crossover試験を読む~スピオルト®レスピマットの実力は?(対スピリーバ)~
<はじめに>
ネットでたまたま見かけたVESUTO試験が全文フリーだったので読んでみたというだけの記事です。
「レスピマット」でお気づきの方がいるとは思えませんが、この試験のスポンサーはワタクシの大嫌いな某ベーリンガー社です。
そのため、「粉飾してるやろ、常識的に考えて」くらいの気持ちで論文を読んで記事にしています。
本記事を読むにあたっては、強烈なバイアスがかかっていることを理解していただけますようお願いいたします。
<急ぐ人向け結論>
プライマリエンドポイントである最大吸気量で有意差をもってスピオルトが改善しました。
でも、解析怪しい。。。
<お題論文>
PMID: 29750027
以下はプロトコル論文
PMID: 28537001
コッチは事前登録情報
<リサーチクエスチョン>
黒字はアブストラクト記載分。赤字は本文より追加分。
P:40歳以上の日本人COPD患者184名。GOLDstageⅡ~Ⅳ期(中等~重症)。
FEV1<80%、FEV1/FVC<70%、喫煙歴有りかつ10箱/年以上、MRC(息切れスケール)1点以上(1点=強い労作で息切れするレベル)6分間歩行テスト(6MWD)<400m
I:チオトロピウム2.5μg/オロダテロール2.5μg 1回2吸入、1日1回朝
C:チオトロピウム2.5μg 1回2吸入、1日1回朝
O:(プライマリ)6週間後の薬剤吸入1時間後のIC(最大吸気量)
(セカンダリ)薬剤吸入30分後のFEV1(努力性肺活量で最初の1秒間で吐き出した量の割合)、薬剤吸入30分後のFVC(努力肺活量)、薬剤吸入1時間後のSVC(肺活量)、6MWD、1日の歩数、4METs以上の活動時間、3METs以上の活動時間、2METs以上の活動時間、平均運動量(3MET以上)
(プロトコルにも事前登録にもないアウトカム)有害事象
※参考。MRCについて
http://www.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/046080593j.pdf
⇒実際に集まった患者層は、男性89.7%、平均年齢72.8歳、平均BMI22.2、平均罹病期間5.49年
<批判的吟味>
ランダム化:コンピュータで発生させた乱数。ベーリンガー社管理。
盲検化:二者(被験者、研究者) 解析はベーリンガー社。
真のアウトカム:呼吸困難の改善なら真に近い気がするが、ICの改善の程度と呼吸困難の相関がわからない
アウトカムの数:プライマリは1つ(プロトコルや事前登録情報からの変更はない)
ITT:Fig1より脱落7名が解析に回っていないことからper protocolと思われる。
プロトコル論文ではFASで解析することになっている(追跡が90%を下回るとper protocolに変更する予定だったよう)
サンプルサイズ:0.1Lの差を90%で検出=180名
<結果>
有意差があった項目は赤字。後付け解析は青字で記載。
肺機能(Fig2)
IC(プライマリエンドポイント)
スピオルト1.990L vs スピリーバ1.875L MD0.115L 95%CI:0.077~0.153
FVC 3.020L vs 2.857L MD0.163L 95%CI:0.130~0.197
FEV1 1.275L vs 1.169L MD0.105L 95%CI:0.088~0.123
SVC 3.096L vs 2.962L MD0.134L 95%CI:0.091~0.176
運動(Fig3)
total 311.5m vs 307.4m MD4.2m 95%CI:-6.2~14.5
以下、後付け解析
ベースラインでGOLDⅢ~Ⅳ 301.5m vs 283.4m MD18.1m 95%CI:2.3~33.9
6MWD完遂者 357.3m vs 346.6m MD10.7m 95%CI:4.2~17.3
活動量(Fig4):このFigは後付け解析
2METs以上の活動(着衣8時間未満は除く)191.5min vs 186.5min MD5.0min 95%CI:0.39~9.69
1日の歩数(着衣8時間未満は除く) 3871.1歩 vs 379.6歩 MD77.5歩 95%CI:-92.7~247.7
有害事象(Table2)
全有害事象:37.8% vs 34.6%
supplementalへ追いやられたセカンダリアウトカム
1日の歩数 MD9.5歩 95%CI:-155.7~174.7
4METs以上の活動時間 MD-0.3min 95%CI:-1.2min~0.6min
3METs以上の活動時間 MD0.9min 95%CI:-1.0min~2.9min
2METs以上の活動時間 MD2.3min 95%CI:-3.0min~7.5min
平均運動量 MD2.4min 95%CI:-4.6min~9.4min
⇒当初の予想通り、結果をよく見せるための粉飾が行われていた。(セカンダリで粉飾する意味が分からないのだけど)この辺りに安定と信頼のベーリンガー製臨床試験といった感じを受ける。
粉飾の手口としては、「解析方法の変更」「後付けアウトカム」「有意差のないアウトカム隠し」。脱落が小さいのでFASで解析しても、プライマリエンドポイントに有意差がつきそうな気がするがどうだろう?
とりあえず、結論は「スピオルトはスピリーバに比べて、呼吸は楽にするが身体活動性の改善まではもたらせない」だろうか。(元々の疾患の重症度の影響が大きそうだが)
COPDの臨床試験でよく見る「COPDの増悪」は、本研究では検討されていない。
これは、DYNAGITO試験で有意差が出なかったことによるものだろう。(疾患管理薬としてスピオルトはスピリーバを超えないと暗にメーカーが認めているということか)
※臨床試験の粉飾を扱った論説といえば、本ブログではたびたび登場するコレ!
医学書院/週刊医学界新聞(第3246号 2017年10月30日)
奥村泰之先生、いい仕事をしてくださいましてありがとうございます。