抄読会の発表当番に苦しむ貴方に贈る~論文を読むときに臨床試験登録情報を活用する方法~
<はじめに>
今まで当ブログではお題論文のリンクの他に、臨床試験登録情報へのリンクも貼っていました。
8/10に開催したビアガーデン抄読会in天王寺(報告記事まだです。すみません)、8/26に開催した第1回居酒屋抄読会in大都会で臨床試験登録情報を提示したところ「知らない」「使い方がわからない」という声をいただきました。
今までリンクをはってはいたものの臨床試験登録情報について解説したことがなかったこと、多くの人は公的な場で学ぶ機会がないことに思い至りました。
そのため、今回の記事は臨床試験登録情報の活用法を紹介したいと思います。
なお、僕自身公的に系統だって学んだわけではなく、使い方もJJCLIPに出会う前に「いかに楽に読むか」追及して編み出した我流になりますのでご承知おきください。
<本記事の対象>
①:抄読会でみんなに紹介するためガッツリ読むことが求められているが、どう読んでいいかわからない方
②:周りに一緒に論文を読む仲間がいなくて、正しく読めているか不安な方
<お題論文>
※8/26開催の岡山CASPで使われたEMPA-REG OUTCOME試験を扱いますが、論文本体は参考程度にしか扱いません
Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes. - PubMed - NCBI
PMID: 26378978
今回のテーマである臨床試験登録情報は以下の通りです。
本来は上で示した形式がデフォルトですが、個人的には表形式を使っていますので、表形式のリンクも貼っておきます。
上のリンク先で「Tabular View」というタグをクリックするだけです。
今回使うワークシート
http://caspjp.umin.ac.jp/worksheet/RCT21j.pdf
(A:内的妥当性、B:結果、C:外的妥当性で構成されています)
<臨床試験登録情報について>
今回はClinicalTrials.govを扱います。
日本国内だと一般財団法人日本医薬情報センター 臨床試験情報、UMIN-CTRあたりが有名でしょうか。
臨床試験登録情報制度ができた背景は以下のリンク先で知ることができます。
僕個人の理解している範囲でざっくり説明すると、結果の思わしくない臨床試験は報告(論文化)しないという事態が横行したため、出版バイアス回避を目的に始まったシステムといったところでしょうか。
その他にもアウトカムを事前に登録しているため、アウトカムの改変が察知できるのでSPIN(アウトカムを有意差の出るように改変すること)を見つけるのにも使えます。
<ClinicalTrials.govの見方~表形式(Tabular View)でマスターしよう~>
①構成を理解しよう
表形式にしても変化しない部分がこちらです。
目につくのは、タイトル、免責(左側の灰色の枠内。意訳すると「NIHも政府も記載内容に責任は持たない。責任は書いたやつにあるから注意な」なので使用は使う側の責任です)、試験の状態と開始日終了日(右側の赤いところ)、スポンサーでしょうか。
下にスクロールするとこんな感じです。
ここからは上から順に簡単に各項目を見ていきます。
項目はいくつかの大項目に分かれています。
「Tracking Information」の項目
・日付(試験登録日、試験登録受付日、最終更新日、試験開始日、試験終了日)
・現在のプライマリアウトカム(下の日付は提出日)
・オリジナルのプライマリアウトカム(下の日付は提出日)
(アウトカムが変更されていないときは「same as current(現在と同じ)」と記載される)
・登録情報の変更履歴(リンクをクリックすると別ページに飛ぶ。変更履歴の見方は後程解説する)
・現在のセカンダリアウトカム
・オリジナルのセカンダリアウトカム
・現在のその他のアウトカム
・オリジナルのその他のアウトカム
「Descriptiprive Information」
・簡易な試験名
・公式な試験名
・簡単な試験概要
・詳細な試験の説明
・研究のタイプ
・研究のフェーズ
・試験デザイン(allocation、intervention model、masking、primary purpose)
・条件
・介入
・Study Arms
・出版された研究成果(プロトコル論文やサブ解析などが表示される。なおリンクをクリックするとPubmedのページに飛べる)
「* MedlineのClinicalTrials.gov Identifier(NCT番号)で特定される出版物だけでなく、データ提供者が提供する出版物も含まれます。」という注意書きがある。
「Recruitment Information」
・募集状況(まだ、募集中、現在進行中、完了など)
・実際の登録人数
・オリジナルの登録人数
・実際の試験終了日
・実際の一次完了日 (主要アウトカム指標の最終データ収集日)
・参加基準(組み入れ基準、除外基準が箇条書きされる)
・研究対象の性別
・年齢
・Healthy Volunteersの受け入れ
・連絡先
・参加国
・参加国から除外された国
「Administrative Information」
・NCT番号
・他の研究ID番号(一つの試験が複数の臨床試験登録をしていることもある)
~以下省略~
⇒CASPワークシートのうち、解析方法(ITT解析?FAS?PPS?)と施行バイアス(両群は介入以外等しく扱われたか?)以外の項目はここで埋めることが可能
②変更履歴の見方を理解しよう
先ずは変更履歴のところに表示されているリンクをクリック!
