窓際さんのお勉強な日々

こそっと論文読んで、こそっとメモ

第16回神戸薬科大学Student CASP ワークショップのお題論文を予習してみた

<はじめに>

 

 今回の記事は来る2018/6/3に神戸薬科大学で開催されるStudent CASP ワークショップのお題論文を予習し、その結果のメモ的記事になります。

 当日参加される方は、あくまで記事は僕個人の意見であり、この意見に引っ張られないようにご注意ください。

 「どうしても引っ張られちゃう」という方は、自己紹介中に「居酒屋抄読会、参加者募集!」と大きな声で言うようにしてください。

 そんな宣伝嫌!という方は、「おっぱい!」でも構いません。ミッションを達成することにより、僕の意見に引っ張られることはなくなるはずです。

 

<お題論文>

 

A Cluster-Randomized Trial of Blood-Pressure Reduction in Black Barbershops. - PubMed - NCBI

PMID: 29527973

この論文一言で言うと「散髪屋さんで薬剤師vs理容師で血圧管理のデキを比較してみた」ですね。

さっそく読んでいきましょう。

 

<リサーチクエスチョン>

 

研究仮説を確認しましょう。

アブストからの情報は黒字、本文からの追加情報は赤字で示します。

 

P:収縮期血圧140mmHg以上の非ヒスパニック系黒人男性。35~79歳。2回のスクリーニングで収縮期血圧140mmHg以上6ヶ月以上の期間に6週間に1回以上理髪店を利用する常連客

I(E):薬剤師介入(血圧測定。抗高血圧レジメンに沿った薬剤の処方。生活習慣指導。電解質レベルのモニタリング月1回面談。月4回電話相談。面談毎に受診・薬剤費として25ドルの支給

※抗高血圧レジメン:①アムロジピン+ACE阻害薬かARB→②インダパミドなどチアジド系利尿薬→③アルドステロン拮抗薬 (医師の指示があった場合は別のクラスの薬剤に変更可)

C:理容師による生活習慣改善指導(パンフレット渡す)。受診勧奨。

O:6ヶ月後の収縮期血圧

 

事前計画(NCT02321618)より変更有り。以下は元の情報。

P:40~79歳。黒人男性(非ヒスパニックの限定無し)。理髪店利用頻度は1年で8回。

O:収縮期血圧の8mmHg以上の改善。セカンダリは12か月後の収縮期血圧の6mmHg以上の改善。

なお、アウトカム(エンドポイントと同じ意味で両者をごちゃまぜで使っています)は全データの収集解析後の2018/2/7に行われている。

 

<批判的吟味>

 

盲検化:不可能

アウトカムの数は:1つ

真のアウトカム?:代用

サンプルサイズは?:6ヶ月で6.9mmHgの差を検出する参加者数として500人と見積もり(実際に参加したのは319人)

脱落:全体で5%

ITT解析?:どんな解析法だったか不明。ITTもおまけで使っている。

⇒ベースラインに大きな差は見られないが、介入群の方がより低所得者が多いように見える。

 

<結果>

 

プライマリエンドポイント(6か月後の収縮期血圧のベースラインからの変化)

介入-27.0±13.7vs対照-9.3±16.0 MD-21.6(-28.4~-14.7)

 

以下、セカンダリエンドポイント

拡張期血圧:介入-17.5±11.0vs対照-4.3±11.8 MD-14.9(-19.6~-10.3)

薬剤数:介入2.6±0.9vs対照1.4±1.4 MD1.9(1.3~2.4)

服用割合

ACEiもしくはARB:98.5%vs41.5% RR2.4(2.0~2.8)

CCB:94.7%vs32.7% RR3.0(2.4~3.6)

利尿薬:46.2%vs28.7% RR1.6(1.3~2.1)

アルドステロン拮抗薬:10.6%vs1.2% RR7.0(2.5~19.2)

有害事象は両群で差はなかった。

 

⇒薬剤師介入群の方がたくさん薬を服用し、血圧が下がったという結果。

介入の中でも25ドルの支給が一番効いたのでは?と思ってしまう。

(低所得層が多く、受診・服薬がままならないので)

 

ここまで差があると、元のプライマリエンドポイントでも有意差が出そうだが、解析後にプライマリエンドポイントを差し替え、セカンダリエンドポイントを多数追加している。より結果をよく見せるための印象操作?

(なお、消されたセカンダリエンドポイントは延長試験のプライマリエンドポイントとして復活している。)

 

あと結果の解釈と関係ないかもしれないが、研究協力がUniversity of California, San Francisco、Charles Drew University of Medicine and Science 、University of Southern California 、Kaiser PermanenteからNational Institutes of Health (NIH) 、National Heart, Lung, and Blood Institute (NHLBI) 、The California Endowment 、Lincy Foundationと公的な機関に差し替えられている。なぜだろう?

 

 ただ、高血圧治療に最も抵抗性の高いと言われている黒人男性でここまでの降圧効果を示したのはすごいことなので、それが本論文の新規性といったところだろうか。

 注意が必要なのは、継続中の延長試験も含めて血圧という代用のアウトカムの評価だということ。心血管イベントを防いだわけではない。(黒人男性は血圧のコントロールが十分できず次々と心血管イベントを起こす層ではあるのだが)

 

 個人的な印象ではあるが、一番大事なのは自身の健康に気遣えるだけの最低限以上の収入ではないかと思う。(自分のスカスカな財布の中身を見ながら)