広島までEBMな旅をしてきました② EBM合宿1日目、RCT血祭り編
EBM旅行記はここからが本番です!
HCA(広島文献を読む会)とAHEADMAP共催の一泊二日のEBM合宿です。
初日のテーマはRCT(ランダム化比較試験)を血祭りにあげるですよ~。
初心者も多い(ただし、一番目立つのは神戸薬科大学EBM同好会からの刺客たち)ため、平社員先生からEBM概論とRCTの簡単な読み方のレクチャーから。
PECOの例(日常生活における臨床疑問の定式化)
P:婚前の挨拶に行く人
E:オシャレな店
C:行きつけのバー
O:結婚を認めてもらえるか
未婚者は結婚ネタをぶっこむのが、ワークショップの習わしのようです。
(このPECO平社員先生の体験談かな?)
ここでテレビ無し生活の同志であるはずの平社員先生から、たけしの家庭の医学で紹介されたといういかがわしい健康情報として「アボカドがひざ痛をやわらげるのに期待できる?」が紹介されました。
そんなのあったのかとスマホで検索すること1分弱、報告を見つけました!
関節の可動域をアボカドがプラセボに比べて広くできるかを検討したRCTです!
めんどくさいので結論から言うと、プラセボと同等の改善効果が得られました!
つまり効きません!
マスコミはスマホで1分かからない程度の検証すらできないということを爽やかな笑顔を浮かべながら述べる平社員先生、さすがです!
ここまでが合宿の導入部分です。(本番はここから)
お題論文を読むに至った経緯(仮想症例シナリオ)は以下のような感じでした。
『認知症の発症を恐れるリウマチ持ちで痛みで動けなくなっている高齢女性から、某NHKで紹介されていたコグニサイズのような方法で認知症の発症を予防できないか相談された』
は?(゚д゚)?コグニサイズってなんだよ?と、思って調べたら冊子がありましたので、リンク貼っておきます。
http://www.ncgg.go.jp/cgss/department/cre/documents/cogni.pdf
どうも国立長寿医療研究センターが開発した身体運動と認知機能訓練を組み合わせたもののようですが、肝心の認知機能低下予防効果がわかりません。
(引用されている文献からはMMSEで1~2点程度改善するかもしれませんが、MMSEは30点満点。鋭敏さもないので、この点数で効果を実感するのは無理でしょう)
広島大学病院からの使者(〇貞先生)が教えてくれた、コグニサイズを紹介した論文がありましたので紹介しておきます。(効果を検証したものではないので、以下のリンクを踏む必要はありません。ほぼ時間の無駄ですので悪しからず)
Community-Based Intervention for Prevention of Dementia in Japan. - PubMed - NCBI
で、本題であるお題論文はコチラ
既に忍者先生が記事にされていましたので、分かり易い記事をお求めの方は、以下のリンクからどうぞ
screamtheyellow.hatenablog.com
論文の内容を見ていきましょう
(長いので論文の概要と結果から先に出します。その後解説とツッコミに行きますのでご了承ください)
P:60~77歳のフィンランド人
CAIDE (Cardiovascular Risk Factors, Aging and Dementia) Dementia Risk Score 6点以上
CERAD基準:ⅰ)30単語(10単語を3回)のうち記憶出来た単語が19単語以下ⅱ)思い出せた単語が75%以下ⅲ)MMSEが26点以下のうち1つ以上に該当する
年齢相応よりやや認知機能が低下していると思われる者
(悪性疾患、認知症、大うつ病、視聴覚障害、血管再建術後1年以内、症候性心血管疾患は除外)
*CAIDE Dementia Risk Scoreは20年後の認知症発症の予測スコア。15点満点で評価。6点以上だと発症リスクは2%以上に相当する。
I:多面的介入(食事、運動、認知機能訓練、心血管リスク管理)
C:一般的なカウンセリング(登録情報によると初回のみ、あとは検査の為だけの通院)
O:神経心理テストバッテリー(NTB)Zスコアを用いて測定した認知機能の変化
T:2年(追跡率94.4%)
blinding:アブストラクトにはdouble-blind(二重盲検)の記載あり
結果:介入群0.20、対照群0.16、平均差0.021(95%CI:0.002~0.042)。スコアで相対的に25%改善。平均差も有意差をもって介入群で改善。
以下は解説
*介入内容の詳細
①食事→Finnish Nutrition Recommendationsに準拠。(個人セッション3回、グループセッション7~9回)
1日に摂取するエネルギー構成
タンパク質10~20%
脂質25~35%(飽和脂肪酸<10%、不飽和脂肪酸10~20%、多価不飽和脂肪酸5~10%、ω3脂肪酸2.5~3g)
炭水化物45~50%(精製糖<10%)
食物繊維25~35g
食塩5g/日未満
アルコールは1日に摂取するエネルギーのうち5%未満
必要に応じて5~10%の体重減少を目標
上記を達成できた場合、「野菜・果物・低脂肪乳の摂取の推奨、ショ糖1日50g未満、バターを植物性マーガリンへ変更、魚の摂取を週二回以上」が追加
②運動→DR'sEXTRA(http://dx.doi.org/10.1016/j.eurger.2010.08.001)に準拠。 筋トレ週1~3回、有酸素運動1~3回
③認知機能訓練→導入講義10回、コンピュータによる訓練(6ヶ月×2、週3回、1回10~15分)
④心血管リスク管理→高血圧、糖尿病、脂質異常症ガイドラインに準拠。看護師面談(3、9、18ヶ月)、医師面談(3、9、12ヶ月)血圧・体重・BMI・腰囲・胸囲の測定と生活習慣に対する指導を行う。治験参加医師は処方は禁止だが、受診勧奨は可能。
*神経心理テストバッテリー→拡張バージョンが使用されている。記憶3テスト、処理3テスト、遂行機能5テストの計14種のテストを組み合わせた検査。変法が多すぎて、専門家でもどの程度把握しているか不明。変法の多さから検査の信頼性の評価もままならない。なお、僕は全く理解してません(研修会を受けに行ったが開始直後に撃沈した)
検査時間の目安(今回のNTBは載っていませんが認知症圏の検査時間の目安にはなると思います):http://www.med.kyushu-u.ac.jp/braincenter/annai2-shin.htm
zスコアは得られたスコアを標準化したもの。スコアが正規分布という前提を満たすならば、2より大きければかなり有効と判断できる。
はい、お待ちかねのツッコミはここからですよー
①ベースラインのNTBzスコアで介入群と対照群で0.06の差がある
②アブストラクトには「二重盲検」とあるが、試験登録情報(https://clinicaltrials.gov/ct2/show/record/NCT01041989)には「single(Outcomes Assessor)」と記載があり、計画されていない盲検を実行したのか?
本文中には参加者に介入がわからないよう施設間、群間の交流は禁止とあるが、本当に隠せたかを評価していない
チーム平社員では「この介入で盲検とか無理ゲ」と評してました。
③結局、どの程度改善したのかを読み解くことができない
④予測された変化は対照群-0.21、介入群-0.1で両群とも改善してるやん!
⑤介入、検査どれも負荷が大きく拷問に近い行為
まとめると、結果は有意差はあるものの臨床的な差があるとは考えにくく脱落は小さいものの実行する価値のある介入だとは到底考えられない。シナリオの患者さんは痛みも抱えており、このような効果も果てしなく薄い介入を推奨すること自体倫理的に問題。(何もしなくても改善している。組み入れ基準を途中で緩和していることの影響があったかは不明)
【*書き忘れ追記
やってもいない二重盲検を謳っていたりするこの論文を見て、この奥村先生の記事を思い出してました。
「ちょっと盛られた」臨床試験の気付き方
医学書院/週刊医学界新聞(第3246号 2017年10月30日)】
論文の結果に対する神戸薬科大学EBM同好会からの刺客からの評
「結果は有意な誤差に過ぎない」
おまけ
平社員先生より
RobotReviewer: Automating evidence synthesisで評価させると「non-RCT」と返されて評価してくれないとのことです。
この後、論文検索セッションでくわばら先生による「スマホで簡単、論文検索」が行われ、夜のワークショップへ
「カリー春雨」
という名前にひかれて、泡盛をロックで注文し、無事死亡しました。
そして、翌朝は安定の
……そして目覚めると全裸。
EBMな初日はこうして幕を閉じました。