(ブラクラじゃないので安心して踏み抜いてください)
Complete list of historical versions of study NCT01131676 on ClinicalTrials.gov Archive Site
リンク先に飛ぶと以下のようなページに飛ぶので、さらに赤枠のリンクをクリック
そうすると以下のページが表示される
左から、バージョン、比較する際左側に表示したい項目、右側に表示したい項目、変更内容が表示される。ここから、EMPA-REG OUTCOME試験は登録情報を84回変更したことが分かる。
アウトカムの変更履歴が見たい場合、左側はデフォルトでオリジナルが選択されているのでそのまま放置して、右側のポインタを見たい時期に合わせてクリックしよう。
この時変更項目に「Outcome Measures」と書いてある部分でアウトカムが変更されているので、その日付をチェックしよう。
一回目の変更がVer13(2011.4.5)で行われているので
上記のようにチェックを入れて
①→②のようにクリックしよう
そうすると以下の画面が表示される
この時赤丸で囲んだようにチェックが入っていなかったら、即座にチェックしておくこと
後は目的のアウトカムの項目までスクロールすると
変更箇所が色分けされている。
ここではセカンダリの「非致死性心筋梗塞」の誤字訂正がされたことが分かる。
因みにほかの項目もチェックしていくと、プライマリアウトカムが最大4年から8年、5年と変更されていくのがわかる。
<おまけ>
「Study Results」のタグをクリックすると、結果が見られることもある
(例示したのはプライマリアウトカム)
<ワークシートを該当項目で埋めてみた>
A1(PICO):P=参加基準、I/C=Study Arms、O=現在のプライマリアウトカム
A2(試験デザインはRCTでよい?):研究のタイプ(介入)
A3、4(ランダム化と盲検化):試験デザイン
A5、6は解析と施行バイアスの為省略
A7(サンプルサイズ):オリジナルの登録人数
(途中で人数が変更になっており、プロトコル論文では訂正後の数値が、本論文では目標イベント数691のみで表示されている)
ClinicalTrials.govの使い方は以上です。
通常読むのに使うには手間がかかるので、実際上記の方法を使うのは抄読会やワークショップ、本ブログの記事作成時のみです。
長々とした解説記事を読んでいただきありがとうございました。
<おまけというか個人的禁忌技>
ClinicalTrials.govで「参加国」に注目!
「Japan」はあるか?
あったら儲けもの!
NCT番号を検索エンジンにかけ、日本語のみの結果を見てみよう
「JapicCTI-No.」が見つかれば、アタリだ!
実はEMPA-REG OUTCOME試験は日本でも行われており、日本でも登録されている。
以下のリンクがそれだ。
http://www.clinicaltrials.jp/user/search/directCteDetail.jsp?clinicalTrialId=7644
開いてみよう
以下のようなページが開かれるはずだ
もうお気づきだろう
日本語なのだ!
さっきまで解説してきた部分の多くが日本語で記載されているのだ!
つまりここから抜粋すると、公式スポンサーによる日本語訳つきでワークシートが埋まるのだ!
これが禁忌だという理由はお気づきだろうか?
英語を全く読まなくても終わってしまうのだ!
抄読会やワークショップで頑張って英語を読んで「PICOは~」とか言ってたのがばからしくなるのだ!
