フェブキソスタットの心血管イベントを評価した論文読んでみた(CARES)trial
FDAより心血管死がフェブキソスタット(商品名:フェブリク)でアロプリノール(商品名:ザイロリック)より多かったとの情報が流れたものの、論文化されておらず評価できないままになっていました。
販売メーカーのMR(医療情報担当者)さんに聞いても、現場にはそもそも情報が来ていないのでわからないとのお返事をいただいていました。
事の発端はFDAでフェブキソスタットが承認された際の臨床試験で心血管イベント(CV)がフェブキソスタット群で多い傾向がみられたことにあります。
ロシグリタゾンで心血管イベントが増えるという報告から、プラセボ対照非劣性試験での心毒性評価が求められていましたが、今回もその流れの一環にありそうです。
なお、フェブキソスタットの心毒性は日本国内では積極的に周知されていません。現場的に使用しづらさに定評のあるRMP(医薬品リスク管理計画)に記載がある程度のため、知らない医療関係者も多いのではないかと思います。
※RMPの内容を情報提供しているMRさんを見たことがないのですが、僕だけでしょうか?
フェブキソスタットの心毒性に関する国内の状況は以下のリンクが詳しいと思いますので、よろしければご参照ください。
フェブキソスタットで心関連死のリスク上昇? | ぼうそう医薬情報室
で、今回のお題論文はコチラ
www.ncbi.nlm.nih.gov
PMID: 29527974
※「Free full text」となっていますが、NEJMのアカウントを持っていないと読めないようです。
詳しい結果以外の試験の概要はこちらで把握できます。
P:50歳以上の男性または55歳以上の女性で、少なくとも1つを含む主要なCVまたは脳血管疾患の病歴を有する米国リウマチ協会の基準を満たす痛風
I:フェブキソスタット40mg開始、最大80mgまで(腎機能による投与量の調整なし)
C:アロプリノール300mg開始、最大600mgまで(推定クレアチニンクリアランス30~60mL/minなら200mg開始、最大400mgまで)
両群とも血清尿酸値が6.0mg / dL未満が目標
O:主要有害心血管イベント(MACE):心臓血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、不安定狭心症の再灌流術
非劣性マージン1.3
4者ブラインド(Quadruple :Participant, Care Provider, Investigator, Outcomes Assessor)のRCT。
実際に集まった患者集団は平均64歳、65歳以上が半分くらいで、男性が80%強、尿酸値が8.7mg/dL、BMI33.5前後、9割以上高血圧・脂質異常症を合併、CKDstage1~2が75%。
結果
フェブキソスタット335 人 (10.8%) 対アロプリノール321 patients (10.4%)
hazard ratio(HR), 1.03; upper limit of the one-sided 98.5% confidence interval (CI), 1.23
ということで98.5%CIの上限値が1.3を上回らなかったので非劣性。
ここまでが試験の主な結果ですが、注目されたのはMACEの中身。
心血管死:HR1.34 [95% CI, 1.03 to 1.73]
全死亡:HR1.22 [95% CI, 1.01 to 1.47]
有意差がついたのが「死亡」に関する部分だったという点です。
もう一つ気になるのが試験中断率の多さ
試験中断:フェブキソスタット57.3% 、アロプリノール 55.9%
受診(検査等臨床試験で実施機関に患者が赴くことが定められているのだが、それを辞めた率):フェブキソスタット45.0% 、アロプリノール 44.9%
mITTのため解析に脱落者も含まれるが、扱い次第では結果が変わりかねない。
脱落理由の内訳がSupplementary AppendixのFigS1に記載されているので抜粋すると、
フェブキソスタット中断57.3%のうち、同意の撤回22.5%、有害事象14.6%、lost to follow-up6.9%
アロプリノール中断55.9%のうち、同意の撤回21.6%、有害事象14.4%、lost to follow-up6.6%
受診中断
フェブキソスタット45.0%のうち、同意の撤回19.2%、有害事象6.2%、lost to follow-up7.3%
アロプリノール 44.9%のうち、同意の撤回19.0%、有害事象5.6%、lost to follow-up7.2%
フェブキソスタット群3101名のうち3098名、アロプリノール群3097名のうち3092名が解析に回っている。試験プロトコルで脱落者の扱いを確認すると、「電話→手紙」でコンタクトをとるとはなっているが、統計的処理については触れられていない。
※なお第三相臨床試験の脱落を見てみると、ほぼゼロ。
ディスカッションでもこの脱落の多さへの言及はあるが、「両群同程度の脱落で問題なし」とまるで説明になっていない。
脱落者の扱い如何で評価が変わる可能性が高く、この結果をもって安全とは言い難い。死亡も同様の理由で確信性が低く、直ちに行動を起こすようなものではないと考えてはいるが、今後の報告次第だろうか。
ここからは推測なのでご注意ください。
仕方ないので、治験で脱落の少なかった薬剤でここまで脱落した理由を考えてみたい。
脱落理由で最も多かったのは同意の撤回。
Supplementary Appendixに脱落者の国別内訳が示されている。(この試験自体はアメリカ、カナダ、メキシコで行われている。のちにカナダが除外されているが理由は不明)
フェブキソスタット群:アメリカ2651人中1081人、カナダ68人中20人、メキシコ379人中48人
アロプリノール群:アメリカ2655人中1102人、カナダ72人中13人、メキシコ355人中53人
脱落者の多くがアメリカに集中している(人数、率ともアメリカが群を抜いて多い)
この心血管安全性評価試験が計画されたのがFDA承認の1年後の2010年。
Febuxostat: the evidence for its use in the treatment of hyperuricemia and gout
一般への情報提供が行われたのがいつ頃かは不明(調べても出てこなかった)だが、試験企画当時まだ安全性への懸念が一般に広まっていなかったのではないだろうか?
同意取得前に、薬剤の心毒性への懸念を十分に伝えなかった結果、後から同意の撤回が増えたのではないだろうか?
(武田はピオグリタゾンで心血管リスクの高い人を組み込んだ試験を通した実績がある)
余談
この件の影響かわからないが、順調に株価下がってる。
(武田)
(帝人)