REDUCE-IT(EPAの心血管イベント抑制の検討)を読む。 2018年最後の居酒屋抄読会より
<はじめに>
EPAの心血管イベント抑制効果を検討した研究は数多くありますが、「心血管イベントを抑制できた」という試験はほとんどなく、個人的には「EPAに心血管イベントの抑制効果はない」と考えていました。
最新のコクランレビューを見ても、「little or no effect of increasing LCn3 on all-cause mortality (RR 0.98, 95% CI 0.90 to 1.03, 92,653 participants; 8189 deaths in 39 trials, high-quality evidence), cardiovascular mortality (RR 0.95, 95% CI 0.87 to 1.03, 67,772 participants; 4544 CVD deaths in 25 RCTs), cardiovascular events (RR 0.99, 95% CI 0.94 to 1.04, 90,378 participants; 14,737 people experienced events in 38 trials, high-quality evidence), coronary heart disease (CHD) mortality (RR 0.93, 95% CI 0.79 to 1.09, 73,491 participants; 1596 CHD deaths in 21 RCTs), stroke (RR 1.06, 95% CI 0.96 to 1.16, 89,358 participants; 1822 strokes in 28 trials) or arrhythmia (RR 0.97, 95% CI 0.90 to 1.05, 53,796 participants; 3788 people experienced arrhythmia in 28 RCTs).」と一言でまとめると「EPA、DHAの心血管予防効果は無いかあっても小さい」とされています。
PMID: 30521670
そんなEPA逆風の中、「高用量EPAで心血管イベントが抑制された」という研究が出てきており、居酒屋抄読会参加メンバーの希望とも重なったので、2018年の締めくくりとして読んでみることにしました。
<お題論文など>
・お題論文
Cardiovascular Risk Reduction with Icosapent Ethyl for Hypertriglyceridemia. - PubMed - NCBI
PMID: 30415628(一時全文フリーだったが、今では見れなくなっている)
・登録情報
・プロトコル論文
PMID: 28294373(全文フリー)
上記プロトコル論文にこれまでの流れが簡単に載っているので、参考までにどうぞ
・居酒屋抄読会の案内と録音
録音は以下のリンクよりどうぞ
<批判的吟味>
ここから、本文を読んでいきたいと思います。
①RQ
・P:45歳以上で心血管イベントの既往歴がある。
もしくは、50歳以上で糖尿病があり、心血管イベントハイリスクである者
空腹時トリグリセライド(TG)150~499mg/dL ※抄録では135~499mg/dLになっている
スタチン治療でLDL41~100mg/dLで4週以上安定している
※参加国:オーストラリア、カナダ、インド、オランダ、ニュージーランド、ポーランド、ルーマニア、ロシア、南アフリカ、ウクライナ、アメリカ合衆国
※スポンサーのAmarin社はアイルランドに本社を置くEPA製剤(Vascepa®)のみを販売する会社
https://www.amarincorp.com/about_us.html
Vascepa®専用ページ
・I:EPA1回2g、1日2回(Vascepa®)
・O:複合心血管イベント(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、
冠動脈再建術、不安定狭心症)
複合(心血管死、非致死性心筋梗塞)
心筋梗塞(致死性、非致死性双方を含む)
総死亡 など
・T:観察期間の中央値4.9年
⇒実際に集まったのは、年齢64歳、女性29%、白人90%、BMI30.8、CVD二次予防70.7%、エゼチミブ服用6.4%、スタチン強度(弱6.4%、中62%、強30%)、糖尿病(1型0.7%、2型58%、なし41.5%)、高感度CRP2.2、TG216.5、HDL40、LDL74、血中EPA濃度26.1μg/mL
※LDLのみ両群に有意差があったと本文中に記載あり
※糖尿病に関する各情報(罹病期間、コントロール状況、服用薬剤)、喫煙状態、高血圧に関する情報(血圧、服用薬剤)、腎機能など組み入れ基準には記載があるのに、試験に組み込まれた患者背景としては提示されていないため、両群が同等であったかは不明
(正しくランダム化されていれば、記載されていない患者背景も均等になっているはずなので、絶対的にダメというわけではないが、結果に影響する因子なので記載してほしかった)
②方法論
・ランダム化:層別ランダム法(一次予防30%、二次予防70%、エゼチミブ服用、地域で層別化)。
・盲検化:3者(患者、研究者、アウトカム評価者)
※データの管理解析はスポンサー(非盲検)が担当
・解析:ITT
・介入以外の処置:脂質代謝に影響する薬剤、サプリメントは禁止。
LDLを緊急で下げる(130mg/dL以上)場合はスタチン増量もしくはエゼチミブ追加は許可
※脂質以外の薬剤、コントロール目標についてはプロトコル上に記載なし
・サンプルサイズ:7990名。(1612イベント)
・追跡率:I群93.6%、C群92.9%
③結果
・プライマリ I群:17.2%、C群22.0% HR0.75 95%CI:0.68~0.83 NNT21
https://investor.amarincorp.com/static-files/7eed9f2b-3f7a-493f-9113-99d981a198b1より
・3P-MACE I群:11.2%、C群14.8% HR0.74 95%CI:0.65~0.83 NNT28
・心不全入院 I群:3.4%、C群3.5% HR0.97 95%CI:0.77~1.22
・心血管死 I群:4.3%、C群5.2% HR0.80 95%CI:0.66~0.98
・狭心症入院 I群:2.6%、C群3.8% HR0.68 95%CI:0.53~0.87
・総死亡 I群:6.7%、C群7.6% HR0.87 95%CI:0.74~1.02
・TG I群:-18.3%、C群+2.2%
・LDL I群:+3.1%、C群+10.2%
・EPA濃度 I群:+112.6μg/mL、C群-2.9μg/mL
有意差のついた主な有害事象(I群 vs C群)
・下痢:9.0% vs 11.0%
・末梢性浮腫:6.5% vs 5.0%
・便秘:5.4% vs 3.6%
・心房細動:5.3% vs 3.9%
・貧血:4.7% vs 5.8%
<まとめ>
すさまじい結果。
これまでの一連の試験結果と大きく食い違うため「ディオバン事件」を彷彿とさせるが、試験デザインはしっかりしておりディオバン事件で見られた試験デザイン上の問題は見受けられない。
しかも、TGまで明らかに改善している。(通常EPAではここまで明らかなTG低下効果は見られない)
※JELIS試験(日本人対象のEPA製剤の試験)でも有意差をつけてEPAが良かったというご指摘があるかと思うが、JELISでプライマリエンドポイントに差をもたらしたのは「入院」であり、PROBE法を用いているため現場レベルで調整できるエンドポイントをもって有意差をつけた点は注意が必要。「入院」を除いた心血管エンドポイントでは有意差はなかった。
1日4gという高用量EPAの効果だろうか?(日本のEPAの承認量は1.8g、最大でも2.7g)ただ、EPA濃度で見るとJELIS試験では90μg/mL超という点は注目したい(日常生活におけるEPAの摂取量は日本が欧米の8倍程度あるらしい)
ただ、患者背景・試験期間中・試験終了時の心血管リスクの管理状態が非開示なのが気になる。
本社のあるアイルランドが参加国に入っていないのは、ベースラインのEPA濃度が高い海洋国だからだろうか?
Amarin社が計画しているもう一つの結果がどうなるか今から楽しみではある。
PMID: 29365351