そのため、個人的には禁忌技として自分自身に使用を禁じている。
ここまで読んだ貴方がどうするかは貴方自身に委ねよう。
それでは、小芝居にお付き合いいただきありがとうございました。
8/19 12:00頃から居酒屋抄読会in新潟を開催します
体調不良で臥せっている間に7月が終わっていました。
で、今回はリハビリ目的の告知記事です。
<第1回 居酒屋抄読会in新潟>
日時:8/19(日)12:00頃(少し遅れます)
お題論文
PMID: 28103276
<仮想症例シナリオ>
あなたは町の薬局の薬剤師です。
お盆休み前の混雑も一区切りし、お昼ご飯を食べようとした時、5歳のお子さんを連れて、あなたの好みのタイプど真ん中のお母さんが来客しました。
「いつも行く小児科に咳が出ると受診して前も出た薬を出しとくねと言われたんだけどあんまり効いてる気がしなくて…。何かいい方法ないかとも自分でも調べてみて色々試したんですけど効果はイマイチだし、咳が出てると私もあまり寝れないし…。何かいい方法ありませんか?」
処方箋を見ると、ここの小児科で処方される定番のポララミン、アスベリン、ムコダインが処方されています。
あなたは(こんな美人なら色んな意味で寝かさないけど!?)と心の中で思いながら、それを押し隠して、「いい方法があるかもしれないので調べたら連絡させて頂きます。連絡先を教えて頂けますか?」と上手いこと(?)連絡先を聞き出して今回は帰宅して頂き調べてみることにしました。
調べてみるとポララミンとジフェンヒドラミンという違いがあるものの気になる論文を見つけたので調べてみることにしました。
はい、ふーた先生(@futapapatsu3)渾身のシナリオです。
もうシナリオだけで盛り上がっちゃいそうです。
シナリオははっちゃけ気味ですが、ご本人は子供に等しく自愛の目線を向けすぎて「視線で孕ませることができる」といじられるくらいの子供大好きなジェントルマンです。
今回のお題論文の関連記事がふーた先生のブログにありましたので、リンク貼っておきます。
なお、8/19の21:00よりJJCLIPも開催されますので、ふるってご視聴ください。
居酒屋抄読会in札幌(北海道発開催)開催報告
<はじめに>
更新さぼってました。
すみません。
今回の記事は去る7/7に開催した居酒屋抄読会in札幌の開催報告になります。
ちょうどこの日、プライマリケア連合学会の北海道支部の研修会があり、そちらに参加して宣伝だけした後、居酒屋抄読会を駅近くの居酒屋で開催しました。
<お題論文と配信の録音>
PMID: 28790224
※お題論文が短かったため、ほぼ同じ内容で3回配信したうちの3回目。
<背景>
サプリメントについての論文を読もうと決まった後、「美肌」や「アンチエイジング」で検索したところ、「メチルサリフォニルメタン」の配合商品が売上ランキング1位に来ていたので(現在では10位以内にもいなくなっていた)、「メチルサリフォニルメタン」で検索してみた。
「methylsulfonylmethane」で医学論文を検索しても、「美肌」や「アンチエイジング」について検討した論文は見つからなかった。(他成分でも美肌やアンチエイジングを検討したものが見つからなかった)
ただ、関節痛や関節炎への効果を検討した論文はあったので、そちらを読むことにした。
以下は参考
メチルスルフォニルメタン (メチルサリフォニルメタン)の安全性・有効性情報
<批判的吟味>
P:KL分類Ⅰ~Ⅱの変形性膝関節症の患者147名
I:グルコサミン1500mg+コンドロイチン1200mg
C:グルコサミン1500mg+コンドロイチン1200mg+メチルスルホニルメタン500mg
O:VAS、WOMAC(測定したのは4週、8週、12週)
研究デザイン:ダブルブラインドRCT
患者背景⇒プラセボ群により重症な患者が集まっている
解析:ITT解析(そもそも脱落無し)
<結果>
table2が生に近い結果、ベースラインとの差で示したのがtable3
なんか数字が合わない。
いや、Table3の赤丸付けたところは普通に引き算したら同じ値になる。
どんな処理をしたのだろう?
結局、もやもやしたまま札幌の第一夜が過ぎました。
<北海道旅行その後>
一度は行ってみたかった旭山動物園へ!
途中から、動物園を楽しむおっさんの図まで、キャスで公開するという。
<謝辞>
プライマリケア連合学会の会場でお財布を落とすという痛恨のミス!
世話役の方から職場に電話→上司からLINEで取りに戻るという
その説は大変お世話になりました!
