窓際さんのお勉強な日々

こそっと論文読んで、こそっとメモ

費用対効果の論文(Cost-Effectiveness Analysis=CEA)を読むとき用のチェックシートを作ってみた

 今回はタイトルのように、費用対効果の論文を読むための、簡便(?)なチェックリストを作成しましたので、公開します。

費用対効果チェックシートver1.pdf

 

<作成の背景>

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 薬剤師界が誇るエビデンスマスターこと青島先生の上記ツイートにクソリプを送って絡んだわけですが、論文の怪しさはわかるものの、「具体的に何がヤバいのか・結果の信憑性はどのくらいなのか?」に回答できませんでした。

 なお、青島先生が疑問を投げかけていた論文は以下になります。

Cost-effectiveness of a New Opportunistic Screening Strategy for Walk-in Fingertip HbA1c Testing at Community Pharmacies in Japan. - PubMed - NCBI

研究実施機関である筑波大学からのプレスリリース

薬局での指先 HbA1c チェックの優れた医療経済性 

 

 

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そして、こういう結論に。

 CEAは、諸外国では薬剤承認申請時の資料として必須ですが、日本では「CEA?出しても承認にも薬価にも反映されないゴミだから出さねぇよ」がまかり通ってました。

 近年、オプジーボC型肝炎治療薬など高額な医薬品が承認されるようになり、医療行政の破綻の危機が叫ばれ、CEAを用いて効果だけでなく経済性(コスト)も評価する流れ(医療技術評価=HTA)となりました。

(実際はすでに破綻してるんですけどね。税金と問答無用に天引き額の上がる保険料が証拠です)

 世界的に何年遅れだよって感じの遅さですが、日本でもHTAが行われるので、医薬品の専門家である薬剤師が医薬品のCEAを読めないのは極めてマズいです。

 ただ、集学的な研究なので、読みこなすのは極めて難しく、CEAを読み解く勉強会はレギュラトリーサイエンスが主催するワークショップが東京で開催されているほかは、以前の記事で紹介した岡山CASPくらいしかありません。

 つまり、研究論文を読みこなすための素地すらできていないのが現状です。

読みこなすための素地としての日本語での解説本はありますので、実際に数を読みこなすためのツールが必要であると判断し、今回のチェックシートの作成となりました。

 

<既存のチェックリスト>

Consolidated Health Economic Evaluation Reporting Standards (CHEERS) Statement | The EQUATOR Network

日本語の解説

 

<作成の元論文>

 

 CEAの報告様式の統一を目的に2013年に複数の雑誌で同時にCEA報告様式(=CHEERS声明)が出されました。

過去記事では(先週、費用対効果の論文を読むワークショップに参加しました - 窓際さんのお勉強な日々)PLoS Oneのものを利用しました。

Cost-Effectiveness Analysis of a National Neonatal Hearing Screening Program in China: Conditions for the Scale-Up

その他のCHEERS声明(掲載雑誌が違うだけで、同じ内容)

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23531194

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23531108

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23529982

なお、CHEERS声明はCONSORT声明を基に作成されている。

 

<各項目の採否と理由>

①タイトルは経済評価研究であることを明らかにしているか?

→「×」:このチェックシートは「CEA」であることを確認していないと使えないので

②構造化抄録か

→「△」:研究の目的(仮説)の抽出だけ採用。

③研究の目的(リサーチクエスチョン)と現実の政策や診療の関係

→「×」:②と本文メソッドで抽出するように作成したので、簡便に読むために、ここの部分をチェックリストに盛り込むことは避けた

④分析対象となるベースケースの集団とそのサブグループの特徴。

→「〇」:Pの本文相当部分。

⑤介入の状況と場所

→「〇」:要はI群

⑥研究の立場(視点)

