ネットワークメタ解析チェックリスト改訂への道④~COPD患者に対するLABA/LAMA合剤の安全性~
まだまだ続くネットワークメタ解析(NMA)チェックリスト試用大会。
第五回目の今回は、イタリアからのCOPDの報告を読んでみたいと思います。
いつも通りアブストラクトから
P:COPD患者
I/C:LABA/LAMA固定用量の組み合わせ製剤、単剤療法(LABA単剤、LAMA単剤)、プラセボ
O:心血管系の重篤な有害事象
続いて本文からの追加情報を赤字で追加
P:肺機能検査で診断されたCOPD患者
I/C:LABA/LAMA固定用量の組み合わせ製剤:アクリジニウム/ホルモテロール 400/12 µg (KRP-AB1102F、杏林開発中phaseⅢ終了), グリコピロニウム/インダカテロール 15.6/27.5 µg (Utibron、アメリカでのみ承認のウルティブロの1日2回版), グリコピロニウム/インダカテロール 50/110 µg (ウルティブロ), ウメクリジニウム/ビランテロール 62.5/25 µg (アノーロ), チオトロピウム/オロダテロール 5/5 µg (スピオルト), グリコピロニウム/ホルモテロール 14.9/9.6 µg (Bevespi Aerosphere AZ開発中)、単剤療法(LABA単剤、LAMA単剤)、プラセボ
O:心血管系の重篤な有害事象(LABA/LAMA固定用量の組み合わせ製剤対単剤療法)
セカンダリ:死亡率(LABA/LAMA固定用量の組み合わせ製剤対単剤療法)
セカンダリ:心血管系の重篤な有害事象(LABA/LAMA固定用量の組み合わせ製剤対プラセボ)
続いてシステマティックレビューの評価
・データベースはMEDLINE(PubMed)、Scopus、Embase、Google scholar
検索語は薬品名とCOPD、検索期間は2017.6.31
(。´・ω・)ん? 6/31? 本文間違ってね?
・元論文バイアスはRCTに限定。(二重盲検比較試験が集まっている)
質の評価はJadad score
※Jadad scoreで集まったすべての試験の評価結果が良質というが、評価自体がザルなので(;^ω^)
・評価者バイアスは二名以上の独立評価はしており、意見対立時は話し合い。第三者介入については不明。
・出版バイアスは英語のみ。参考文献は他のレビューを参照。ClinicalTrials.govも検索している。専門家連絡については言及がない。ファンネルプロットはあり、 Egger’s testでも評価しており有意差はなかった。
※ Egger’s testは左右対称性を検定する。バイアスの存在を有意差で表現するが、有意差がなくてもバイアスの存在を否定できないのが難点。
・異質性バイアスは事前登録情報がある。
https://www.crd.york.ac.uk/PROSPERO/display_record.php?ID=CRD42017070100
対象患者は中等度~重症の60代。試験期間は2~64週。むしろこれで心血管系有害事象や死亡増えたらヤバいくらいの年齢層と試験期間。(RCTの時点でハイリスクは除外されている)
アウトカムについてきちんとした定義がかかれていないので、統合可能性の評価が難しい。
なぜにJadad score使ったんだろ?英語縛りの時点で有名な大規模研究狙いだったからそれでもよかったのだろうかという疑問。大規模研究狙いなら、集め方が恣意的すぎるような(;^ω^)
プライマリアウトカムは普通のメタ解析で行われている。「NMA」で検索した論文なのに(´;ω;`)
結果は RR 0.94,(95% CI 0.79–1.13) I2 0%で単剤療法に比べて心血管イベント(本文中で確認できるのは心房細動、心筋梗塞、冠動脈疾患。詳しくはtable2)は増やしませんでした~。
で、今回の記事の本番はこれから。
本論文では安全性についてランク付けの為にNMAでのSUCRAを利用している。
NMAの評価
ネットワーク図は示されていないが、本文中に「results on head-to-head RCTs are not currently available.」とあり、閉じた環がなかった(star-shape)であったことがわかる。
このため、ⅱとⅲは評価ができない。
ⅳはCOIは記載されているが、資金源は登録情報を含めどこにも記載がない。
SUCRAに基づくランクと各薬剤ごとのSAEサブ解析の値を並べてみる。
1.KRP-AB1102F RR0.61,(95% CI 0.35–1.06)
2.スピオルト RR0.89,(95% CI 0.65–1.23)
3.プラセボ
4.アノーロ RR0.77,(95% CI 0.36–1.65)
5.Bevespi RR1.36,(95% CI 1.00–1.85)
6.Utibron RR0.62,(95% CI 0.21–1.85)
7.ウルティブロ RR0.72,(95% CI 0.39–1.34)
結果は一致しない。
比較対象の単剤療法だが、単剤が安全とは言ってないということでしょうか。
で、ネットワーク図がない場合のシートの説明が不十分と判断し、改訂。
是非ご活用ください。