近畿大学CASPワークショップ(2018.7.1開催)の予習ついでにキイトルーダの費用対効果の論文を読んでみた
<背景>
Pubmedの「Similar articles」に出てきたので、なんとなく読んでみた。
なお、がんを扱っていない病院勤務の為、現物を見たことはないです。
<お題論文とチェックシート>
PMID: 28620848
Dropbox - 費用対効果チェックシートver2.pdf
<リサーチクエスチョンは?>
チェックシート(チェックリスト)に従ってアブストラクトから抽出、本文メソッドより追加の内容を拾うと(追加情報は赤字)
P: 進行性非小細胞肺癌(NSCLC)stage IV の患者。→要は前記事のP(腫瘍細胞の50%以上にPD-L1発現。18歳以上。NSCLCに対する全身化学療法の治療を受けていない。平均余命3ヶ月以上。RECIST 1.1で放射線学的に評価できる病変が1つ以上。ECOGのパフォーマンスステータス0または1。)
I:ペムブロリズマブ200 mgを3週ごとに静脈内投与。(35サイクル)
C:プラチナベースの化学療法
(5種類のうち1つを担当医が選択。投与スケジュールは事前登録情報かプロトコルを参照してください)
①カルボプラチン(AUC5~6)+ペメトレキセド(500mg/m2、アリムタ)
②シスプラチン(75mg/m2、ランダ)+ペメトレキセド(500mg/m2)
③カルボプラチン(AUC5~6)+ゲムシタビン(1250mg/m2、ジェムザール)
④シスプラチン(75mg/m2)+ゲムシタビン(1250mg/m2)
⑤カルボプラチン(AUC5~6)+パクリタキセル(200mg/m2、タキソール)
※PDが発生した場合、条件によってはI群の治療を受けることも可能
O:ICER(効果はQALYとLYで測定、QOL値はEQ-5Dで計測)
※LY=生存年数(QALYからQOLの評価を除いたもの)
<方法の評価>
・分析の立場:US third-party public healthcare payer
(公的保険支払者。つまりメディケア、メディケイド)
・分析期間:20年
・割引率:年率3%
・コスト見積もり:Table1に記載
・見積もりの根拠:NCCNガイドラインなど
・価格:米ドル(2016年)
・モデル:分割生存時間モデル
(癌患者の予後を「無増悪生存」「増悪後の生存」「死亡」の3状態に分けたモデル)
・パラメータ:Fig.2~4が相当するか?
・パラメータの根拠:KEYNOTE-024、専門家の意見
・根拠なしの値の感度分析での扱い:±25%で動かしている(一部50%も)
<結果とその頑健性>
・ICER(Table2):$US97621/QALY、$US78344/LY
・不確実性
→トルネード図による分析(Fig5):遷移確率
→散布図(Fig6):y=axの数式を見ているよう
・異質性:記載なし
・閾値:$US171660(WHOの$US50000/DALYを換算したとディスカッションに記載)
・資金源:公開されている(メルク)
・COI:公開されている(著者はメルク社員)
<まとめ>
有害事象の見積もりが肺炎を除いて、KEYNOTEでの報告値より軒並み高い。
閾値がディスカッションで三倍強の値になった根拠はよくわからない。
ただ、思ったより安いかな?
なお、日本でのキイトルーダの薬価は100mg/瓶で410541
2016年の為替レート(月平均)101~118
日本の価格をドル換算すると6958.3~8129.5となり、本文中のキイトルーダ治療費の$US8762より安い?
