コリンエステラーゼ阻害薬とメマンチンの認知症(アルツハイマー型に限らず)への効果は?
<はじめに>
記事として書こうと読んでいたら、思わぬところで躓いてほったらかしになっていた論文になります。
来る2/24の岡山CASPワークショップのお題論文になっていたので慌てて書くことにしました。
<お題論文>
PMID: 29734182
事前登録
https://www.crd.york.ac.uk/PROSPERO/display_record.php?ID=CRD42015025892
<読んでみた>
①RQ
P:認知症 ⇒Alzheimer disease (AD), vascular dementia (VaD), Parkinson disease dementia (PDD), dementia with Lewy bodies (DLB), frontotemporal dementia (FTD)
I:コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)、メマンチン
C:プラセボ
O:MMSE
②方法
データベース:Web of Science、MEDLINE、EMBASE、PsycINFO、CINAHL
検索期間:~2017.3
検索語:donepezil、galantamine、rivastigmine、memantine、Alzheimer*、vascular dement*、lewy* bod*、Parkinson* disease dement*、RCT
元論文:RCT Cochrane risk of bias toolで評価(low risk 14/80、unclear 21/80、high risk21/80)
評価者:二者独立(直接的な記載ないが)→協議
出版:英語のみ、参考文献・未出版→ICTRPなどを検索している、専門家連絡は記載なし、Fig3のFunnnel plotを見ると出版バイアスはありそう
③結果(80研究、88報)
Table1(集まった研究)
ドネペジル40件、ガランタミン13件、リバスチグミン14件、メマンチン13件
AD55件、VaD9件、AD+VaD4件、PDD or DLB10件、FTD3件
コリンエステラーゼ阻害薬:73.8歳 MMSE18.6、メマンチン75.9歳 MMSE16.5
※以下からMMSEの平均変化量(MD)+95%CIで表記。すべてRandom-effect model
Fig2(コリンエステラーゼ阻害薬、3か月)
ドネペジル3~5mg:1.15(0.69~1.61) I2=85.0%
ドネペジル10mg:1.07(0.91~1.23) I2=0%
ガランタミン:1.10(0.83~1.36) I2=75.1%
リバスチグミン:0.98(0.82~1.63) I2=68.4%
コリンエステラーゼ阻害薬計:1.08(0.92~1.23) I2=82.4%(2/24追記:本文では68.2%)
Fig4(コリンエステラーゼ阻害薬、6か月)
ドネペジル5mg:1.52(0.74~2.30) I2=89.8%←効果推定値0.47~1.44で収束していない
ドネペジル10mg:1.13(0.94~1.33) I2=0%
ガランタミン:1.39(0.79~2.00) I2=93.8%
リバスチグミン:0.69(0.43~0.95) I2=59.1%
コリンエステラーゼ阻害薬計: 1.00(0.83~1.16)I2=69.9%
※ドネペジル5mgのsubtotalの値が収束しておらず、フォレストプロットを見ても視覚的にもおかしくなっている。
2/9にAHEADMAP幹事の岡本先生に相談したところ、結婚式4次会(カラオケ)返上で精読していただけた。結果、ドネペジル5mgと10mgのsubtotalの値が入れ替わっているのではないかとのご指摘をいただいた。岡本先生、ありがとうございます。
2/24追記:南郷先生より入れ替わっているというより謎操作で効果推定値が高く見積もられたのではないかとのご指摘をいただきました。
RevManで色々再現できないか試しては見たものの結局何が起こって変なことになっているのかわかりませんでした。
Fig5(コリンエステラーゼ阻害薬、12か月、試験数が少なすぎてI2表示できず)
ドネペジル10mg: 1.52(0.38~2.66)
ガランタミン:0.58(0.27~0.90)
リバスチグミン: 1.40(1.12~1.68)
コリンエステラーゼ阻害薬計:1.10(0.48~1.72) I2=79%
Fig6(メマンチン)
3か月: 0.65(0.37~0.94)I2=0%
6か月: 0.40(0.05~0.75)I2=19.7%
12か月: 0.41(-0.44~1.26)I2=0%
2/24追記:フォレストプロットで同一研究でいくつも箱ひげが描かれている。どうやら同一試験内の用量違いを別個にプロットしたようだ。ただ、Fig2ではひげの書き忘れも見られる。
<まとめ>
平均してMMSEで1点前後の改善となったが、このくらいの変化では多くの人で効果を実感できないだろう。
使ってみて効果(介護者の介護負担感の軽減など)を感じたら継続、効果が見られなければ他剤へ変更・中止といったところが現実的だろうか。(薬剤服用=治療と考える人が少なくないので、配慮のない中止は危険だが)
もちろんコリンエステラーゼ阻害薬もメマンチンも「見かけの」認知症進行抑制効果しか持たないので、こういった薬剤を「認知症治療薬」と呼ぶのには個人的に違和感があるのだが。
この研究は認知症の種類を問わずに統合してしまっているので、薬剤効果の出にくいタイプの認知症と出やすい認知症での効果をごちゃまぜにしていることにも気を付けたい。
2/24追記:CASPワークショップでは本研究に対して「雑な仕事」ということで参加者間の評価は一致した。