ネットワークメタ解析チェックリスト改訂への道①~抗うつ薬のNMAを読んでみた~
先日、ネットワークメタ解析(NMA)のチェックリストを作ったので、使い勝手を確認すべくNMAの論文を読んでみることにしました。
お題論文は今年発表された抗うつ薬21種のネットワークメタ解析です。
全文フリーかつ京都大学の古川教授も参加された論文ですので、精神科に興味のある方は是非お読みください。
(SRの手順部分の書き方が理想的かつ読みやすいので、個人的にはこの書き方が全世界に広がってほしい)
今回のお題論文は2009年に話題になったMANGA studyの改訂版になります。
MANGA studyの解説は以下のリンクよりどうぞ(困ったときのミニ丸先生頼り)
では、お題論文を読んでいきたいと思います。
読んでいくうえで、以下のチェックリストを使っていきます。
Dropbox - ネットワークメタ解析チェックシート.pdf
臨床研究は臨床疑問から生まれるので、臨床疑問をまずは確認しましょう。
と、いうわけでチェックリストを上から順に埋めていきたいと思います。
臨床疑問の定式化から(効率化と現実性を考えてアブストで確認しましょう)
P:大うつ病急性期の18歳以上の成人患者
I/C:抗うつ薬21種
O:(有効性)反応率、(忍容性)全理由による治療中止
割と最近の研究タイプであるNMAはアブストも構造化抄録になっていることが多いので、きちんとした研究であればアブストだけでPICOが確認できると思います
。
※この時点でPICOが読み取れない論文を読み進めるよりは、他の文献を探したほうが効率的である可能性が高いので、「ほかの文献を探そう」としています。
ざっくりと大まかにPICOを確認したら、本文から追加情報を探します。
批判的吟味は研究手順が科学的に妥当とされている方法にどの程度準拠しているかを確認します。なので、批判的吟味で見るのはメソッドになります。
追加情報も入れると(赤字は追加部分)
P:その研究が行われた当時使われていた診断基準 (Feighner criteria, Research Diagnostic Criteria, DSM-III, DSM-III-R, DSM-IV, DSM-5, and ICD-10)で大うつ病と診断された急性期の18歳以上の成人患者
(双極性障害、精神病性うつ、治療抵抗性うつ病患者が20%以上含まれる試験は除外)
(※DSM-Ⅳ-TRがないのが気になります。DSM-Ⅳから変更なかったかな?)
I/C:治療量の抗うつ薬21種(カタカナ表記は国内承認済みのもの)
日本、ヨーロッパ、アメリカで承認されている第二世代抗うつ薬
agomelatine、bupropion、citalopram、desvenlafaxine、デュロキセチン(サインバルタ)、エスシタロプラム(レクサプロ)、fluoxetine、フルボキサミン(デルロメール・ルボックス)、levomilnacipran、ミルナシプラン(トレドミン)、ミルタザピン(リフレックス・レメロン)、パロキセチン(パキシル)、reboxetine、セルトラリン(ジェイゾロフト)、ベンラファキシン(イフェクサー)、vilazodone、vortioxetine
アミトリプチリン(トリプタノール)、クロミプラミン(アナフラニール)
O:(有効性)各種スコアリングの50%低下と定義した8週での反応率、(忍容性)8週での全理由による治療中止
8週のデータがないときは4~12週のうち長いものを採用
PICOが立ったところで、システマティックレビューの評価を行います。
・使用したデータベース
Cochrane Central Register of Controlled Trials, CINAHL, Embase, LILACS database, MEDLINE, MEDLINE In-Process, PsycINFO, AMED, the UK National Research Register, PSYNDEX
検索期間は2016年1月8日まで
バイアスへの配慮
・元論文バイアス
「double-blind, randomised controlled trials」を採用。
研究の登録情報(CRD42012002291)をみると中国のRCTは除外されているようです。
http://www.crd.york.ac.uk/PROSPERO/display_record.php?ID=CRD42012002291