近畿大学CASPワークショップ(2018.7.1開催)の予習をしてみた件
<はじめに>
2018.7.1開催の近畿大学CASPワークショップの予習です。
抗がん剤とは無縁の職場なので、解釈に間違いがある可能性が高いのでご注意ください。
ワークショップの流れに沿って、論文の内的妥当性の吟味→外的妥当性と適用で進めていきます。(本当はシナリオの臨床疑問の抽出を最初に行う)
また、内的妥当性の吟味はCASPのチェックシートに沿った形で行います。
<お題論文>
・ペムブロリズマブ(キイトルーダ)の第三相臨床試験より
PMID: 29129441
KEYNOTE-024の後付け解析(事前に規定されていたとの記載はあるが、登録情報には事前に設定されていた痕跡はない)としてQOLを扱った論文です。
※以下、おまけ
事前登録情報
NCT02142738
(主要解析の事前登録情報なので、お題論文の内容を必ずしも反映していません)
プロトコル論文(全文フリー)
Pembrolizumab versus Chemotherapy for PD-L1-Positive Non-Small-Cell Lung Cancer. - PubMed - NCBI
PMID: 27718847
<内的妥当性>
・A-1:研究仮説(RQ)
P: 進行性非小細胞肺癌(NSCLC)stage IV の患者。腫瘍細胞の50%以上にPD-L1発現。18歳以上。NSCLCに対する全身化学療法の治療を受けていない。平均余命3ヶ月以上。RECIST 1.1で放射線学的に評価できる病変が1つ以上。ECOGのパフォーマンスステータス0または1。
※キイトルーダ審査報告書(2016年12月19日)より「化学療法歴のない、EGFR 遺伝子変異陰性、ALK 融合遺伝子陰性及び PD-L1 陽性(≧50%)の進行・再発の NSCLC 患者」
I:ペムブロリズマブ200 mgを3週ごとに静脈内投与。(35サイクル)
C:プラチナベースの化学療法
(5種類のうち1つを担当医が選択。投与スケジュールは事前登録情報かプロトコルを参照してください)
①カルボプラチン(AUC5~6)+ペメトレキセド(500mg/m2、アリムタ)
②シスプラチン(75mg/m2、ランダ)+ペメトレキセド(500mg/m2)
③カルボプラチン(AUC5~6)+ゲムシタビン(1250mg/m2、ジェムザール)
④シスプラチン(75mg/m2)+ゲムシタビン(1250mg/m2)
⑤カルボプラチン(AUC5~6)+パクリタキセル(200mg/m2、タキソール)
※PDが発生した場合、条件によってはI群の治療を受けることも可能
O:15週時点でのQLQ-C30(がん種を問わない自記式QOL測定質問用紙)、QLQ-LC13(肺がんに特化した自記式QOL測定質問用紙)
・A-2:研究手法(デザイン)
薬剤効果を見ることが目的なので、RCTが適切と考えられる。本研究はRCT。
・A-3:割り付け
ランダム割り付け(ブロックランダム法、ブロックサイズは4)
・A-4:盲検化
なし。本文中の「blinded independent central review」はPFS(無増悪生存期間)の評価を指しているので注意。(なので、本解析はPROBE法)
・A-5:解析法
FAS(審査報告書ではITTとなっているが、製薬協会の決まりで治験の解析はFASで行われる)
・A-6:介入以外の処置は同等か?
プロトコル47ページ「Concomitant Medications/Vaccinations (Allowed & Prohibited)」に記載あり。
・A-7:サンプルサイズ
後付け解析の為計算できない
・B:結果
①ベースライン(お題論文に記載がないのでプロトコル論文より)
I (154名) C(151名)
年齢:中央値、(幅) 64.5(33~90) 66.0(38~85)
男性:人数、(%) 92(59.7) 95(62.9)
東アジアからの参加: 21(13.6) 19(12.6)
EOCG PS0: 54(35.1) 53(35.1)
現喫煙者: 34(22.1) 31(20.5)
非喫煙者(喫煙歴無): 5(3.2) 19(12.6)
扁平上皮癌: 29(18.8) 27(17.9)
脳転移: 18(11.7) 10(6.6)
②QLQ-C30(Table 2より)
I群6.9 vs C群-0.9 MD7.8 95%CI:2.9~12.8
③QLQ-LC13(Figure 3:悪化までの生存曲線)
HR0.66 95%CI:0.44~0.97
④仮想症例シナリオ用(Figure2より)
疲労:I群で少ない、不眠・下痢は両群で同程度。
<外的妥当性>
Aさん(stageⅢANSCLC)へキイトルーダ開始の説明に行くも、Bさんに説明に行くという痛恨のミス。
Bさんは倦怠感、下痢、不眠を前治療で経験しており、同じような症状に苦しむくらいなら治療はしたくないと。(主治医は把握していなかった)という設定。
Bさんの基本情報がなく、適用してよいのか不明な部分が多いが、倦怠感は少なくなりそうなので、効果も合わせるなら年齢等の状態にもよるがチャレンジする価値はありそう。
その前に、患者を取り違えるなど事前情報の把握の甘さと勉強資料がメーカーパンフというシナリオの「あなた」がヤバすぎる。
あと、舞台の病院の教育研修状況も危険。早急に改善しないと取り返しのつかない事故が近日中に起こりそう。
ブレクスピプラゾール(レキサルティ)のシステマティックレビューとネットで拾った怪しげな医療経済評価の怪文書を読んでみた
<はじめに>
ブレクスピプラゾール(レキサルティ)の院内採用に当たって効果を検証したシステマティックレビュー&メタアナリシスの文献を探すついでに、海外での費用対効果の文献を探してみたら学会ポスター風の変なチラシみたいなのを見つけたので、ついでに読んでみた。
くわばら先生のブログが詳しいので、よろしければご参照ください。
新規抗精神病薬レキサルティについて | hidex公式ブログ『はぐれ薬剤師のココロ』
後、院内採用になりそうな薬は必ず目を通す審査報告書も貼っときます。
<お題論文と怪文書>
PMID: 27157799
怪文書
http://www.pharllc.com/wp-content/uploads/2016/04/Brexpiprazole-Poster-for-CPNP.pdf
怪文書といっても、著者の所属とか書いてあるんですけどね(;^ω^)
ルンドベックとか大塚アメリカ社のメディカルアフェアーズ部門の人の名前あるし。
<システマティックレビューを簡単に読む>
・RQは?