→「〇」:患者個人やその家族、医療機関医療保険の支払者、政策決定者など立場によって計算すべきコストが変わってくるため、CEA読解には必須の項目

⑦比較対照

→ 「〇」:要はC群

⑧分析期間

→「〇」:CEAはモデルを構築し、一定期間動かすシミュレーションで成り立つ研究なので必須の項目と考えた。

⑨割引率

→「〇」:良い結果は早期に得られるほど価値が高い(遅くに得られるほど価値が下がる)ことを軸に、各研究国ごとの経済状況を踏まえ、遅くに出た良い結果の価値を下げて(割り引いて)評価する。その際の価値の減衰の程度。長期分析するCEAでは必須と考えた。

⑩アウトカムの指標

→「〇」:評価における効果(ベネフィット)の尺度は何を選択したか?を見る。研究のアウトカムは多くはICER(増分費用対効果比)であるが、このICERの計算にはコストと効果が必要である。効果の測定に何を使ったかを選択形式で提示した。

 ・OALY(質調整生存年)、DALY(障害調整生存年、QALYの逆。WHOで採用されている)、その他(主には生存年LYを想定)

⑪効果の測定(推計に用いたデータ)

→「×」:ここまでやると大変だと思い、一応外すことにした。(改訂で盛り込みなおすかも)

⑫選好に基づくアウトカムの測定や評価

→「×」:ここまでやると大変だと思い、一応外すことにした。(改訂で盛り込みなおすかも)

⑬資源の消費と費用の推計

→「〇」:コストの見積もりの根拠を求めている。

⑭通貨

→:「〇」:研究時点ごとでお金の価値は異なる。特にドル換算で表現している場合、為替レートがないと、実際に見積もられた費用がわからなくなる。経済評価が必須の研究なので、必須の項目と考えた。

⑮モデルの選択

→「〇」:シミュレーションの元となる大事な項目。CHEERS声明では図示することを強く推奨しているが個人的には必要不可欠と考えている。アウトカムの発生が1回だけの場合に用いる決定樹モデルと、アウトカムの発生が複数回発生する場合に用いるマルコフモデルがあるので、選択形式にした。また選びやすいよう模式図も添付した。

 

⑯仮定

→「△」:⑱でカバーできると考えた。

⑰解析方法

→「△」:歪んだ、欠測した、打ち切られたデータ。外挿方法。データを統合する方法。モデルの妥当性を検討・調整する(半サイクル補正など)方法をみるが、異質性の検討でカバーできると考え、独立項目としては設定していない。

⑱パラメータ

→「〇」:すべてのパラメータについて、その値と範囲、リファレンスを提示する。要はシミュレーション各選択肢での確率(移行確率、遷移確率)の見積もり。これがないとシミュレーションできないので必須の項目である。リファレンスの頑強性に注目しないと恣意性が見抜けないと考え、リファレンスの研究デザイン確認の項目を追加した。

⑲増分費用と増分アウトカム

→「△」:要はICERの分子分母の値。(実際はICERをすべてに求めているわけではない)項目としてはICERとして扱った。

⑳不確実性

→「〇」:⑪で不確実だったデータの値を想定される範囲で変動させて結果に違いがないか見ている。選択形式にした。また、閾値を動かして適正価格を探る感度分析を考慮し、閾値を変動させる項目を追加した。

一因子づつ動かしてICERへの影響を検討(トルネード図)

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複数因子を同時に検討(ICER Scattered Plot)

ãICER Scattered Plotãfreeãã®ç»åæ¤ç´¢çµæ

㉑異質性

→「〇」:ベースライン特性が異なることによる患者間変動で説明できる費用や効果、費用対効果の差についての検討。集学的研究であるCEAでは不可避の検討と考え設定した。

㉒考察(研究結果、限界、一般化可能性、現在の知見)

→「×」:エビデンスを使うのに考察を読むことは少ないので削除。

㉓資金源、㉔利益相反

→「〇」:恣意性が入り込みやすい研究デザインなので必須と考えた。

 

以上です。

使ってみて、「こうした方が良い」「ここ間違っている」などご意見をいただければ幸いです。