個々の研究はコクランのrisk of bias toolを使ったようです。
結果はSupplementary appendix(以下のリンク)より
http://www.thelancet.com/cms/attachment/2119023008/2088154696/mmc1.pdf
本文より全試験中9%の試験がハイリスク、73%が中リスク、18%が低リスクだったと
ITT解析であったかどうかは不明です。(3/12訂正)
・評価者バイアス
6組のペアが独立して抽出・評価を行い、意見の不一致の際はリーダーが第三者として調停に入った
・出版バイアス
言語制限はなし
参考文献の検索の他、著者、専門家、メーカーに未公表データがないか問い合わせている
ファンネルプロットでの検討は行っており、結果はSupplementary appendixに示されている。
結果、出版バイアスの存在が疑われたとのこと。
・異質性バイアス
※システマティックレビュー&メタ解析での異質性と同じ用語だが意味が異なるので注意
アウトカムなどの事前の設定→CRD42012002291で示されている
対象集団の近しさ→MDDの診断基準の違いが無視できるか疑問(特にDSM設定以前と以後)
統合可能なアウトカムか→有効性はいろいろなスコアリングを反応率に変換。スコアリング毎の差異は無視できるか疑問
個人的評価
著者たちはバイアスへの配慮を行っているが、行われてきた試験や過去のいきさつからバイアスが入っていることは否めない
解析本体であるNMAの評価
・ネットワーク図(上:有効性、下:忍容性)
fig2で示されている。閉じた環の数は比較的多いように感じる(絶対的評価基準がないので主観で評価しているため注意してください)研究数が少ない線が多数見受けられる。
※アウトカムごとで報告(計測)されていなかったりするため、上下で全く同じ図にはならないことに注意してください
・直接比較・間接比較を分けて示しているか?→Supplementary appendix137ページ以降に示されている
・一致性→一致しなかったのが8%(アウトカムごとに検討している。サブ解析はSupplementary appendixにあり)
・COIと資金源→明示されている
ここまでみてしっかり作りこまれた研究だと感じた。
結果はFig4
薬剤間の差はそれほど大きくはないように見える。
※左にある物がI(介入)に相当し、右にある薬剤(C:対照)に比べてオッズ比がどうなるかを見ている。例えば有効性で見てEsci vs Fluvは1.34(1.03-1.75)となっているが、反応率を達成するオッズ比がエスシタロプラムはフルボキサミンに対して1.34(1.03-1.75)倍になったと解釈する。なお、GRADEの結果も併記されており例の組み合わせは中等度の確信性とされている。
(MANGAで上位にいたセルトラリンやエスシタロプラムは埋没した感が否めない)
しかし、国内用量と本試験で容認された量はミルタザピンなど一部を除き国内用量の方が少ないため解釈には注意を要する。
ここまでが論文の内容になります。
一度読んだ論文であっても、チェックリストを使うことで、格段に読みやすくなったというのが個人的な感想です。
ですが、わかりにくい部分もあったので改訂しました。
宜しければVer2のチェックリストをお使いください
※青字は3/12加筆訂正分
3/22追記分
本日、エビデンス精神医療研究会に参加して、筆頭著者のお一人である古川先生に質問してきましたので、記載します。
DSM-Ⅳ-TRがない件→DSM-Ⅳと実質的な差がなく分ける必然がなかった。
WHO系の診断基準がICD-10のみ→操作的診断基準でないICD-9以前のものは組み込んでいない。
以上です。
後、古川先生の教室のHPにネットワークメタ解析のチェックリストが公開されていると教えていただきましたので、ここで紹介します。
上記リンクの中から
http://ebmh.med.kyoto-u.ac.jp/files/Enetwork%20meta-analysis.doc
英語のチェックリストでした。
宜しければご参照ください。
次回のエビデンス精神医療研究会は5/31です。
年間1000円(年6回開催)とかいう極めて頭の悪い価格設定の研修会ですので、是非ご参加ください!
次回は初心者(研修医)対象に古川先生からRCTの読み方のレクチャーが入ります。