できればご意見をツイッターアカウントの方にいただけると幸いです。
ネットワークメタ解析チェックリスト改訂への道③~日本人統合失調症患者に対する抗精神病薬の効果比較~
ネットワークメタ解析(NMA)チェックシートを改善すべく、どんどんNMAの論文を読んでいきたいと思います。
お題論文は藤田保健衛生大学の岸先生のグループによる報告になります。
チェックシートに沿って、どんどん読み進めたいと思います。
先ずはアブストラクトから臨床疑問を定式化していきます。
P:日本人統合失調症患者
O:有効性(反応率)、忍容性(すべての理由による治療中断)
前回の論文と違い、とても素直なアブストラクトでした。
次は本文で追加情報を確認します。(追加分は赤字で表示)
P:日本人統合失調症患者
I/C:第二世代抗精神病薬:アリピプラゾール(エビリファイ)、ブロナンセリン(ロナセン)、クロザピン(クロザリル)、クロカプラミン(クロフェクトン)、モサプラミン(クレミン)、オランザピン(ジプレキサ)、パリペリドン(インヴェガ)、ペロスピロン(ルーラン)、クエチアピン(セロクエル)、リスペリドン(リスパダール)
ハロペリドール(セレネース)、クロルプロマジン(コントミン)、プラセボ
O:有効性(反応率:PANSS20~30%改善か全般改善度中等度以上改善)、忍容性(すべての理由による治療中断)
組み入れ患者背景に追加情報がない(登録情報を見ても追加情報なし)のが気になる。診断基準は改訂を受ける上に、患者の年齢や疾患重症度の指定がないのも気になる。
第二世代抗精神病薬の例としてクロカプラミンとモサプラミンが入っているが、分類違うような(;^ω^)
後、反応率の基準が緩すぎてプラセボとの反応差が出るのかも心配。
あくまで数を読みこなすのが目的なので、疑問点は無視して次へ。
システマティックレビュー(SR)の評価
・データベースはMEDLINE(本文のPubMedとなっているが、データベースの検索エンジンなので正しくはコッチ)、Cochrane Library、医中誌
検索語は薬剤名と「統合失調症」、検索期間は1970.1.1~2016.11.10
・元論文バイアスは二重盲検とPROBE(評価者のみ盲検化)のRCTに限定しているが、質の評価については言及がない。(登録情報ではRisk of Bias Toolで評価したとあるが、質への言及がない)
・評価者バイアスは二者独立で評価とあるが、意見対立時の解決についての記載がない。
・出版バイアスは言語が英語と日本語に限定。(日本人患者限定なので問題ないと思われる)添付文書の試験の組み入れの他、メーカーに問い合わせている。ファンネルプロットは集まった研究数が18なので、実施されていない。
異質性バイアスは事前登録はあるものの、登録番号は記載していない。
http://www.crd.york.ac.uk/PROSPERO/display_record.php?ID=CRD42016037307
対象患者はかなり広く、統合してよいのか疑問。
アウトカムは統合できるように設定されている。
岸先生ってメタ解析の論文いっぱい書いてなかった?と思う程度には雑なSRという感じ。
最初に読んだ論文が比較対照なので、ほぼすべての論文が「雑」評価になるという(;^ω^)<読む順番を明らかに間違えた
NMAの評価
・ネットワーク図はappendix3にあり、載っている図がすべてスカスカ。研究数やサンプルサイズも小さい。(日本人対象なので当然の結果)
・直接比較と間接比較を分けて記載していない
・不一致の組み合わせについて記載はあるが、そもそも一致率の検証が充分にできない
・COIの記載はある。研究資金は科研費で賄われている。
ランク付けはsupplement6にあるが、図に説明がなく読み方がわからない。
http://www.dovepress.com/get_supplementary_file.php?f=134340_6.pdf
で、結果
有効性の指標である反応率は、プラセボとの比較で有意差のあったものだけ示すと
オランザピン OR1.23(95%CI:-2.301~-0.149)
パリペリドン OR1.205(95%CI:-2.157~-0.2846)
忍容性の指標である全中止は、プラセボとの比較で有意差のあったものだけ示すと
オランザピン OR1.246(95%CI:0.3667~2.124)
パリペリドン OR1.275(95%CI:0.5335~2.023)
薬物治療の切り札クロザピン、有意差示せず。
適応患者の縛りが一切ない状態なので、クロザピンのみ治療抵抗性患者が集まっていることは容易に想像できることと、反応率の基準が緩くわずかな改善を反応としてしまったことが響いたのではないかと思いますが、詳細は不明です。
最後に気になったことを一つ。
著者の中に統計を専門的にやっている人がいない。
日本では統計の専門家とかレアポケモンよりレアな存在なので、仕方ないか。
今回の検証ではチェックシートの改定はなし。
最新バージョンはver4のまま。
ネットワークメタ解析チェックリスト改訂への道②~開放隅角緑内障の第一選択となる点眼薬は?~
抗うつ薬のネットワークメタ解析(NMA)の論文を読み直すこと3度。
更にチェックシートを改訂しました!
