窓際さんのお勉強な日々

こそっと論文読んで、こそっとメモ

逆行性射精に対するアモキサピンの効果

<はじめに>

 

 アモキサピンアモキサン)が逆行性射精に公知申請が通ったとのことで、その効果を検証した論文を読んでみることにしました。

 

保医発 0928 第3号平成 30 年9月 28 日 

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月刊・保険診療 2018年10月 第73巻・第10号

 

 薬剤師的にはシロドシン(ユリーフ)の副作用が有名でしょうか。(僕はまだシロドシンによると思われる逆行性射精を見たことはないですが)

 有名といっても「薬理学的に」というだけで、全例で発症するようなものではないのでご注意ください。

ユリーフインタビューフォーム2016年8月改訂(第9版)

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<お題論文>

 

Randomized Crossover Trial of Amoxapine Versus Vitamin B12 for Retrograde Ejaculation. - PubMed - NCBI

PMID: 28266821

(事前登録情報はない)

 

<批判的吟味>

 

①RQ

 

P:18~60歳の逆行性射精(一次、二次問わず)の患者26名(1名脱落)

 

A(介入):アモキサピン50mg1日1回 (アモキサン

 

B(対照):ビタミンB12 500μg 1日3回 (大塚の製品と本文中にあったが、大塚製薬は医療用ビタミンB12の経口剤を販売していないので、ネイチャーメイドB12を使った?)

 

※介入・対照群の書き方は本文に準拠した

 

O:患者報告による逆行性射精の改善率

 

⇒実際に集まった患者背景は28~54歳、罹病期間0.17~25年、一次3名、二次22名、既婚11、未婚14

 

②方法

 

ランダム化:乱数表→封筒法。クロスオーバー

 

盲検化:なし

 

施行バイアス:不明

 

ITT:不明 脱落1名(離婚による?) 追跡率96.2%

 

サンプルサイズ:探索的研究なので計算していない

 

Fig2の試験の全体図がちょっと違うので勝手に訂正

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③結果

 

改善率 A80% B16% P<0.001

勝手にRRを計算すると0.2

 

なお、COI:なし、資金源:日中笹川医学奨学金制度

 

<まとめ>

 

 少人数の被験者による探索的研究なので、実際にここまでの効果がみられるかは不明。

改善率はあくまで患者報告なので、本当に逆行性射精が改善したのかはわからない。

逆行性射精 - 21. 男性の健康上の問題 - MSDマニュアル家庭版

 自分が患者なら、副作用云々を考えるとイミプラミン(現行治療)より先にチャレンジしてはみたいとは思う。

 

<おまけ>

 

①封筒法

 自分の割り付けたい群に当たるまで封筒を破って捨てたという違反が過去にあったため、割り付けの隠蔽化の観点からすでに廃れた手法という印象。

 違反内容だけ覚えていて、実際何の研究で違反が起きたのか知らなかったので調べてみたら一番最初にヒットしたのが「丸山ワクチン

 

医学論文の質の評価方法と実例

 

natrom.hatenablog.com

より

「中里博昭、小池明彦、市橋秀仁、尾関一郎、渡辺晃、鈴木正康、榊原日出夫、蟻須賀喜多男、小田博
胃癌非治癒切除および切除不能症例に対する人型結核菌体抽出物質(SSM)の臨床比較対照試験成績
基礎と臨床;17:293-309,1983」

だったと判明。

 

 他にもあるかもしれないので、この辺りの事情のにも詳しい先生が集う「エビデンス精神医療研究会」(Health Promotion and Human Behavior : Kyoto University)で聞いてみます。

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抗精神病薬と逆行性射精

 今回の研究では薬剤性逆行性射精症の患者さんは除外されていました。

その除外対象薬剤の中に表記の抗精神病薬が入っていました。

抗精神病薬(特にリスペリドン)で性機能障害の訴えがあれば真っ先に「高プロラクチン血症」が浮かぶと思いますが、実際プロラクチンの上昇を伴わない性機能障害が報告されています。

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(2019/1/13検索)

その時のメカニズムとして考えられているのがα1受容体遮断作用です。

泌尿器科医や薬剤師なら簡単に気付ける範囲の問題ですが、精神科ではなかなかそこまで気づかずに症例報告に至るようです。

 

いつの間にか刷り込まれた抗精神病薬による性機能障害=高プロラクチン血症」からの脱却にこの論文は良いのでは?と思い紹介してみました。

 刷り込まれていたのが僕だけという可能性も捨てきれないですが(;^ω^)