ネットワークメタ解析チェックリスト改訂への道⑨~関節リウマチの生物学的製剤はどれが良いか?~
<急ぐ人向け結論>
国内承認薬間ではどれでも大差なし!(但し論文がもう古いので改訂版を探そう)
<この論文を選択した理由>
神戸薬科大学studentCASPに参加した際いただいた過去の開催報告の冊子にネットワークメタ解析の論文があったことを思い出したので、読んでみた。
なおCASP(Critical Appraisal Skills Programme)とは、医療や保健の現場で判断をする職種に就いている人だけでなく、その判断に関わるすべての人が、その根拠をわきまえた上で判断し行動できるように支援する市民のための健康支援活動のことです。
とは言っても、一般市民はおろか医療従事者間にも十分広まっているとは言い難い状況です。
なので、千春会病院の高垣伸匡先生を中心に学生のうちから臨床論文を読める力をつけようと学生をターゲットとしたCASPとして活動しているのがstudentCASPです。
複数の薬科大学で開催されていましたが、参加者不足からいくつかは活動中止に追い込まれたようです。(是非、再開してほしい。特にわが母校の摂南大学には)
定期的に活動を続けていることを僕が把握しているのは、神戸薬科大学と兵庫医療大学、近畿大学です。
なかでも、神戸薬科大学は学生が主体となって開催している珍しい大学です。(以前紹介した平社員先生の母校でもあります。主体となっているEBM倶楽部は平社員先生の後輩でもあります)
前置きが長くなりました。
<お題論文>
PMID: 19884297
第5回studentCASP in Kobe (2012.11.23)より
訂正が入っているので、訂正版のpdfはこちら
http://www.cmaj.ca/content/suppl/2010/04/15/cmaj.091391.DC2/bio-singh-rev.pdf
文献の評価シートはコチラ
Dropbox - ネットワークメタ解析チェックシートver7.pdf
<リサーチクエスチョン>
P:関節リウマチ(RA)の患者
I/C:アバタセプト(オレンシア)、アダリムマブ(ヒュミラ)、anakinra、エタネルセプト(エンブレル)、インフリキシマブ(レミケード)、ritukximab(リツキサン、適応外)
O:有効性(ACR50=50%改善率)、安全性(有害事象による中断)
⇒本文からの追加情報はなし。コクランレビューの再解析論文。
<システマティックレビュー(SR)の評価>
データベース:Cochrane library
検索期間:~2009.5.30
検索語:RA
元論文:コクランレビュー(RCTのSR)、risk of bias 個々のSRで済み
評価者:二者独立、意見対立時の方法の記載なし
出版:英語(元のレビューは制限なし)、参考文献・専門家連絡ともに元のSRで済み
異質性:事前登録なし、PはSRごとにバラバラ、Oは問題なし
⇒コクランレビューの再解析なので、方法論的には完璧のはず。集まった文献の質や出版バイアスはどうにもならないが、それへの言及はない。
つまり、元の研究の評価は本研究の著者は行っておらず、元となったコクランレビューに丸投げしている。
*当該研究の方法が「科学的に信頼のおける方法で行われているかの評価」を批判的吟味と呼んでいる。SRの批判的的吟味とはコクランの方法をどの程度満たしているかを評価している。つまり、「コクランの方法=SRの方法としては最高」ということ
<ネットワークメタ解析(NMA)の評価>
ネットワーク図:無い。というか書く必要がない。
⇒SRの再解析なので、個々の研究を繋いでいるのはplacebo
閉じた環:無い。
⇒個々の研究を繋いでいるのはplacebo(このタイプのNMAのネットワーク図はstar shapeと呼ばれる) つまり直接比較は集めておらず、研究の環は作りようがない。
資金源、COI:開示されている
結果
有効性:Fig4
有意差があったのはanakinra VS エタネルセプト OR 0.34(0.14-0.81)でエタネルセプトが良い
安全性:Fig5
ややエタネルセプト優位
アダリムマブ VS エタネルセプト OR 1.89(1.18-3.04)
anakinra VS エタネルセプト OR 2.05(1.27-3.29)
エタネルセプト VS インフリキシマブ OR 0.37(0.19-0.70)
コクランのSRを利用することで、文献を集めて評価する手間を省いた点がアイデアとして光る。
ただ、直接比較を集めていない時点で、NMAとしての価値は限りなく低い。
今回は久々なので、リハビリもかねてこんな感じで読んでみました。