Dropbox - ネットワークメタ解析チェックシートver3.pdf
チェックシートの完成度を高めるべく新たなNMAの論文を読むことにしました。
緑内障の点眼薬による治療についてはFizz先生による記事がありますのでご参照ください。(そもそも緑内障点眼薬への理解は概ね以下の記事のようでした)
で、上記記事に緑内障の点眼薬のNMAの論文が紹介されていたのですが、
2008年の上記論文にはタプロスが含まれていないこと、既に2018年であり改訂版が出ている公算が大きいことから、新しいお題論文を探すことにしました。
(「国産」をウリにした製剤はエビデンスが質量ともにイケていないことが多く、上記論文でも対象になれなかったものと推測しています)
(青島先生がNMA祭りでツイートしていた時は焦りました)
では、臨床疑問の定式化をアブストラクトで行いましょう。
I/C:点眼治療単剤、プラセボ(未治療を含む)
O:きちんと記載されていないが、「治療開始3か月後の眼内圧(IOP)」?
微妙にアウトカムの分かりにくい書き方に、読み進める気力を奪われましたが、チェックリスト改良の為、どんどん読み進めます!
P:参加者の60%以上が原発性開放隅角緑内障もしくは高眼圧症と診断された患者
10名未満の群で比較している試験、併用療法を許容している試験は除外
28日以上追跡していること
I/C:β遮断薬:チモロール(チモプトール)、カルテオロール(ミケラン)
ベタキソロール(ベトプティック)、レボブノロール(ミロル)、levobetaxolol
炭酸脱水酵素阻害薬:ブリンゾラミド(エイゾプト)、ドルゾラミド(トルソプト)
α2刺激薬:ブリモニジン(アイファガン)、アプラクロニジン(アイオジピン)
タフルプロスト(タプロス)、トラボプロスト(トラバタンズ)、
濃度は問わず一緒に解析。(感度分析として濃度別解析をする)
O:治療開始3か月後の平均眼内圧mmHgの差(測定方法は問わない)
(眼内圧測定値の優先順位:平均日内IOP>24時間平均IOP>ピークIOP>朝IOP>トラフIOP)
「40%も対象にしたい疾患外の混入を認めるのヤバくね?」と思いつつ次へ
システマティックレビュー(SR)の評価
・データベースはCENTRAL、MEDLINE、EMBase、FDAのサイトで検索。検索語(appendixにある)検索日の記載はあるが、検索期間がない
・元論文バイアスはRCTに限定しており、risk of bias toolで評価している。
結果、スポンサーバイアスがかなり入っているよう。
・評価者バイアスは英語文献のみ二者独立、それ以外の言語は単独での評価、意見対立時は第三者介入を行っている。
・出版バイアスについては言語の制限を設けていないが、参考文献や専門家連絡については記載が見当たらない。またファンネルプロットもない。
・異質性バイアスは事前登録情報はなく、対象集団には40%未満の対象外疾患の混入が認められ、アウトカムの眼圧値も測定方法や内容の違いを無視してよいのか疑問。
SRの作り方が、前回の抗うつ薬の論文に比べて極めて雑なのが伺えます。
(と、いうか前回の論文がSRの作り方でコクランレビューをも凌駕するほど完ぺきなだけで、あれと比較するのは厳しすぎる気もします)
NMAの評価
・ネットワーク図はあるが、閉じた環の少ない介入がぽつぽつ見受けられる(タフルプロスト、アプラクロニジン、levobetaxolol、カルテオロール、トラボプロストが特に少ない)
・直接比較と間接比較を分けて結果を示していない
・11%に不一致がみられたとの記載あり
・COIの記載なし。資金源の記載はあるが提示された番号を検索しても何もヒットしない
(筆頭著者のCOIを確認すべく検索するもCOI不明。眼科出身の疫学の専門家らしい)
Tianjing Li - Faculty Directory - Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health
で、結果(IOPの低下。対プラセボ)
