窓際さんのお勉強な日々

こそっと論文読んで、こそっとメモ

バロキサビルマルボキシル(ゾフルーザ)の第三相臨床試験(CAPSTONE 1)を読んでみた

<はじめに>

 

「ゾフルーザの論文がNEJMにでた」と聞いて、「ハイリスク者対象のCAPSTONE 2が出たのか~」と喜び勇んで検索してみたら、「CAPSTONE 1やん!審査資料で大体読んだからいらんわ」となったのですが、せっかくなので読んでみます

 

<お題論文などなど>

 

Baloxavir Marboxil for Uncomplicated Influenza in Adults and Adolescents. - PubMed - NCBI

PMID: 30184455

 

臨床試験登録情報:A Study of S-033188 (Baloxavir Marboxil) Compared With Placebo or Oseltamivir in Otherwise Healthy Patients With Influenza - Tabular View - ClinicalTrials.gov

 

ゾフルーザ審査概要(臨床概要3に目的の情報があります)

 

審査報告書(2018年02月23日)の2と3

http://www.pmda.go.jp/drugs/2018/P20180312001/340018000_23000AMX00434000_A101_1.pdf

http://www.pmda.go.jp/drugs/2018/P20180312001/340018000_23000AMX00434000_A102_1.pdf

 

<審査資料について>

 

 審査資料(概要、報告書)はPMDA における審査の概要と過程が記載された文書のこと。(一般に公開されている)

 

審査報告書・申請資料概要 | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構

病院薬剤師業務への審査報告書の利活用について(https://www.jshp.or.jp/banner/guideline/20151214.pdf)

 

個人的には、採用の可能性のある新薬については、治験の概要一覧と有効性・安全性のデータに目を通すようにしている。(少なくとも院内勉強会の前には)

 

以下は参考(良かったら読んでみてください)

ph-lelouch.com

 

<いつも通り論文を読んでみる>

 

・リサーチクエスチョンは

 

P:12~64歳(2016~2017seasonで)、38度以上の発熱、全身症状が1つ以上、呼吸器症状が1つ以上、症状が出てから48時間以内、外来患者

 

I:バロキサビル(体重80kg未満は40mg、体重80kg以上は80mg)

 

C1:プラセボ

 

C2:オセルタミビル(タミフル) 75mg 1日2回5日間 

  (この群への組み入れは20~64歳。この試験実施時10代への投与は禁忌)

 

人数比はI:C1:C2=2:1:2

 

O:インフルエンザ症状(咳、咽頭痛、頭痛、鼻づまり、発熱または悪寒、筋肉または関節痛、および疲労)緩和までの時間 (9/21追記、1~14日まで測定)

 

・ランダム化→されている(感染確定例で示されている) 

     Table1(12~64歳、プラセボ用)とTableS2(20~64歳、オセルタミビル用)

 ※タミフル群はバロキサビル群より喫煙者が多く、組み入れが遅め、ワクチン接種者多めで、ワクチンを除くとタミフルが不利な割り付けになっているように感じた

 

・盲検化→ 二重(参加者、研究者のみのよう)

 

・ITT?→ITTI(インフルエンザ感染が確定+一回は治験薬を受け取った)

 

・施行バイアス→各群で影響を与えそうな薬剤等は制限されている

 

・サンプルサイズ→1494名

 

・結果(インフルエンザ症状緩和までの時間)

 

Fig2より、ゾフルーザ53.7時間vsプラセボ80.2時間 差26.5時間(95%CI:17.8~35.8)

FigS4より、ゾフルーザ53.5時間vsタミフル53.8時間 差0.3時間(95%CIの記載なし)

 

<審査資料と比較してみる>

 

・試験の概要

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・P(対象患者)の情報を見てみる

 ※CAPSTONE1は審査資料では「T0831試験」と呼称されている

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・アウトカムとその定義

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・結果

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※論文では出ていなかったタミフル群との差の95%CIが-6.6~6.6であることが分かる

なぜ、論文では記載を省略したのだろう?

 

以下は論文でも出ていたカプランマイヤー曲線(vsプラセボ

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以下は、論文で省略された図

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なぜか白黒(-_-;)、タミフルとゾフルーザで重なりすぎて区別がつかない(;^ω^)

 

ここからはサブ解析など

先ずはインフルエンザの型別の効果

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ちょ、B型でゾフルーザ飲んだ方が回復遅れてるやん(タミフルも)(;^ω^)

n数が少ないので、スモールサイズエフェクト(極端な結果が出やすい)ではないかと思うのですが

(実際、第二相ではインフルエンザの型によらず罹病期間短縮効果が見られている)

※審査でも同様の説明で「A型のみ」という限定がつかなかった模様

 

