抄読会の発表当番に苦しむ貴方に贈る~論文を読むときに臨床試験登録情報を活用する方法~
<はじめに>
今まで当ブログではお題論文のリンクの他に、臨床試験登録情報へのリンクも貼っていました。
8/10に開催したビアガーデン抄読会in天王寺(報告記事まだです。すみません)、8/26に開催した第1回居酒屋抄読会in大都会で臨床試験登録情報を提示したところ「知らない」「使い方がわからない」という声をいただきました。
今までリンクをはってはいたものの臨床試験登録情報について解説したことがなかったこと、多くの人は公的な場で学ぶ機会がないことに思い至りました。
そのため、今回の記事は臨床試験登録情報の活用法を紹介したいと思います。
なお、僕自身公的に系統だって学んだわけではなく、使い方もJJCLIPに出会う前に「いかに楽に読むか」追及して編み出した我流になりますのでご承知おきください。
<本記事の対象>
①:抄読会でみんなに紹介するためガッツリ読むことが求められているが、どう読んでいいかわからない方
②:周りに一緒に論文を読む仲間がいなくて、正しく読めているか不安な方
<お題論文>
※8/26開催の岡山CASPで使われたEMPA-REG OUTCOME試験を扱いますが、論文本体は参考程度にしか扱いません
Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes. - PubMed - NCBI
PMID: 26378978
今回のテーマである臨床試験登録情報は以下の通りです。
本来は上で示した形式がデフォルトですが、個人的には表形式を使っていますので、表形式のリンクも貼っておきます。
上のリンク先で「Tabular View」というタグをクリックするだけです。
今回使うワークシート
http://caspjp.umin.ac.jp/worksheet/RCT21j.pdf
(A:内的妥当性、B:結果、C:外的妥当性で構成されています)
<臨床試験登録情報について>
今回はClinicalTrials.govを扱います。
日本国内だと一般財団法人日本医薬情報センター 臨床試験情報、UMIN-CTRあたりが有名でしょうか。
臨床試験登録情報制度ができた背景は以下のリンク先で知ることができます。
僕個人の理解している範囲でざっくり説明すると、結果の思わしくない臨床試験は報告(論文化)しないという事態が横行したため、出版バイアス回避を目的に始まったシステムといったところでしょうか。
その他にもアウトカムを事前に登録しているため、アウトカムの改変が察知できるのでSPIN(アウトカムを有意差の出るように改変すること)を見つけるのにも使えます。
<ClinicalTrials.govの見方~表形式(Tabular View)でマスターしよう~>
①構成を理解しよう
表形式にしても変化しない部分がこちらです。
目につくのは、タイトル、免責(左側の灰色の枠内。意訳すると「NIHも政府も記載内容に責任は持たない。責任は書いたやつにあるから注意な」なので使用は使う側の責任です)、試験の状態と開始日終了日(右側の赤いところ)、スポンサーでしょうか。
下にスクロールするとこんな感じです。
ここからは上から順に簡単に各項目を見ていきます。
項目はいくつかの大項目に分かれています。
「Tracking Information」の項目
・日付(試験登録日、試験登録受付日、最終更新日、試験開始日、試験終了日)
・現在のプライマリアウトカム(下の日付は提出日)
・オリジナルのプライマリアウトカム(下の日付は提出日)
(アウトカムが変更されていないときは「same as current(現在と同じ)」と記載される)
・登録情報の変更履歴(リンクをクリックすると別ページに飛ぶ。変更履歴の見方は後程解説する)
・現在のセカンダリアウトカム
・オリジナルのセカンダリアウトカム
・現在のその他のアウトカム
・オリジナルのその他のアウトカム
「Descriptiprive Information」
・簡易な試験名
・公式な試験名
・簡単な試験概要
・詳細な試験の説明
・研究のタイプ
・研究のフェーズ
・試験デザイン(allocation、intervention model、masking、primary purpose)
・条件
・介入
・Study Arms
・出版された研究成果(プロトコル論文やサブ解析などが表示される。なおリンクをクリックするとPubmedのページに飛べる)
「* MedlineのClinicalTrials.gov Identifier(NCT番号)で特定される出版物だけでなく、データ提供者が提供する出版物も含まれます。」という注意書きがある。
「Recruitment Information」
・募集状況(まだ、募集中、現在進行中、完了など)
・実際の登録人数
・オリジナルの登録人数
・実際の試験終了日
・実際の一次完了日 (主要アウトカム指標の最終データ収集日)
・参加基準(組み入れ基準、除外基準が箇条書きされる)
・研究対象の性別
・年齢
・Healthy Volunteersの受け入れ
・連絡先
・参加国
・参加国から除外された国
「Administrative Information」
・NCT番号
・他の研究ID番号(一つの試験が複数の臨床試験登録をしていることもある)
~以下省略~
⇒CASPワークシートのうち、解析方法(ITT解析?FAS?PPS?)と施行バイアス(両群は介入以外等しく扱われたか?)以外の項目はここで埋めることが可能
②変更履歴の見方を理解しよう
先ずは変更履歴のところに表示されているリンクをクリック!