ビマトプロスト 5.61(4.94; 6.29)
ラタノプロスト 4.85 (4.24; 5.46)
トラボプロスト 4.83 (4.12; 5.54)
レボブノロール 4.51 (3.85; 5.24)
タフルプロスト 4.37 (2.94; 5.83)
チモロール 3.70 (3.16; 4.24)
ブリモニジン 3.59 (2.89; 4.29)
カルテオロール 3.44 (2.42; 4.46)
levobetaxolol 2.56 (1.52; 3.62)
アプラクロニジン 2.52 (0.94; 4.11)
ドルゾラミド 2.49 (1.85; 3.13)
ブリンゾラミド 2.42 (1.62; 3.23)
ベタキソロール 2.24 (1.59; 2.88)
ウノプロストン1.91(1.15; 2.67)
タプロス、ミロルに負けちゃった(;^ω^)
で、SUCRAによるランク付けが行われています。(順位は上記の並び順)
COIの公開のないランク付けはメーカーバイアスかかっている可能性が高いのでご注意ください。
あ、Fig5の見方ですが、ランクが上の方にいる可能性が高いほどグラフの曲線の上りが左に寄ります。
正直、疫学の専門家が参加してこの出来ってどうなん?(;^ω^)
前回のお題論文が方法論的に凄過ぎたことによる落差もあるかもしれませんが、結果の確信性が低すぎるでしょ(;^ω^)
で、今回の論文を読んで、更にチェックシートをバージョンアップしました!
是非、ご活用ください!
ネットワークメタ解析チェックリスト改訂への道①~抗うつ薬のNMAを読んでみた~
先日、ネットワークメタ解析(NMA)のチェックリストを作ったので、使い勝手を確認すべくNMAの論文を読んでみることにしました。
お題論文は今年発表された抗うつ薬21種のネットワークメタ解析です。
全文フリーかつ京都大学の古川教授も参加された論文ですので、精神科に興味のある方は是非お読みください。
(SRの手順部分の書き方が理想的かつ読みやすいので、個人的にはこの書き方が全世界に広がってほしい)
今回のお題論文は2009年に話題になったMANGA studyの改訂版になります。
MANGA studyの解説は以下のリンクよりどうぞ(困ったときのミニ丸先生頼り)
では、お題論文を読んでいきたいと思います。
読んでいくうえで、以下のチェックリストを使っていきます。
Dropbox - ネットワークメタ解析チェックシート.pdf
臨床研究は臨床疑問から生まれるので、臨床疑問をまずは確認しましょう。
と、いうわけでチェックリストを上から順に埋めていきたいと思います。
臨床疑問の定式化から(効率化と現実性を考えてアブストで確認しましょう)
P:大うつ病急性期の18歳以上の成人患者
I/C:抗うつ薬21種
O:(有効性)反応率、(忍容性)全理由による治療中止
割と最近の研究タイプであるNMAはアブストも構造化抄録になっていることが多いので、きちんとした研究であればアブストだけでPICOが確認できると思います
。
※この時点でPICOが読み取れない論文を読み進めるよりは、他の文献を探したほうが効率的である可能性が高いので、「ほかの文献を探そう」としています。
ざっくりと大まかにPICOを確認したら、本文から追加情報を探します。
批判的吟味は研究手順が科学的に妥当とされている方法にどの程度準拠しているかを確認します。なので、批判的吟味で見るのはメソッドになります。
追加情報も入れると(赤字は追加部分)
P:その研究が行われた当時使われていた診断基準 (Feighner criteria, Research Diagnostic Criteria, DSM-III, DSM-III-R, DSM-IV, DSM-5, and ICD-10)で大うつ病と診断された急性期の18歳以上の成人患者
(双極性障害、精神病性うつ、治療抵抗性うつ病患者が20%以上含まれる試験は除外)
(※DSM-Ⅳ-TRがないのが気になります。DSM-Ⅳから変更なかったかな?)