で、お次は人種

と、いってもCAPSTONE1試験は日本とアメリカでしか実施されていない。

(計画にはカナダ、韓国、タイ、シンガポールがあったようだが、なぜ実施国から外れたのかは不明)(9/21追記、審査資料ではカナダのみなぜか言及されている)

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ちょ、白人とアジア人で罹病期間の中央値が倍近く違うんですけど(;^ω^)

でも、短縮時間は一緒くらいなのね

 

で、ウイルス力価(ここだけゾフルーザがタミフルに勝った)

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いうほどの差に見えない(;^ω^)

 

治験中に見られたゾフルーザ耐性株でのウイルス力価

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6日目に二度目のピークが出ていると、、、

 

で、臨床症状はというと

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耐性の有無で有症状期間が変わらなかったと

ウイルス力価と臨床症状は必ずしもリンクしないと

(していたらゾフルーザはタミフルより症状緩和が速いはず)

 

<まとめ>

 論文では審査資料に比べ省略されている情報が散見されたが、評価するうえで大勢に影響はなさそう。

 安心して「ゾフルーザの効果はタミフルのそれを超えるものではない(優れているかわからない)」と言えそうです。

 で、個人的に引っかかったのは「陽性対照扱いのタミフル群の被験者割り付け数が多い」という点です。ただの陽性対照なら「2:2:1」に割り付けたとき「1」になるのが自然なので。

 論文、臨床試験登録情報、審査資料にも直接の言及がないのですが、ここまでの人数を割り付けている場合、本来この試験は「タミフルに対する優越性」を検定する目的があったのではないか?と。

 結果から言うと「タミフルとの優越性を検討しようとしていたが、論文や審査資料でその点に触れていない」が答えです。

 この場合プロトコルを見るのが良いのですが、全文フリーでもない論文のプロトコルを読むのは困難です。もしプロトコルが見れたとしてもページ数も多く読むための心理的・時間的・体力的ハードルは高そうです。

 

 ここで「ゾフルーザ」が優先審査になるくらいの塩野義製薬にとって目玉商品であったことを思い出してください。

 これほどの期待の商品を株主にアピールしないわけがないと。

 早速、塩野義製薬のホームページから「株主・投資家の皆様へ」をクリック。IR資料を見てみましょう。

IR資料室 | 株主・投資家の皆さま | シオノギ製薬(塩野義製薬)

アピールなのですから、プレゼンテーション資料を見てみましょう。

プレゼンテーション資料 | IR資料室 | 株主・投資家の皆さま | シオノギ製薬(塩野義製薬)

ゾフルーザの結果速報がありますが無視して、開発時期と重なる第1四半期Conference Call (2017年7月31日)を見てみます。

http://www.shionogi.co.jp/ir/pdf/p170731.pdf

ページをスクロールするとS-033188(ゾフルーザの開発コード)のページが見つかります。

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はい、タミフルとの優越性が「主な副次目的」に記載されています。

 

ここでお伝えしたかったのは、前々回から書いていた臨床試験登録情報の弱点です。

「登録情報の登録前にされた変更や登録から外された情報は追えない」ということです。

今回のは「対プラセボ」をどこにも明記していなかったので、タミフルに優越性が示されればそちらがプライマリアウトカムになっていたのかもしれません。

 

<おまけ>

 

開発中の新薬にどんなものがあるか知りたくなることはありませんか?

僕は最初に勤めた職場で「○○の新薬はいつごろ市販されそうか?」という問い合わせを時々受けていました。

そんな時最初に調べるのが、日本製薬工業協会のホームページです。

開発中の新薬|新薬・治験情報|日本製薬工業協会

ただ、メーカーによっては更新が遅く使い物にならないので、そういう時に株主用の資料を見ていました。

開発予定の新薬=そのメーカーの成長の期待になるので。

 

今回はここまで。

最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございます。

 

<追記>

 

耐性の有無による有症状期間について以下のようなご指摘を受けました。

 

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論文を確認したところ、ご指摘の通りでした。

ご指摘ありがとうございます。

 

で、審査資料の方ですが、貼り付けた表40を確認すると耐性の有無で63.1時間vs52.4時間となっていました。

審査過程では、63.1時間vs52.4時間で検討して「このアミノ酸変異(耐性化)が臨床症状に影響を与える可能性は低い」としたようです。

 

 この資料と論文の食い違いに関してはメーカーに聞いてみたいところですが、そもそも塩野義製薬のMRさん見たことない職場なので、卸さん経由で聞いてみたいと思います。

 

<2019/1/4追記>

 

 耐性の有無による有症状期間の審査資料とNEJM(論文)との食い違いの件。

メーカーに問い合わせたところ、NEJMはシーケンスがかけられた人だけ(著効例を除いた)審査資料は投与後すぐにウイルスが検出できなくなった例も見なしで解析したとのことでした。

 また、学術の方に現場への情報伝達はどちらの時間で行っているか聞いたところ、「審査資料に基づいて行っている」とのことでした。