが結果の記載はない。
・評価者バイアス
三人が独立して評価。意見対立時は共同してレビュー(権威勾配で評価が歪みそう)
・出版バイアス
言語制限なし。参考文献は追っている。専門家連絡はなし。funnel plotという単語はあるがやったと思われる痕跡はない。
・異質性バイアス
事前登録はされている。(CRD 42016050776)、Pの近似性は不明。アウトカムは定義がバラバラではあるが統合可能なものを選択していると思われる。
http://www.crd.york.ac.uk/PROSPERO/display_record.php?ID=CRD42016050776
Supplementary Materialが公開されていないので、評価しようのない項目が多々存在する。書いてある項目だけならきちんと記載はされている印象。
ネットワークメタ解析の評価
・ネットワーク図
全アウトカムについて示されている。閉じた環(closed-loop、ようは介入群で三角形が描けているかどうか)はとても少ない。
・直接、間接比較
示されていない。もっとも、示すことができるほどの閉じた環もないが。Table2とTable3で示されているのはプラセボ比で、ここでいう比較(head-to-headの結果と第三者を介して推定した結果が一致するかを評価する)とは異なる。
・一致性
不明。評価できるほどの閉じた環がない。
・資金源、COI
ともに記載はされている
研究そのものが少なく、いかんともしがたいといった感じ。
結果(ランク順に記載)
・下痢の発生率(プライマリアウトカム)
LGG 0.28(0.17~0.47)
L. casei 0.29(0.13~0.68)
L. plantarum 0.83(0.22~3.20)
S. boulardii 0.41(0.29~0.57)
L. acidophilus 0.57(0.43~0.76)
・Clostridium difficile 感染率(セカンダリアウトカム)
L. casei 0.04(0.00~0.77)
L. acidophilus 0.20(0.08~0.48)
・全有害事象の発生率
L. reuteri 0.33(0.08~1.42)
L. plantarum 1.04(0.20~5.29)
LGG 0.44(0.23~0.84)
L. plantarumの謎の躍進っぷりが気になる。
体裁だけなら意外ときちんとしている印象。
但し、本研究の結果の確信性は高くない。