I/C:治療量の抗うつ薬21種(カタカナ表記は国内承認済みのもの)
日本、ヨーロッパ、アメリカで承認されている第二世代抗うつ薬
agomelatine、bupropion、citalopram、desvenlafaxine、デュロキセチン(サインバルタ)、エスシタロプラム(レクサプロ)、fluoxetine、フルボキサミン(デルロメール・ルボックス)、levomilnacipran、ミルナシプラン(トレドミン)、ミルタザピン(リフレックス・レメロン)、パロキセチン(パキシル)、reboxetine、セルトラリン(ジェイゾロフト)、ベンラファキシン(イフェクサー)、vilazodone、vortioxetine
アミトリプチリン(トリプタノール)、クロミプラミン(アナフラニール)
O:(有効性)各種スコアリングの50%低下と定義した8週での反応率、(忍容性)8週での全理由による治療中止
8週のデータがないときは4~12週のうち長いものを採用
PICOが立ったところで、システマティックレビューの評価を行います。
・使用したデータベース
Cochrane Central Register of Controlled Trials, CINAHL, Embase, LILACS database, MEDLINE, MEDLINE In-Process, PsycINFO, AMED, the UK National Research Register, PSYNDEX
検索期間は2016年1月8日まで
バイアスへの配慮
・元論文バイアス
「double-blind, randomised controlled trials」を採用。
研究の登録情報(CRD42012002291)をみると中国のRCTは除外されているようです。
http://www.crd.york.ac.uk/PROSPERO/display_record.php?ID=CRD42012002291
個々の研究はコクランのrisk of bias toolを使ったようです。
結果はSupplementary appendix(以下のリンク)より
http://www.thelancet.com/cms/attachment/2119023008/2088154696/mmc1.pdf
本文より全試験中9%の試験がハイリスク、73%が中リスク、18%が低リスクだったと
ITT解析であったかどうかは不明です。(3/12訂正)
・評価者バイアス
6組のペアが独立して抽出・評価を行い、意見の不一致の際はリーダーが第三者として調停に入った
・出版バイアス
言語制限はなし
参考文献の検索の他、著者、専門家、メーカーに未公表データがないか問い合わせている
ファンネルプロットでの検討は行っており、結果はSupplementary appendixに示されている。
結果、出版バイアスの存在が疑われたとのこと。
・異質性バイアス
※システマティックレビュー&メタ解析での異質性と同じ用語だが意味が異なるので注意
アウトカムなどの事前の設定→CRD42012002291で示されている
対象集団の近しさ→MDDの診断基準の違いが無視できるか疑問(特にDSM設定以前と以後)
統合可能なアウトカムか→有効性はいろいろなスコアリングを反応率に変換。スコアリング毎の差異は無視できるか疑問
個人的評価
著者たちはバイアスへの配慮を行っているが、行われてきた試験や過去のいきさつからバイアスが入っていることは否めない
解析本体であるNMAの評価
・ネットワーク図(上:有効性、下:忍容性)
fig2で示されている。閉じた環の数は比較的多いように感じる(絶対的評価基準がないので主観で評価しているため注意してください)研究数が少ない線が多数見受けられる。
※アウトカムごとで報告(計測)されていなかったりするため、上下で全く同じ図にはならないことに注意してください
・直接比較・間接比較を分けて示しているか?→Supplementary appendix137ページ以降に示されている
・一致性→一致しなかったのが8%(アウトカムごとに検討している。サブ解析はSupplementary appendixにあり)
・COIと資金源→明示されている
ここまでみてしっかり作りこまれた研究だと感じた。
結果はFig4
薬剤間の差はそれほど大きくはないように見える。
