費用対効果の論文(Cost-Effectiveness Analysis=CEA)チェックシート改訂への道①~過活動膀胱に対するソリフェナシンの費用対効果は?~
<背景>
以前公開したCEAチェックシートを改訂すべく過活動膀胱(OAB)に対するソリフェナシンの費用対効果の論文を読んでみることにした。
Dropbox - 費用対効果チェックシートver1.pdf
<お題論文>
PMID: 29686801
この論文は、イギリスで承認を受ける際にメーカーが提出するCEA報告です。
<ざっくり結論>
著者「ソリフェナシン5mg/日は他の抗コリン薬より費用対効果高かったよ~」
僕「コストを安く見積もったからってだけじゃないっすか?」
<リサーチクエスチョンは?>
チェックシート(チェックリスト)に従ってアブストラクトから抽出すると
P:過活動膀胱の患者
I:ソリフェナシン5mg/日(日本ではベシケア5mg/日なので、日本と同じ用量)
C:他の経口抗ムスカリン薬
O:ICER(効果はQALYで測定、QOL値はEQ-5Dで計測)
本文メソッドより追加の内容を拾うと(追加情報は赤字)
P:過活動膀胱の成人患者
I:ソリフェナシン5mg/日(日本ではベシケア5mg/日なので、日本と同じ用量)
C:他の経口抗ムスカリン薬
→主たる比較対象として、トルテロジン徐放4mg(デトルシトール)
→サブの比較対象として、フェソテロジン4mg・8mg(トビエース)、オキシブチニン10mg(徐放・速放 ポラキス)、ソリフェナシン10mg、TolterodineIR4mg、トロスピウム(スパスメックス、日本では販売中止)
O:ICER(効果はQALYで測定、QOL値はEQ-5Dで計測)
用量が日本と同じ薬剤が多い
<方法の評価>
・分析の立場:NHS(保険支払者)
・分析期間:5年
・割引率:年率3.5%
・コスト見積もり:Table2に記載
・見積もりの根拠:主に公的機関からのプレス発表。リソースの見積もりはアステラスの資料
・価格:ポンド(2015~2016年)
・モデル:マルコフモデル
(TableS1は治療の流れ。状態遷移を含めたモデルの提示無し)
・パラメータ:Table1に記載
・パラメータの根拠:治療効果はネットワークメタ解析。状態遷移についてはミラベグロン(ベタニス)のCEAより引用している。副作用で中断した後の再開率5.6%は仮定の数値
パラメータの設定根拠はバイアスの入りやすいものなので注意が必要か
<結果とその頑健性>
・ICER(Table3):1QALY増加に必要なポンド
→ソリフェナシン5mg/日が優位を示したもの:トルテロジン徐放4mg、フェソテロジン4mg・8mg、オキシブチニン10mg(徐放)、ソリフェナシン10mg
→オキシブチニン10mg(速放)22393、TolterodineIR4mg 23975、トロスピウム 15007
・不確実性
→トルネード図による分析(結果に影響を与えた因子):AEによる中断(仮定値)
→散布図:優勢に偏っている
・異質性:記載なし
・閾値:3万ポンド
・資金源:公開されている(アステラス)
・COI:公開されている(著者はアステラス社員)
優位の根拠は有効性の差ではなく、コストの見積もりの差(ほぼ差はない)
<個人的結論>
当然のごとく入っているスポンサーバイアスを考えれば、どの薬剤を用いても費用対効果の面で差はないと考える。
<チェックシート改訂>
改訂内容
検索に使えるキーワードを追加:分析期間(time horizon)、マルコフモデル(Markov)
閾値に有無をチェックするボックスを追加
Dropbox - 費用対効果チェックシートver2.pdf
是非、ご活用ください!