昨年末からのEPA特集、ASCEND試験(EPA側)を読んでみた
<はじめに>
昨年末より引き続いてEPA系の論文を読みたいと思います。
今回はn-3脂肪酸製剤としてEPA+DHAの心血管イベント抑制効果を検討した試験になります
<お題論文など>
・お題論文
Effects of n-3 Fatty Acid Supplements in Diabetes Mellitus. - PubMed - NCBI
PMID: 30146932
・登録情報
ASCEND: A Study of Cardiovascular Events iN Diabetes - Tabular View - ClinicalTrials.gov
・プロトコル論文
PMID: 29653635(こちらは全文フリーです)
<批判的吟味>
ここから、本文を読んでいきたいと思います。
①RQ
・P:40歳以上、糖尿病(1型か2型)、CVDの既往無し、アスピリンの適応無し、アスピリンの禁忌なし、アドヒアランスに影響する病態無し、英国在住
・I:Omacor 1000 mg(日本未発売:EPA460mg+DHA380mg、Mylan社が販売)
Omacor - Summary of Product Characteristics (SmPC) - (eMC)
・C:プラセボ
・O:複合心血管イベント(非致死性心筋梗塞、非致死性非出血性脳卒中、TIA、非出血性血管死)
<セカンダリ>プライマリエンドポイント+冠動脈再建術
・T:平均観察期間7.4年
⇒実際に集まったのは、年齢63歳、男性62.6%、白人96.5%、BMI30.7、現在の喫煙8.3%、以前の喫煙45.6%、非喫煙45.1%、高血圧(患者報告による)61.6%、アスピリン使用74.8%、スタチン94.1%、DM罹病期間7年(中央値)
表記されている項目間での差は特に見受けられない。
②方法論
・ランダム化:最小ランダム法(調整項目:年齢、性別、DM罹病期間、高血圧治療歴、喫煙、民族、総コレステロール、HbA1C、Alb/Cr比)2×2法。
※今回の論文は下の太枠で囲んだものを比較している
・盲検化:4者(参加者、ケア提供者、調査者、アウトカム評価者) +本文中では解析者も盲検化されたとなっている
・解析:ITT (0.3%のlost to follow upの処理法の記載がない)⇒追跡率99.1%
・介入以外の処置:TableS6に開始時と6.7年経過後の両群での治療について記載あり。
⇒介入前後で両群に目立った差は見られなかった。
⇒スタチン75%→74%、ACEiもしくはARB59%→64%、インスリン
26%→27%、メトホルミン65%→69%、SU27%→30%、
TZD12%→5%、β遮断薬13%→17%、CCB25%→30%、利尿剤
19%→15%、PPI14%→25%、肝油などのサプリ10%→7%
⇒アドヒアランス:I群77%、C群76%
・サンプルサイズ:15000名。(2003年の元々の計算では10000人、イベント発生年率2%、20~25%リスク減だったが、メタ解析の結果と途中までのイベントの発生率からからイベント発生率年0.6%、12~15%リスク減、TIAをアウトカムに追加、観察期間5→7年に延長し再計算)
・資金の流れ:プロトコル論文に資金の流れが記載されている。
当初、メインスポンサーであるオックスフォード大学からの研究費で賄っていたが、期間延長に伴いBritish Heart Foundationから研究費を受けている
③結果(HRだと思うが、本文がRRになっているので本文に準拠して記載しています)
・プライマリ I群:8.9%、C群:9.2% RR0.97 95%CI:0.87~1.08
・セカンダリ I群:11.4%、C群:11.5% RR1.00 95%CI:0.91~1.09
構成要素別にみると
非致死性心筋梗塞 I群:2.4%、C群:2.6% RR0.93 95%CI:0.76~1.14
非致死性非出血性脳卒中 I群:2.8%、C群:2.8% RR1.01 95%CI:0.84~1.22
TIA I群:2.4%、C群:2.3% RR1.03 95%CI:0.84~1.26
非出血性血管死 I群:2.4%、C群:2.9% RR0.81 95%CI:0.67~0.99
冠動脈再建術 I群:4.8%、C群:4.6% RR1.04 95%CI:0.90~1.20
おまけ:全死亡 I群:8.9%、C群:9.2% RR0.97 95%CI:0.87~1.08
<まとめ>
施行バイアスについて本文中に明示してあるレアな論文。
(施行バイアス:両群が比較したい介入以外の介入で等しく扱われたかを見る。CASPワークショップで議論が一回止まる定番の場所)
その他の記載についてもしっかりしており、これまで読んできたEPA系の論文の中では個人的に最も好印象の論文。
しかし、n-3脂肪酸の投与を長期間行ってもイベントに差は検出できなかった(セカンダリで血管死に有意差が出ているが、これはあくまで仮説にすぎない。筆者らもそれを踏まえて「重篤な血管事象のリスクに有意差はありませんでした。」と結論付けている。