※左にある物がI(介入)に相当し、右にある薬剤(C:対照)に比べてオッズ比がどうなるかを見ている。例えば有効性で見てEsci vs Fluvは1.34(1.03-1.75)となっているが、反応率を達成するオッズ比がエスシタロプラムはフルボキサミンに対して1.34(1.03-1.75)倍になったと解釈する。なお、GRADEの結果も併記されており例の組み合わせは中等度の確信性とされている。
(MANGAで上位にいたセルトラリンやエスシタロプラムは埋没した感が否めない)
しかし、国内用量と本試験で容認された量はミルタザピンなど一部を除き国内用量の方が少ないため解釈には注意を要する。
ここまでが論文の内容になります。
一度読んだ論文であっても、チェックリストを使うことで、格段に読みやすくなったというのが個人的な感想です。
ですが、わかりにくい部分もあったので改訂しました。
宜しければVer2のチェックリストをお使いください
※青字は3/12加筆訂正分
3/22追記分
本日、エビデンス精神医療研究会に参加して、筆頭著者のお一人である古川先生に質問してきましたので、記載します。
DSM-Ⅳ-TRがない件→DSM-Ⅳと実質的な差がなく分ける必然がなかった。
WHO系の診断基準がICD-10のみ→操作的診断基準でないICD-9以前のものは組み込んでいない。
以上です。
後、古川先生の教室のHPにネットワークメタ解析のチェックリストが公開されていると教えていただきましたので、ここで紹介します。
上記リンクの中から
http://ebmh.med.kyoto-u.ac.jp/files/Enetwork%20meta-analysis.doc
英語のチェックリストでした。
宜しければご参照ください。
次回のエビデンス精神医療研究会は5/31です。
年間1000円(年6回開催)とかいう極めて頭の悪い価格設定の研修会ですので、是非ご参加ください!
次回は初心者(研修医)対象に古川先生からRCTの読み方のレクチャーが入ります。
ネットワークメタ解析の論文を批判的吟味をしながら読むときに使えるチェックリストを作ってみた件
【作成の背景】
最近ネットワークメタ解析の論文を読むことが増えてきたのですが、どう批判的吟味をしたらいいのかよくわからず、青島先生作成JJCLIP印のシステマティックレビューのチェックリストを代用していたのですが、人に向けて解説する機会ができたため、分かり易い専用のチェックリストが欲しくなった
【既存のチェックリスト】
相原先生のホームページで公開されているもの
内科医のエビデンスに基づく医療情報 » Network Meta-analysis、Multiple Treatment Comparison Meta-analysis、批判的吟味、JAMA
実際のチェックリストは下記のリンクよりどうぞ
http://www.grade-jpn.com/jama/NMA.pdf
チェックリストの基となった文献
How to use an article reporting a multiple treatment comparison meta-analysis. - PubMed - NCBI
【作成に当たって】
基にした文献
論文であげられていたチェック項目
①対象者は?
②介入はすべての選択肢が入っているか?
③アウトカムは何か?
④適用可能性は?
⑤関連するRCTはすべて包含されているか?
⑥ネットワークは一つ以上あるか?
⑦質の低いRCTは入っていないか?
⑧選択的報告によるバイアス
⑨治療修飾因子(年齢など結果に影響を与える因子)への配慮は?
⑩RCTの質(ITT解析か)
⑪一致性は(間接比較と直接比較での効果推定値は近似しているか?)
⑫研究の網羅性は?(組み入れ基準によるバイアス)
⑬バイアスを最小化するモデルの選択(一致性モデル、不一致性モデル)
⑭ランダム効果モデルで統合したか?
⑮異質性は?
⑯異質性があった場合の感度分析は事前計画されたか?
⑰ネットワーク図は示されているか?
⑱個々の結果は示されているか?
⑲直接・間接比較の結果は分けて示されているか?
⑳95%信頼区間は示されているか?
㉑SUCRAのランク付けはあるか?
㉒感度分析は行ったか?
㉓結果は公平か?
㉔COIの有無と公開
作成に当たって参考にしたチェックシート
で、作成したチェックシートがこちら
Dropbox - ネットワークメタ解析チェックシート.pdf
各チェックポイントに簡単な解説と、ここでダメ評価になったら他の論文探したほうがええんちゃう?というポイントを明示しました!
実際使ってみての感想を僕のツイッターアカウント(zuratomo4)までお願いします!
一般向けの医療情報を紹介した書籍にまともなものは存在しない!
いきなり極論風に結論を書いちゃいました(;^ω^)
極論の意図は最後で解説します。(どうせ医療デマな本に騙された被害者の方には、当ブログの説明は親切度が足りなくて読むのが苦痛でしょうから)
この記事はじほう社から弊社宛に送られてきた挑戦状(ラブレターともいう。単なるチラシ)の検証が目的です。
以下は実際に送られてきたラブレターです。(正直、ラブレターは女性からいただきたいです。と、言うか女性から以外のラブレターは遠慮したいです)
一見して「認知機能低下は治せる?防げる?デマも大概にしろ!」としか思わなかったし、著者見て「世界的権威?誰だよ?ああ、自称ですか。偉そうな肩書を自称するのにまともなのいねぇし。日本で有名な肩書自称は自称医療ジャーナリストのいとしゅん氏ですよね~」という感想しか出ませんでした。
あんまりボケっとしてるとネタをHさんに全部ツイートされかねないので、大急ぎで書いてます(^^;
チラシの裏を見ると「metabolic enhancement for neurodegeneration (MEND)」とかいうプログラムを実施したら、認知症患者さんの認知機能が回復して仕事に復帰できたのだとか。
で検索してみると以下の論文が見つかりました。google先生、超優秀!(正直まともな論文があるとは思えなかったので、パブる気にもなりませんでした)
Reversal of cognitive decline: a novel therapeutic program. - PubMed - NCBI
PMID: 25324467(全文フリー)
クッソ長いイントロのあとに10例の症例報告が出ています。(本文で紹介された3例を抜粋)
①67歳女性。物忘れに悩む(認知症であったかどうか不明)→介入で改善した模様。
②69歳男性。起業家。FDG-PETで初期アルツハイマーパターンがみられる→介入で改善した模様。
③55歳女性。弁護士。仕事でスペイン語を覚えようとするもできず→介入でできるようになった模様。
診断名のない症例報告って(;^ω^)
しかも介入前後のデータが症例報告なのに全症例分ないって(;^ω^)
と思ったら表に書いてあったけど、診断根拠なんだろ?FDG-PETは感度特異度共にイマイチで臨床的には実用に耐えないレベルなんだが。
で、介入はというと
見ても何をしているのかよくわからない。検査値を正常化って?何よ?
で、二年後にまた同著者から同タイトルで論文出ました~!
Reversal of cognitive decline in Alzheimer's disease. - PubMed - NCBI
PMID: 27294343(全文フリー)
唯一の表がコレ
前の論文の10症例がそのまま転載されてね?
有効な介入なんだったら新規症例いるよね?
そもそも有効な介入なんだったらRCTやんなさいよ
結論から言うと何らかの原因たまたま認知機能がよくなった10人を自分の手柄って報告しただけ(ほかに有効だった人がいないから症例がそのまま流用されてる)
これが世界的権威(爆笑)
google先生に「metabolic enhancement for neurodegeneration 」って入力してここまで判明するのに10分強。
この程度の検証もできないって、じほう社さん、大丈夫ですか?
そもそも、現時点でアルツハイマー型認知症の治療・予防の双方とも有効な介入は見つかっていません!
一番「metabolic enhancement for neurodegeneration (MEND)」に近そうなFINGER試験も「有意な誤差」でしかなかったことは指摘済みです。
今回の記事はここまでです。
駄文を最後まで読んでくださった、あなたのやさしさと忍耐に感謝を!
では、タイトルについて解説を
本当は「一般向けの医療情報を紹介した書籍にまともなものはほとんど存在しない!」としたかったのですが、そうしてしまうと「じゃ、自分の読んでるのは大丈夫」と都合よく解釈される危険性が高いと判断し、不正確なタイトルになるデメリットと勘案して極論にしました。
都合よく解釈された例の記事(Fizz先生、ありがとう)
指導したのに、ネット情報を信じるのはなぜ? | 薬剤師目線で考える 今月、世間を賑わした健康情報 | 薬剤師情報サイト ファーマトリビューン(PharmaTribune)
居酒屋抄読会in天王寺、開催報告。本編:「qSOFAとSIRSとオムツ」延長戦:「診断のシステム1と顔面改造工事」
遅くなりましたが、2/9に開催しました居酒屋抄読会in天王寺の開催報告をしたいと思います。
開催案内は以下よりご参照ください。
録音はこちらからどうぞ
本編「qSOFAとSIRSとオムツ」https://twitcasting.tv/zuratomo4/movie/440056552
延長戦「診断のシステム1と顔面改造工事」https://twitcasting.tv/zuratomo4/movie/440076813
お題論文はqSOFAとSIRSクライテリアの比較をした研究のメタ解析論文になります。
共に敗血症で使われる基準となりますが、SIRSは旧定義(sepsis-1)で敗血症患者のスクリーニングを目的として作られたものであり、qSOFAは2016年2月に公開された新基準(sepsis-3)で作られた基準(SOFA)とは別個の死亡率が高く危険な患者群を特定するために作られた基準です。
本来別定義の別基準、しかも目的が異なるもの同士を比較するので、前提がアレなのですが、現状この比較しかqSOFAを検証する術がないので、上記のような研究が行われました。
要するに高感度低特異度(敗血症診断に対して)のSIRSと低感度高特異度(死亡に対して)のqSOFAの対決です。
このあたりの歴史的背景は、薬師寺泰匡先生の著書「@ER×ICUめざせギラギラ救急医」のp.199~に参考文献付きで詳しく書かれていますので、興味のある方は是非ご一読を!
