窓際さんのお勉強な日々

こそっと論文読んで、こそっとメモ

チオトロピウム製剤(スピリーバ🄬)のデバイス間の差。ネットワークメタ解析

 去る9/24にJJCLIPでスピリーバ🄬のデバイス間の安全性を検討した非劣性試験かつ優越性試験(TIOSPIR)の配信がありました。

JJCLIP_#48 チオトロピウムのレスピマット製剤はカプセルと比較して安全なのでしょうか? - クスリのよろず屋「雅 (Miyabi)」の見立て

 P:COPD患者

 E1:スピリーバ🄬レスピマット2.5μg/日

 E2:スピリーバ🄬レスピマット5μg/日  

 C:スピリーバハンディヘラー18μℊ/日

 O1:死亡(安全性、非劣性マージン1.25)

 O2:COPDの初回増悪(有効性、優越性試験)

⇒有効性、安全性共にデバイス間に有意差なし

(詳しくは録画がありますので、そちらを参照してください)

 

 個人的には、生まれて初めてメーカーからの製品説明でブチ切れた根拠の一角を担う思い出の論文です。

 また、青島先生(@syuichiao89)、D.TNK先生(@phdai)と初めて大分でお会いした時、青島先生への質問の元ネタにした論文でもあります。

 バックグラウンドでもサラッと書いてありますが、ハンディヘラーがプラセボに対して死亡を減らした(UPLIFT study PMID:27176208、21678045 死亡はセカンダリアウトカム)けど、レスピマットがプラセボに対して死亡を増やしたというメタ解析(PMID:21672999、23042705)が報告されていました。

 *メタ解析についての解説はこちらの先生の記事が詳しいです。→

スピリーバ・レスピマットの安全性疑惑: メタアナリシス 死亡率52%増加 : 内科開業医のお勉強日記

 なお、上で紹介した記事は青島先生、忍者先生(@ScreamTheYellow)をEBMの世界に誘った記事でもあります。

 JJCLIP本編中でもコメントしましたが、割と論文のバックグラウンドはデマに近い内容になっています。この研究が始まったのが2010年であり、上記メタ解析が初めて世に出たのは2011年だからです。

 メタ解析後にアウトカムに変更がありましたが3年→1年への変更のようです。

(募集当初から心血管ハイリスク患者の除外は行われていたのかを調べたくてプロトコールの変更履歴を見ていましたが見つかりませんでした。見つけた方は教えてください。https://clinicaltrials.gov/archive/NCT01126437 )

(おまけ:レスピマット群で、もとは1回1吸入1日2回だったのが1日1回2吸入に用法が変更になっている。プラセボを用いたダブルダミーになったのは途中から。)

 *もし募集要項に変更がなくて、心血管ハイリスク患者を除外して募集していたなら、TIOSPIR開始時点でメーカーはスピリーバの危険性を認識していた疑いが出てくるので。

 とりあえず、記事にしたついでに何にブチ切れたかも書いておこうと思います。

 死亡増加のメタ解析について一言も触れなかったメーカーがTIOSPIRの報告後「懸念の事項は解決しました」とか笑顔で抜かしたからです。当時の僕は論文の読み方も知らないEBMに目覚めてもいない雑魚薬剤師でしたが、メタ解析の論文を読んで、呼吸器専門のクリニックからのレスピマットの持参薬を各ドクターに説明・了承を得てハンディヘラーに切り替えていたので。(なお、薬局の同僚上司からの理解は得られませんでしたので、直接説得しましたw 当時はクソすぎると怒りも感じていましたが、今となっては良い思い出です)

 

前置きが長くなりました。(前置きを書くのに疲れました)

 

 今日の記事の本題は、チオトロピウム製剤のデバイス間の差を検討したネットワークメタ解析です。

Tiotropium formulations and safety: a network meta-analysis. - PubMed - NCBI

 

