ネットワークメタ解析チェックリスト改訂への道⑧~経口血糖降下薬間の心血管死の抑制効果~
<今回の記事作成の背景>
るう先生(僕の転職に当たっていろいろ助言をくださった恩人)より、このようなツイートのやり取りをした結果、読んだにもかかわらずほったらかしにした論文があったことを思い出しました。
はい、お題論文は薬局2018年1月号の「エビデンスアップデート2018」の青島先生の記事で引用されていたネットワークメタ解析の論文になります。
※薬局の1月の特集は前年にアップデートされたエビデンスをまとめてチェックできるのでオススメですが、販売当初は売れすぎて品薄でした。確認はしていませんが、今はきっと大丈夫!
今回のお題論文
PMID: 28542373
一言でまとめると「SGLT2阻害薬が一番良かった」です。
ここから批判的吟味をして、結果を見ていきましょう。
臨床疑問(リサーチクエスチョン)をアブストラクトから抽出します。
P:2型糖尿病の患者
I/C:メトホルミン、スルホニルウレア、チアゾリジンジオン(TZD)、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)阻害剤、ナトリウム - グルコース共輸送体-2(SGLT2)阻害剤
O:全原因死亡率、心血管関連死亡率、急性冠動脈症候群(ACS)、心筋梗塞(MI)
本文から詳細情報を追加すると(追加情報は赤字)
P:2型糖尿病の患者
I/C:メトホルミン、スルホニルウレア、チアゾリジンジオン(TZD)、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP4)阻害剤、ナトリウム - グルコース共輸送体-2(SGLT2)阻害剤、α-グルコシダーゼ阻害剤、meglitinide
※background medicationは変更がなければ、解析時に考慮しない
O:全原因死亡率、心血管関連死亡率、急性冠動脈症候群(ACS)、心筋梗塞(MI)
24週以上、100名以上のサンプルサイズ、アウトカムに設定されたデータが報告されていること(有害事象としての報告も含む)
実際に集まったのは、54~73歳、ベースラインのHbA1c 7.2~8.9%、平均罹病期間18年、本文中にはないが追跡期間は24~270週(24週に近いものが多い)。
また、各薬剤クラスごとの内訳は本文中で開示されていないためS2 Table「Main characteristics of included trials.」から探していくと(黒字は凡例より、赤字は表より)
スルホニルウレア:Glipizide、グリメピリド、グリベンクラミド、グリクラジド、Glyburide
TZD:Rosiglitazone、ピオグリタゾン
DPP4阻害剤:シタグリプチン、ビルダグリプチン、サキサグリプチン、リナグリプチン、アログリプチン
SGLT2阻害剤:ダパグリフロジン、カナグリフロジン、エンパグリフロジン
※薬剤略称の凡例にない薬剤があることに怒りを覚えていますので、本記事はそういうバイアスがかかっていることをご承知おきください。普通に考えて、武田が種まき試験的にアログリプチンvsピオグリタゾンの試験やってんだから、もれてんの気づけよ!編集!
(# ゚Д゚)<こちとら確認のために表に記載の臨床試験登録情報確認しとんじゃ!
臨床疑問の定式化だけでくたびれましたが(すでにこの論文に読む価値はないのではという疑念が拭えません)、システマティックレビュー(SR)の評価に進みたいと思います。
・データベース:MEDLINE、EMBASE,、the Cochrane Central Register of Controlled Trials、ClinicalTrials.gov
・検索期間:~2016.3
・検索用語:S1 Tableより「2型糖尿病」と各薬剤名
・元論文:RCT、risk of bias toolで評価している→S3 Table、S1 Figにあり
・評価者:二者独立→第三者介入
・出版:言語制限なし、参考文献は追っている、専門家連絡なし、funnnel plotあり(S4 Fig)
・異質性:事前登録なし、P/Oについてバックグラウンド治療(多くがメトホルミン)の無視が気になる
SR部分で気になったのは、risk of biasの評価の雑さ。PROactiveはクソ試験ではあるが一応は評価者も盲検されていたぞ!(解析後に後付け解析されはしたが)
あと、NCT00509236だが、評価者は盲検化されていない試験でlow riskってどうなん?英語が読める読めない以前の問題では?(おそらく著者達はきちんと読んでない)
すでに読む価値なしという結論が頭をよぎりますが、ネットワークメタ解析(NMA)の評価行きます!(もはや意地)
・ネットワーク図:本文には全死亡のみだが、S7~S9Figでほかの図も示されている
・閉じた環:多数ある
・直接比較、間接比較:分けて示されている
・一致性:非一致は少ない(S3 Fig)
・資金源、COI:ともに「なし」とのこと
NMAの評価部分だけ見るとまともに見えますが、SR部分ではあえて触れませんでしたが、ほとんど説明なくα-グルコシダーゼ阻害剤、meglitinideが削除されています。(アカルボースは非一致性が高かったから削除したとはあります)
説明もなく介入群を削除し、アブストラクトでは触れもしないのでは「粉飾」との誹りは免れません。
価値がないと判断してから結果見るのは苦痛ですが、結果を見ていきます。
結果
全死亡(Fig3下側)・・・上側の直接比較と大きな差がない=一致性が高い
有意差をもって他剤より死亡を減らしたのはSGLT2阻害剤だけ
vs Placebo 0.68(0.57-0.80)
vs SU 0.63(0.46-0.87)
vs TZD 0.71(0.55-0.90)
vs DPP4 0.65(0.54-0.78)
なお、直接比較ではプラセボとしか有意差はなかった
vs Placebo 0.72(0.61-0.85)
心血管死(Fig4下側)
有意差をもって他剤より死亡を減らしたのはSGLT2阻害剤だけ
vs Placebo 0.61(0.50-0.76)
vs SU 0.52(0.31-0.88)
vs TZD 0.66(0.49-0.91)
vs DPP4 0.61(0.48-0.77)
なお、直接比較ではプラセボとしか有意差はなかった
vs Placebo 0.63(0.51-0.78)
EMPA-REG OUTCOMEの結果に見事に引っ張られているといった印象。
ただ、firstlineとsecondlineの治療がごちゃごちゃに解析されており、何の参考になるのか疑問。粉飾もされており、「読む価値はない」というのが僕の結論です。
つまり、この論文読むよりEMPA-REG OUTCOMEを読んだ方がよいと思います。
駄文を最後まで読んでいただきありがとうございます。
まだまだ記事のストックがあるので、さっさと書かねば:;(∩´﹏`∩);: