第9回CASPワークショップ広島(2019年1月20日開催)に参加してきました
<はじめに>
山陰地方から中国山地を超えて毎月抄読会を開催しておられるEBM界の猛者、平社員 (@T462759) | Twitter先生が恩師の先生を招待して開催されたEBMワークショップに参加してきましたので、本記事は参加報告になります。
<お題論文など>
・研究特設サイト
・お題論文
PMID: 30466866
・事前登録情報
・プロトコル論文
https://njl-admin.nihr.ac.uk/document/download/2013072(2014.8改訂版)
https://www.journalslibrary.nihr.ac.uk/programmes/eme/0910025/#/より
<批判的吟味>
今回はCASPのワークシートに沿って読んでいきます。
・論文の課題
P:大腸内視鏡検査でハイリスクとされた55~73歳の英国人709名
(ハイリスクの定義(ポリープの大きさと数):10㎜以上を1個を含む3個以上か10㎜未満5個以上)
E/C: | アスピリン | non-アスピリン |
EPA | EPA2g/day+アスピリン300mg/day | EPA2g/day+アスピリンプラセボ |
non-EPA | EPAプラセボ+アスピリン300mg/day | EPAプラセボ+アスピリンプラセボ |
※EPAはEPA-FFA1日1回からEPA-TG1日2回に変更になっている。
EPA-FFAを提供していたメーカー(Specialist in Gastrointestinal Medicines > SLA Pharma AG)が製造を止めたため
O:(主)腺腫の検出率(ADR)
(副)腺腫の数、進行した腺腫の検出率・発生数、鋸歯状腺腫の検出率・発生数、腺腫の見つかった領域、高リスクから中等度リスクへの改善、大腸がん、赤血球と直腸のEPA・DHA・AA濃度とEPA/AA比(ベースライン、6ヶ月、12ヶ月)、魚介類の摂取量、有害事象(特に出血)
T:1年
・割り付け
ウェブベース(=中央割り付け)、「using random permuted blocks of randomly varying size. 」とあるのでブロックサイズがランダムに変わるランダム割り付けだとわかる
・目隠し
参加者、研究スタッフ。
本文中にはないがプロトコルでは「調査者」、「アウトカム評価者」も盲検化されている
・解析
ITT
(本文中にみられるのは 「Per-protocol analysis」だが、「Primary and secondary outcomes were analysed according to allocation, regardless of compliance with treatment, for all participants who were randomly assigned and who had observed follow-up data」という文章からITT(FASかも?)と読み取らないといけないらしい。
プロトコルでは「ITT」となっていた。
・施行バイアス
TableS2で見られる。本文中に記載はないがプロトコル上、禁止されていた薬物は除外基準と同じNSAID、魚油サプリ、メトトレキサート。
見た限り気になるような偏りは見られない。
・サンプルサイズ
768(登録情報755、プロトコル論文904) 数字が一致しないが、どのみち不足している。
⇒サンプルサイズの不足以外は目立った問題はなさそう
<結果>
ADR:プラセボ61%、EPA63%、アスピリン61%、アスピリン+EPA61%
EPA vs non-EPA RR0.98 95%CI:0.87~1.12
アスピリン vs non-アスピリン RR0.99 95%CI:0.87~1.12
有害事象は下痢主体
<まとめ>
見事に主要評価項目に差は見られなかった。会場で上がった声としては「試験期間が短すぎたのでは?」ということ。
サンプルサイズの計算の根拠に用いられたアスピリンの試験は5年のRCT終了後20年追跡したもの。
しかし、内視鏡検査ができずアウトカムの評価ができなかった症例が66名(約9.3%)。試験期間を延ばせばこうした評価不能例や脱落でもっと多くのサンプルサイズが要求されたのではないかと思われる。(本試験は必要数集められなかったので、これ以上の募集は困難だったのではないだろうか)
のぶのぶEBM (@nobukin55) | Twitter(平社員先生の師匠)の解説「検出数は下がっており(アスピリンで0.78、95%CI:0.68~0.90)、介入の有効性は期待できる」だろうとのこと。
<おしらせ>
2019年2月開催のワークショップです。
(ともにシステマティックレビューがお題です)
ご都合のつく方は是非ふるってご参加ください!
(ちなみに、僕はただの参加者です)
2月17日 第4回兵庫医療大学Student CASP Workshop
逆行性射精に対するアモキサピンの効果
<はじめに>
アモキサピン(アモキサン)が逆行性射精に公知申請が通ったとのことで、その効果を検証した論文を読んでみることにしました。
薬剤師的にはシロドシン(ユリーフ)の副作用が有名でしょうか。(僕はまだシロドシンによると思われる逆行性射精を見たことはないですが)
有名といっても「薬理学的に」というだけで、全例で発症するようなものではないのでご注意ください。
<お題論文>
PMID: 28266821
(事前登録情報はない)
<批判的吟味>
①RQ
P:18~60歳の逆行性射精(一次、二次問わず)の患者26名(1名脱落)
B(対照):ビタミンB12 500μg 1日3回 (大塚の製品と本文中にあったが、大塚製薬は医療用ビタミンB12の経口剤を販売していないので、ネイチャーメイドB12を使った?)
※介入・対照群の書き方は本文に準拠した
O:患者報告による逆行性射精の改善率
⇒実際に集まった患者背景は28~54歳、罹病期間0.17~25年、一次3名、二次22名、既婚11、未婚14
②方法
ランダム化:乱数表→封筒法。クロスオーバー
盲検化:なし
施行バイアス:不明
ITT:不明 脱落1名(離婚による?) 追跡率96.2%
サンプルサイズ:探索的研究なので計算していない
Fig2の試験の全体図がちょっと違うので勝手に訂正
③結果
改善率 A80% B16% P<0.001
勝手にRRを計算すると0.2
なお、COI:なし、資金源:日中笹川医学奨学金制度
<まとめ>
少人数の被験者による探索的研究なので、実際にここまでの効果がみられるかは不明。
改善率はあくまで患者報告なので、本当に逆行性射精が改善したのかはわからない。
逆行性射精 - 21. 男性の健康上の問題 - MSDマニュアル家庭版
自分が患者なら、副作用云々を考えるとイミプラミン(現行治療)より先にチャレンジしてはみたいとは思う。
<おまけ>
①封筒法
自分の割り付けたい群に当たるまで封筒を破って捨てたという違反が過去にあったため、割り付けの隠蔽化の観点からすでに廃れた手法という印象。
違反内容だけ覚えていて、実際何の研究で違反が起きたのか知らなかったので調べてみたら一番最初にヒットしたのが「丸山ワクチン」
と
より
「中里博昭、小池明彦、市橋秀仁、尾関一郎、渡辺晃、鈴木正康、榊原日出夫、蟻須賀喜多男、小田博
胃癌非治癒切除および切除不能症例に対する人型結核菌体抽出物質(SSM)の臨床比較対照試験成績
基礎と臨床;17:293-309,1983」
だったと判明。
他にもあるかもしれないので、この辺りの事情のにも詳しい先生が集う「エビデンス精神医療研究会」(Health Promotion and Human Behavior : Kyoto University)で聞いてみます。
②抗精神病薬と逆行性射精
今回の研究では薬剤性逆行性射精症の患者さんは除外されていました。
その除外対象薬剤の中に表記の抗精神病薬が入っていました。
抗精神病薬(特にリスペリドン)で性機能障害の訴えがあれば真っ先に「高プロラクチン血症」が浮かぶと思いますが、実際プロラクチンの上昇を伴わない性機能障害が報告されています。
(2019/1/13検索)
その時のメカニズムとして考えられているのがα1受容体遮断作用です。
泌尿器科医や薬剤師なら簡単に気付ける範囲の問題ですが、精神科ではなかなかそこまで気づかずに症例報告に至るようです。
いつの間にか刷り込まれた「抗精神病薬による性機能障害=高プロラクチン血症」からの脱却にこの論文は良いのでは?と思い紹介してみました。
刷り込まれていたのが僕だけという可能性も捨てきれないですが(;^ω^)
昨年末からのEPA特集、ASCEND試験(EPA側)を読んでみた
<はじめに>
昨年末より引き続いてEPA系の論文を読みたいと思います。
今回はn-3脂肪酸製剤としてEPA+DHAの心血管イベント抑制効果を検討した試験になります
<お題論文など>
・お題論文
Effects of n-3 Fatty Acid Supplements in Diabetes Mellitus. - PubMed - NCBI
PMID: 30146932
・登録情報
ASCEND: A Study of Cardiovascular Events iN Diabetes - Tabular View - ClinicalTrials.gov
・プロトコル論文
PMID: 29653635(こちらは全文フリーです)
<批判的吟味>
ここから、本文を読んでいきたいと思います。
①RQ
・P:40歳以上、糖尿病(1型か2型)、CVDの既往無し、アスピリンの適応無し、アスピリンの禁忌なし、アドヒアランスに影響する病態無し、英国在住
・I:Omacor 1000 mg(日本未発売:EPA460mg+DHA380mg、Mylan社が販売)
Omacor - Summary of Product Characteristics (SmPC) - (eMC)
・C:プラセボ
・O:複合心血管イベント(非致死性心筋梗塞、非致死性非出血性脳卒中、TIA、非出血性血管死)
<セカンダリ>プライマリエンドポイント+冠動脈再建術
・T:平均観察期間7.4年
⇒実際に集まったのは、年齢63歳、男性62.6%、白人96.5%、BMI30.7、現在の喫煙8.3%、以前の喫煙45.6%、非喫煙45.1%、高血圧(患者報告による)61.6%、アスピリン使用74.8%、スタチン94.1%、DM罹病期間7年(中央値)
表記されている項目間での差は特に見受けられない。
②方法論
・ランダム化:最小ランダム法(調整項目:年齢、性別、DM罹病期間、高血圧治療歴、喫煙、民族、総コレステロール、HbA1C、Alb/Cr比)2×2法。
※今回の論文は下の太枠で囲んだものを比較している
・盲検化:4者(参加者、ケア提供者、調査者、アウトカム評価者) +本文中では解析者も盲検化されたとなっている
・解析:ITT (0.3%のlost to follow upの処理法の記載がない)⇒追跡率99.1%
・介入以外の処置:TableS6に開始時と6.7年経過後の両群での治療について記載あり。
⇒介入前後で両群に目立った差は見られなかった。
⇒スタチン75%→74%、ACEiもしくはARB59%→64%、インスリン
26%→27%、メトホルミン65%→69%、SU27%→30%、
TZD12%→5%、β遮断薬13%→17%、CCB25%→30%、利尿剤
19%→15%、PPI14%→25%、肝油などのサプリ10%→7%
⇒アドヒアランス:I群77%、C群76%
・サンプルサイズ:15000名。(2003年の元々の計算では10000人、イベント発生年率2%、20~25%リスク減だったが、メタ解析の結果と途中までのイベントの発生率からからイベント発生率年0.6%、12~15%リスク減、TIAをアウトカムに追加、観察期間5→7年に延長し再計算)
・資金の流れ:プロトコル論文に資金の流れが記載されている。
当初、メインスポンサーであるオックスフォード大学からの研究費で賄っていたが、期間延長に伴いBritish Heart Foundationから研究費を受けている
③結果(HRだと思うが、本文がRRになっているので本文に準拠して記載しています)
・プライマリ I群:8.9%、C群:9.2% RR0.97 95%CI:0.87~1.08
・セカンダリ I群:11.4%、C群:11.5% RR1.00 95%CI:0.91~1.09
構成要素別にみると
非致死性心筋梗塞 I群:2.4%、C群:2.6% RR0.93 95%CI:0.76~1.14
非致死性非出血性脳卒中 I群:2.8%、C群:2.8% RR1.01 95%CI:0.84~1.22
TIA I群:2.4%、C群:2.3% RR1.03 95%CI:0.84~1.26
非出血性血管死 I群:2.4%、C群:2.9% RR0.81 95%CI:0.67~0.99
冠動脈再建術 I群:4.8%、C群:4.6% RR1.04 95%CI:0.90~1.20
おまけ:全死亡 I群:8.9%、C群:9.2% RR0.97 95%CI:0.87~1.08
<まとめ>
施行バイアスについて本文中に明示してあるレアな論文。
(施行バイアス:両群が比較したい介入以外の介入で等しく扱われたかを見る。CASPワークショップで議論が一回止まる定番の場所)
その他の記載についてもしっかりしており、これまで読んできたEPA系の論文の中では個人的に最も好印象の論文。
しかし、n-3脂肪酸の投与を長期間行ってもイベントに差は検出できなかった(セカンダリで血管死に有意差が出ているが、これはあくまで仮説にすぎない。筆者らもそれを踏まえて「重篤な血管事象のリスクに有意差はありませんでした。」と結論付けている。
日本人に対するEPAの効果は?(今更JELISを読む)
<はじめに>
前回REDUCE-ITを読んだわけですが、その中で日本での研究が比較対象として幾度もJELISが取り上げられていたので、今更ではありますが読んでみることにしました。
JELISについては様々なサイトで取り上げられていますので、今更新規情報もないので、読んだことがある人はここでブラウザバックをお勧めします。
<お題論文など>
・お題論文
PMID: 17398308
・登録情報
Protective Effect of EPA on Cardiovascular Events - Tabular View - ClinicalTrials.gov
・プロトコル論文
PMID: 14564313
・記事、ブログなど
<批判的吟味>
ここから、本文を読んでいきたいと思います。
①RQ
・P:総コレステロール250mg/dL以上の者(LDL170mg/dL以上に相当)
男性は40~75歳、女性は閉経後~75歳
・I:エパデール300mg1回2カプセル、1日3回(EPAとして1800mg)+スタチン(プラバスタチン10mgかシンバスタチン5mg)
・C:スタチンのみ
・O:複合心血管イベント(心突然死、心筋梗塞、不安定 狭心症、血管形成術、ステント、冠動脈バイパス術)
<セカンダリ>全死亡、脳卒中、末梢動脈疾患、がん発症率(登録情報より)
冠動脈疾患の死亡率と罹患率(本文中で追加されている)
・T:平均観察期間4.6年
⇒実際に集まったのは、年齢61歳、女性69%、BMI24、CVD二次予防3645名(19.5%)、喫煙者18~20%、糖尿病16%、総コレステロール7.11mmol/L、TG1.74mmol/L、HDL1.51mmol/L、血圧135/79mmHg、プラバスタチン60%、シンバスタチン37%、抗血小板薬14%、カルシウム拮抗薬30%、硝酸剤10%、血糖降下薬12%
両群で気になる様な差は見られなかった。
②方法論
・ランダム化:層別ランダム法(一次予防、二次予防で層別化)ブロックサイズ4。
・盲検化:PROBE(アウトカム評価者)
・解析:ITT (197名のlost to follow upの処理法の記載がない)
・介入以外の処置:脂質代謝に影響する薬剤は禁止。
他の治療薬は必要に応じて変更可能。
治療目標値の設定はない。
・サンプルサイズ:18000名。(一次予防0.58%/年、二次予防2.13%/年、EPAでイベント25%減で計算)
③結果
・プライマリ I群:2.8%、C群:3.5% HR0.81 95%CI:0.69~0.95 NNT143
一次 I群:1.4%、C群:1.7% HR0.82 95%CI:0.63~1.06
二次 I群:8.7%、C群:10.7% HR0.81 95%CI:0.657~0.998
(本文の数字抜いてきたけど有効数字どうなってんの?)
有意差のあった主要評価項目構成要素
・不安定狭心症 I群:1.6%、C群:2.1% HR0.76 95%CI:0.62~0.95
・不安定狭心症(二次) I群:4.8%、C群:6.7% HR0.72 95%CI:0.55~0.95
セカンダリ
・脳卒中 I群:1.8%、C群:1.7% HR1.02 95%CI:0.91~1.13
・全死亡 I群:3.1%、C群:2.8% HR1.09 95%CI:0.92~1.28
有害事象
・がん I群:2.6%、C群:2.4%
・疼痛 I群:1.6%、C群:2.0%
・消化器症状 I群:3.8%、C群:1.7%
・皮膚症状 I群:1.7%、C群:0.7%
・出血 I群:1.1%、C群:0.6%
検査値
・TG I群:-9%、C群-4%
・EPA濃度 I群:72μg/mL、C群0μg/mL
<まとめ>
有意差があったのはソフトエンドポイントのみ。検査値も含めEPA投与による大幅な改善は見られなかった。limitationにあったが検出力の都合でソフトエンドポイントを入れたというがならば二重盲検にしないとせっかくした研究の意味が・・・
後、個人的に気になった点だが、研究の事務局(組み入れの可否の判断、ランダム化の乱数表の管理、データの管理)を富山医科薬科大学が担当していること。一番めんどくさい事務処理を一手に担っておきながらJELISの筆頭著者は神戸大学という。
それから、わざわざ本文中に「role of funding source」という項目を設定し、「The sponsor had no role」と関与しなかったことを明記している。
この点について臨床薬理 39(5)Sep2008;167-168では「試験デザイン、試験実施、判定委員会、論文執筆に持田製薬は関与していないと明記されている」(一部改変)と。
臨床試験登録情報を見てみると、スポンサーは神戸大学であったと明記されている。
結論から言うと、試験に関与しなかったスポンサーとは神戸大学であって、持田製薬が関与したかどうかはわからない。この記載から試験の事務局が富山医科薬科大学であったのもうなづける。
でも、論文執筆で筆頭著者としてかかわってるけどね(;^ω^)
個人的には医薬品としてEPA補充するくらいなら、その金でうまい魚でも食いに行けというのが正直な感想ではある。
年末お遊び企画!読めよ薬剤師!!
<はじめに>
るるーしゅ先生から「参加せよ」と言われたので、乗ってみました。
「今年発売」がネックで、毎月のように買い足しているのに条件クリアしたのが5冊しかないという(´;ω;`)
ま、罰ゲームにも参加するくらいのノリで書いてみようと思います。
<おススメ本>
<選定理由>
対象の範囲で広いもの順にランキングしてみました
まず1位からですが、基本的には認知症診療全般をエビデンスベースドに書いた本ですが、72ページからのPMDA審査資料解説(抗認知症薬を例に)と190ページからの製薬企業からのパンフレットの読み方は全薬剤師にお勧めできると思います。
詳しい書評はくわばら先生に譲りますw
2位にはツイッターで話題になった実践薬歴を上げました。2位にした理由はもう持ってる人が多そうだからです。「うまく薬歴が書けない」という方には必読でしょう。
3位は感染症が得意でない薬剤師にもいいかなぁと思ったので。
デザインの根拠も示されていて、菌名や菌の形状すら楽しく学べる一冊。
<COIやバイアス>
1位の著者の小田先生とはワークショップで何度かお会いしています。また、ネタ名刺入れに使用している魔法少女まどか☆マギカ キュゥべえ 名刺ケースを最初に弄ってくれた先生でもあります。
2位の山本雄一郎ことソクラテス先生は、居酒屋抄読会に二度参戦していただいた先生です。お世話になりっぱなしです。
3位は本当に何もないです(;^ω^) 美少女垢の🐈💊先生との待ち合わせまでの暇つぶしに買いました。想像以上の美少女が来て、一瞬頭の中が真っ白になったのはヒミツです。
REDUCE-IT(EPAの心血管イベント抑制の検討)を読む。 2018年最後の居酒屋抄読会より
<はじめに>
EPAの心血管イベント抑制効果を検討した研究は数多くありますが、「心血管イベントを抑制できた」という試験はほとんどなく、個人的には「EPAに心血管イベントの抑制効果はない」と考えていました。
最新のコクランレビューを見ても、「little or no effect of increasing LCn3 on all-cause mortality (RR 0.98, 95% CI 0.90 to 1.03, 92,653 participants; 8189 deaths in 39 trials, high-quality evidence), cardiovascular mortality (RR 0.95, 95% CI 0.87 to 1.03, 67,772 participants; 4544 CVD deaths in 25 RCTs), cardiovascular events (RR 0.99, 95% CI 0.94 to 1.04, 90,378 participants; 14,737 people experienced events in 38 trials, high-quality evidence), coronary heart disease (CHD) mortality (RR 0.93, 95% CI 0.79 to 1.09, 73,491 participants; 1596 CHD deaths in 21 RCTs), stroke (RR 1.06, 95% CI 0.96 to 1.16, 89,358 participants; 1822 strokes in 28 trials) or arrhythmia (RR 0.97, 95% CI 0.90 to 1.05, 53,796 participants; 3788 people experienced arrhythmia in 28 RCTs).」と一言でまとめると「EPA、DHAの心血管予防効果は無いかあっても小さい」とされています。
PMID: 30521670
そんなEPA逆風の中、「高用量EPAで心血管イベントが抑制された」という研究が出てきており、居酒屋抄読会参加メンバーの希望とも重なったので、2018年の締めくくりとして読んでみることにしました。
<お題論文など>
・お題論文
Cardiovascular Risk Reduction with Icosapent Ethyl for Hypertriglyceridemia. - PubMed - NCBI
PMID: 30415628(一時全文フリーだったが、今では見れなくなっている)
・登録情報
・プロトコル論文
PMID: 28294373(全文フリー)
上記プロトコル論文にこれまでの流れが簡単に載っているので、参考までにどうぞ
・居酒屋抄読会の案内と録音
録音は以下のリンクよりどうぞ
<批判的吟味>
ここから、本文を読んでいきたいと思います。
①RQ
・P:45歳以上で心血管イベントの既往歴がある。
もしくは、50歳以上で糖尿病があり、心血管イベントハイリスクである者
空腹時トリグリセライド(TG)150~499mg/dL ※抄録では135~499mg/dLになっている
スタチン治療でLDL41~100mg/dLで4週以上安定している
※参加国:オーストラリア、カナダ、インド、オランダ、ニュージーランド、ポーランド、ルーマニア、ロシア、南アフリカ、ウクライナ、アメリカ合衆国
※スポンサーのAmarin社はアイルランドに本社を置くEPA製剤(Vascepa®)のみを販売する会社
https://www.amarincorp.com/about_us.html
Vascepa®専用ページ
・I:EPA1回2g、1日2回(Vascepa®)
・O:複合心血管イベント(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、
冠動脈再建術、不安定狭心症)
複合(心血管死、非致死性心筋梗塞)
心筋梗塞(致死性、非致死性双方を含む)
総死亡 など
・T:観察期間の中央値4.9年
⇒実際に集まったのは、年齢64歳、女性29%、白人90%、BMI30.8、CVD二次予防70.7%、エゼチミブ服用6.4%、スタチン強度(弱6.4%、中62%、強30%)、糖尿病(1型0.7%、2型58%、なし41.5%)、高感度CRP2.2、TG216.5、HDL40、LDL74、血中EPA濃度26.1μg/mL
※LDLのみ両群に有意差があったと本文中に記載あり
※糖尿病に関する各情報(罹病期間、コントロール状況、服用薬剤)、喫煙状態、高血圧に関する情報(血圧、服用薬剤)、腎機能など組み入れ基準には記載があるのに、試験に組み込まれた患者背景としては提示されていないため、両群が同等であったかは不明
(正しくランダム化されていれば、記載されていない患者背景も均等になっているはずなので、絶対的にダメというわけではないが、結果に影響する因子なので記載してほしかった)
②方法論
・ランダム化:層別ランダム法(一次予防30%、二次予防70%、エゼチミブ服用、地域で層別化)。
・盲検化:3者(患者、研究者、アウトカム評価者)
※データの管理解析はスポンサー(非盲検)が担当
・解析:ITT
・介入以外の処置:脂質代謝に影響する薬剤、サプリメントは禁止。
LDLを緊急で下げる(130mg/dL以上)場合はスタチン増量もしくはエゼチミブ追加は許可
※脂質以外の薬剤、コントロール目標についてはプロトコル上に記載なし
・サンプルサイズ:7990名。(1612イベント)
・追跡率:I群93.6%、C群92.9%
③結果
・プライマリ I群:17.2%、C群22.0% HR0.75 95%CI:0.68~0.83 NNT21
https://investor.amarincorp.com/static-files/7eed9f2b-3f7a-493f-9113-99d981a198b1より
・3P-MACE I群:11.2%、C群14.8% HR0.74 95%CI:0.65~0.83 NNT28
・心不全入院 I群:3.4%、C群3.5% HR0.97 95%CI:0.77~1.22
・心血管死 I群:4.3%、C群5.2% HR0.80 95%CI:0.66~0.98
・狭心症入院 I群:2.6%、C群3.8% HR0.68 95%CI:0.53~0.87
・総死亡 I群:6.7%、C群7.6% HR0.87 95%CI:0.74~1.02
・TG I群:-18.3%、C群+2.2%
・LDL I群:+3.1%、C群+10.2%
・EPA濃度 I群:+112.6μg/mL、C群-2.9μg/mL
有意差のついた主な有害事象(I群 vs C群)
・下痢:9.0% vs 11.0%
・末梢性浮腫:6.5% vs 5.0%
・便秘:5.4% vs 3.6%
・心房細動:5.3% vs 3.9%
・貧血:4.7% vs 5.8%
<まとめ>
すさまじい結果。
これまでの一連の試験結果と大きく食い違うため「ディオバン事件」を彷彿とさせるが、試験デザインはしっかりしておりディオバン事件で見られた試験デザイン上の問題は見受けられない。
しかも、TGまで明らかに改善している。(通常EPAではここまで明らかなTG低下効果は見られない)
※JELIS試験(日本人対象のEPA製剤の試験)でも有意差をつけてEPAが良かったというご指摘があるかと思うが、JELISでプライマリエンドポイントに差をもたらしたのは「入院」であり、PROBE法を用いているため現場レベルで調整できるエンドポイントをもって有意差をつけた点は注意が必要。「入院」を除いた心血管エンドポイントでは有意差はなかった。
1日4gという高用量EPAの効果だろうか?(日本のEPAの承認量は1.8g、最大でも2.7g)ただ、EPA濃度で見るとJELIS試験では90μg/mL超という点は注目したい(日常生活におけるEPAの摂取量は日本が欧米の8倍程度あるらしい)
ただ、患者背景・試験期間中・試験終了時の心血管リスクの管理状態が非開示なのが気になる。
本社のあるアイルランドが参加国に入っていないのは、ベースラインのEPA濃度が高い海洋国だからだろうか?
Amarin社が計画しているもう一つの結果がどうなるか今から楽しみではある。
PMID: 29365351
CARMELINA試験(リナグリプチンの心血管系への影響をプラセボと比較する非劣性試験)を読んでみた
<はじめに>
DPP4阻害薬の心血管イベントを検討した研究で話題の最新論文を読んでみました。
7/26付けの速報で「心血管イベント抑制」ではなく「主要評価項目達成」だったので、他のDPP4阻害薬と似たような結果だったんだろうなとは思っていましたが、先日ダパグリフロジンについて取り上げたので、ついでに読んでみました。
<お題論文など>
・お題論文
PMID: 30418475(全文フリー)
・登録情報
・プロトコル論文(今回も読んでないけど)
PMID: 29540217(全文フリー)
<批判的吟味>
ここから、本文を読んでいきたいと思います。
①RQ
・P:18歳以上(日本のみ20歳以上)の2型糖尿患者。HbA1C6.5%~10.0%。
BMI≦45 kg / m2。
以下の①か②を満たすこと
①アルブミン尿症(微小またはマクロ)および大血管疾患(虚血性心疾患、脳血管疾患、PAD)の既往
②腎障害:eGFR 15 以上45 mL/min/1.73 m2未満かeGFR 45 以上 75 mL/min/1.73 m2 でUACR > 200 mg/g か > 200 μg albumin/min か > 200 mg albumin/24 h を満たすもの
前治療(DPP4阻害薬、GLP1アゴニスト、SGLT2阻害薬を除く)でランダム化前8週間安定 。(インスリンの投与量は投与量の変化が10%以内のもの)
・I:リナグリプチン5mg1日1回
・C:プラセボ1日1回
※元のプライマリアウトカムは4P-MACE(=3P-MACE+不安定狭心症による入院)だったが、他の試験とそろえるため2016年(登録情報は2017.6)にセカンダリアウトカムだった3P-MACEが昇格
<セカンダリ>腎アウトカム(eGFR40%減、末期腎不全、腎死)
<2017.6に削除されたセカンダリ>3P-MACE、腎アウトカム(eGFR50%減、末期腎不全、腎死)
・T:観察期間の中央値2.2年(元は4年、アウトカム変更に伴い4.5年へ変更。611イベントの発生が必要と見積もられている)
⇒実際に集まったのは、年齢66歳前後、女性35%、白人80%弱、ヨーロッパ40%強、eGFR 54.7mL/min/1.73 m2、UACR162mg/g、BMI31.4、平均罹病期間14.5年、HbA1C8%、非喫煙者53%、収縮期血圧140mmHg、 拡張期血圧78mmHg、虚血性心疾患の既往58%、メトホルミン服用54%、SU剤32%、インスリン57%強、ACEiかARB80%強、スタチン服用71%
※両群に目立った偏りはなさそう
②方法論
・ランダム化:ブロックランダム法(地域で層別化)。
・盲検化:2者(患者、研究者)
・解析:FAS
・介入以外の処置:DPP4阻害薬、GLP1アゴニスト、SGLT2阻害薬は禁止。
※プロトコル36ページに「Sulphonylureas and insulin are known to cause hypoglycaemia. Therefore, caution is advised when linagliptin is used in combination with a sulphonylurea and/or insulin. A dose reduction of the sulphonylurea or insulin may be considered.」とあるが、どうやってI群に減量の考慮を伝えたのだろう?
※HbA1CはI群で最初の一年およそ0.5%下がったが、以降その差は小さくなっている。
・サンプルサイズ:3P-MACEで計算。611イベントとある。
腎アウトカムも計算されていて432イベント。
イベント数は854件と計算上充分であった。
③結果
・MACE:I群12.4%、C群12.1% HR1.02 95%CI 0.89~1.17
非劣性マージン1.3なので非劣性
・腎複合:I群9.4%、C群8.8% HR1.04 95%CI 0.89~1.22
・SAE:I群37.0%、C群38.5%
・重症低血糖:I群3.0%、C群3.1%
・類天疱瘡:I群7件、C群0件
・皮膚病変:I群5件、C群1件
<まとめ>
プロトコルに「インスリン使用者とSU剤使用者にリナグリプチン服用時に減量考慮する旨の勧告」とあったのだが(誤訳してるかも)、どうやって盲検化維持したのだろう?
不安定狭心症による入院はI群1.2%、C群1.4%、心不全により入院がI群6.0%、C群6.5%と差はないので、上記勧告による影響は小さいのだろうが。