 僕はこの分野の専門家でもないので、解説間違ってたらツッコミお願いします。

このブログでネットワークメタ解析を扱うのは2回目ですね。

 一部使えない部分(メタ解析では直接比較と間接比較の一致性を考えます。また通常のメタ解析で問題になる非直接性は微妙です)はありますが、批判的吟味には通常のメタ解析の批判的吟味で良いと思います。

(ですので、本文中にPRISMA声明に従ったとの文言が出てきます)

 

 では、お決まりの疑問の定式化から

P:COPD患者

E1:スピリーバ🄬レスピマット2.5μg/日

E2:スピリーバ🄬レスピマット5μg/日  

E3:スピリーバハンディヘラー18μℊ/日

C:プラセボ

O:①有害事象②重篤な有害事象③死亡

 

 アブストラクトでPECO立てできないので、この時点で少し残念な論文ですね。

次にバイアスのチェックをしましょう。

 言うまでもないとは思いますが、メタ解析は既存の報告を統合して解析するので、とってもバイアスが入り込みやすいという構造的弱点を有しています。 

 

 評価者バイアス(論文を選ぶ人によって生じるバイアス)

→「Two reviewers independently ~」とあるので一先ずは大丈夫。意見の対立は第三者を挟まず相談って大丈夫なのかな?評価者間の権威勾配がどうなっているのかはわからない。

出版バイアス(網羅的に探した?偏りなく探せた?)

→ 探したのは「PubMed and Google Scholar」正直心もとない。せめてCENTRALくらいは追加で確認してほしいところ。で、実際に集まったのは「 38 published and unpublished studies including 44 RCT」とあり、「The Egger’s test did not find any asymmetry (p > 0.1)」と結果の項に記載があるので、集まった論文に偏りはなかったよう。

元論文バイアス(組み入れた個々の研究の質)

→「The Jadad score」を用いたとある。正直今更こんな古臭いスコアで評価しましたとか言われましても…ねぇ?マリオ先生?ランダム化、盲検化、脱落の記載で5点満点のスコアですよ。RCTなら普通2点は超えるんですが(;´・ω・) CENTRALを検索で回避していたり、GRADEシステムではなく古臭いスコアリングを持ち出したりと、コクランになんか恨みでもあるんですか?

異質性バイアスはネットワークメタ解析では使わないというか使えない

一致性(inconsistency factor =IF)

→直接比較と間接比較で得られた推定値のばらつきを見る。一致していないと結果への信頼性が落ちる。「(AEs IF 0.01, 95% CrI −0.93 to 0.87; p > 0.05; SAEs IF 0.01, 95% CrI −0.38 to 0.81, p > 0.05; risk of death IF 0.03, 95% CrI −2.65 to 1.94. p > 0.05)」両比較で結果に食い違いはなかったよう。

 

で、バイアスのチェックも終わったところで結果に。

見るべき結果はただ一つ!Fig.3Aのみ!

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5298465/figure/fig3-2042098616667304/

はい、アウトカムに設定された3つの安全性指標でどれにも有意差はありませんでした~。やや、ハンディヘラーよりですが。

 

 で、このややハンディヘラー寄りが影響しているのがTable2で示されているSUCRAという解析ですね。ネットワークメタ解析の産物としてできる各選択肢の順位付けですね。MANGA試験で有名になりました。(メーカーさんがこの結果だけ示してたからね。目につく結果だから仕方ない)

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5298465/table/table2-2042098616667304/

 個人的には中身がないのにミスリーディングかつ目を引くという意味で「サクラ」と読んでます。「SUCRA」の文字の読み方としても正しいでしょ?順位1位と2位以下に有意差がなくてもほぼ点推定値の位置で順位付けしてます。だから、結果として見る価値はほぼないです。公式な扱いが決まるまで無視するのが最善策だと思います。(そもそもネットワークメタ解析の批判的吟味のやり方も、普通ののメタ解析のPRISMA声明を流用しているくらいなので)

 デバイス間に安全性で差はないというのがこの論文の結論で良いでしょう。

 

と、いうことで今日の記事はここまでになります。

駄文・長文にお付き合いいただき、ありがとうございます。