では、論文の中身を見ていきましょう
先ずは臨床疑問の定式化から
(登録情報を見るとICUの部分は記載なしhttp://www.crd.york.ac.uk/PROSPERO/display_record.php?ID=CRD42017067645)
I:qSOFAを使用
C:SIRSを使用
(I群、C群とも入院時のデータで評価したと登録情報に記載がある)
O:敗血症診断の感度・特異度、ICU滞在期間の予測(このアウトカムは本文中では評価されていない)、院内死亡率の予測
続いてSystematic Reviewの評価を。(ここでは集める対象の研究、集める努力、実際に集まったかを評価します)
研究の種類:観察研究
使用したデータベース:MEDLINE,CIANHL,Web of Science
言語:英語のみ
個々の研究の質の評価:Newcastle-Ottawa Scale(0~8点、5点以上で良。集まった10研究中1個が低質と評価)
死亡をアウトカムとした研究と診断感度をアウトカムとした研究のファンネルプロットが示されており、著者はpublication biasは少ないとしている。
*個人の感想:新基準の発表から1年と少々でのレビューであり、質を担保して集めるとなると英語のみは妥当な判断としてよいか。ファンネルプロットは基本的には10研究以上で行うものだが、10研究に満たないにもかかわらず行っている。sepsis-3公開から期間がないことを考えるとよく集めたという感じはするが、ファンネルプロットをおこなう意味はあったのだろうか?
結果
院内死亡:SMD(標準化された差) 0.03、(95% CI, 0.02-0.05)I2 = 48%
*なぜか本文ではリスク比と記載されている。
診断感度:SMD1.32;、(95% CI, 0.40-2.24) I2 = 100%
*これもなぜか本文ではリスク比と記載されている。異質性100%だが、全研究で感度はSIRSが勝っているので、異質性は程度の差という判断で良いと思われる
死亡予測では死亡予測ツールとして開発されたqSOFAが、診断感度はその目的で開発されたSIRSがよかったという順当な結果でした。示されていないアウトカム(診断特異度、ICU在室期間)がどうだったかは不明と。
もともとSIRSの特異度の低さ(スクリーニング目的なので特異度が低いのは仕方ないのだが)が問題視された経緯があるので、微妙な結果だったのだろうなぁとは予測できるが
Systemic inflammatory response syndrome criteria in defining severe sepsis. - PubMed - NCBI
今回参加していただいた薬剤師メンバーのうちqSOFAに日常的に触れているメンバーは僕も含めていないので、どういった場面でqSOFAを使うかの議論にもなりました。(ベッドサイドで簡便に使えるのがqSOFAのウリなので)
使い道
①経口抗菌薬が処方された患者さんが薬局に!
→ふらふらで呼吸が荒い!(=qSOFA2点)
→疑義照会(抗菌薬処方=感染症疑い+qSOFA2点→敗血症疑い!)
②在宅で
→ふらふらで呼吸が荒い!(=qSOFA2点)
→至急連絡!(qSOFA2点=死亡する可能性の高い状態であることの示唆!)
qSOFAを味方にすることで、バイタルサインの知識も活した活躍もできそうで、楽しい一夜となりました。
なお、締めのラーメンを食べに行った後、見事に終電を逃し徒歩で帰宅することになりました!(40分とかからなかったので、食後のいい運動とは言えなかったのが残念です)
駄文を最後まで読んでいただきありがとうございました!
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