(ブラクラじゃないので安心して踏み抜いてください)
Complete list of historical versions of study NCT01131676 on ClinicalTrials.gov Archive Site
リンク先に飛ぶと以下のようなページに飛ぶので、さらに赤枠のリンクをクリック
そうすると以下のページが表示される
左から、バージョン、比較する際左側に表示したい項目、右側に表示したい項目、変更内容が表示される。ここから、EMPA-REG OUTCOME試験は登録情報を84回変更したことが分かる。
アウトカムの変更履歴が見たい場合、左側はデフォルトでオリジナルが選択されているのでそのまま放置して、右側のポインタを見たい時期に合わせてクリックしよう。
この時変更項目に「Outcome Measures」と書いてある部分でアウトカムが変更されているので、その日付をチェックしよう。
一回目の変更がVer13(2011.4.5)で行われているので
上記のようにチェックを入れて
①→②のようにクリックしよう
そうすると以下の画面が表示される
この時赤丸で囲んだようにチェックが入っていなかったら、即座にチェックしておくこと
後は目的のアウトカムの項目までスクロールすると
変更箇所が色分けされている。
ここではセカンダリの「非致死性心筋梗塞」の誤字訂正がされたことが分かる。
因みにほかの項目もチェックしていくと、プライマリアウトカムが最大4年から8年、5年と変更されていくのがわかる。
<おまけ>
「Study Results」のタグをクリックすると、結果が見られることもある
(例示したのはプライマリアウトカム)
<ワークシートを該当項目で埋めてみた>
A1(PICO):P=参加基準、I/C=Study Arms、O=現在のプライマリアウトカム
A2(試験デザインはRCTでよい?):研究のタイプ(介入)
A3、4(ランダム化と盲検化):試験デザイン
A5、6は解析と施行バイアスの為省略
A7(サンプルサイズ):オリジナルの登録人数
(途中で人数が変更になっており、プロトコル論文では訂正後の数値が、本論文では目標イベント数691のみで表示されている)
ClinicalTrials.govの使い方は以上です。
通常読むのに使うには手間がかかるので、実際上記の方法を使うのは抄読会やワークショップ、本ブログの記事作成時のみです。
長々とした解説記事を読んでいただきありがとうございました。
<おまけというか個人的禁忌技>
ClinicalTrials.govで「参加国」に注目!
「Japan」はあるか?
あったら儲けもの!
NCT番号を検索エンジンにかけ、日本語のみの結果を見てみよう
「JapicCTI-No.」が見つかれば、アタリだ!
実はEMPA-REG OUTCOME試験は日本でも行われており、日本でも登録されている。
以下のリンクがそれだ。
http://www.clinicaltrials.jp/user/search/directCteDetail.jsp?clinicalTrialId=7644
開いてみよう
以下のようなページが開かれるはずだ
もうお気づきだろう
日本語なのだ!
さっきまで解説してきた部分の多くが日本語で記載されているのだ!
つまりここから抜粋すると、公式スポンサーによる日本語訳つきでワークシートが埋まるのだ!
これが禁忌だという理由はお気づきだろうか?
英語を全く読まなくても終わってしまうのだ!
抄読会やワークショップで頑張って英語を読んで「PICOは~」とか言ってたのがばからしくなるのだ!
そのため、個人的には禁忌技として自分自身に使用を禁じている。
ここまで読んだ貴方がどうするかは貴方自身に委ねよう。
それでは、小芝居にお付き合いいただきありがとうございました。