I:ブレクスピプラゾール0.25mg、1mg、2mg、4mg
C:プラセボ
O:6週間後のPANSS
・phase2:1試験、phase3:2試験(VECTOR、BEACON)のうちphase3を統合
→元試験の質以外はバイアスのかかったシステマティックレビュー。
→(おまけ)2mgでプラセボと有意差が出なかったBEACON試験はメーカーからは紹介されません。
・結果
(プラセボとの間に有意差の見られなかったphase2とphase3の0.25mg、1mgは割愛)
PANSS
2mg -18.79 vs placebo -13.33 MD -5.46 95%CI:-8.46~-2.47
4mg -20.01 vs placebo -13.33 MD -6.69 95%CI:-9.67~-3.70
CGI-S(ベースラインからの変化量)
プラセボ:-0.82
2mg:-1.07
4mg:-1.20
※日本国内では、第三相臨床試験で4mgはプラセボと有意差がなかったため、2mgまでしか承認されていません。「エビデンスが~」といって2mg錠を2錠使わないように!
※4mgが承認審査でけられたことを隠して「1mg→2mgのシンプルな用量設定です」と宣伝してるの、油断してると吹き出しそうになるのは秘密です。
※対プラセボでPANSSの差が1ケタ台って、他の薬剤では中等量くらいの効果のような(;^ω^)<大体、最大用量では10点台の改善はあるで
<「An Economic Evaluation of Brexpiprazole Treatment in Adult Patients with Schizophrenia in the United States」を読んでみる>
・RQは?
P:18~65歳の統合失調症患者 2nd lineの治療
I: Brexpiprazole(以下、「brex」と略) 2mg ,4mg
C:QuetiapineXR600mg,Lurasidone120mg(ともに国内未承認)
O:ICER(有効性の評価尺度はPANSSとCGI-Sの二つ)
※今回はPANSSの方だけで検証してみる
・批判的吟味
分析の立場:US Managed Care Payer(支払者)
分析期間:6週間
リソース・コスト見積もり:Table2と3(brex2mgと4mgで価格が同じ?)
価格:2014 US Dollars
モデル:決定樹
パラメータ:Table1(PANSS Score Changeより抜粋)
brex2mg-19.65 brex4mg-20.93 lurasidone-18.69 quetiapineXR-25.72
根拠:brexはVECTORとBEACON(要は上のシステマティックレビュー)
QuetiapineXR600mgが9~10,Lurasidone120mgが6~8と文献番号が振られているが、実際に調べてみると根拠は逆になっている。
QuetiapineXR600mg
PANSS(6週)-30.9
PANSS(6週、プラセボとの差)-13.01
PANSS(6週)「the differences were not statistically significant」とあるが数値無し
Lurasidone120mg
PANSS(6週)「significantly greater improvement at week 6」とあるが数値無し
PANSS(6週)-20.5
※根拠とパラメータを数値のわかる範囲で比較すると、brexは上方修正され比較対象薬剤は下方修正されているよう
・結果:ICER(PANSS)
ブレクスピプラゾールはlurasidoneにdominatedであった
<感想>
有効性の数値を都合のいいように修正したからでは?
認知症患者さんにがっつり運動してもらった認知機能はどうなる?⇒変わりませんでした!
<はじめに>
はい、タイトルにオチ入れちゃいました(;^ω^)
もう記事を読む価値はないかもしれませんが、お付き合いいただければ幸いです。
<お題論文>
PMID: 29769247
こちらはプロトコル論文
PMID: 27015659
で、双方で事前登録情報が異なっています。
上:ISRCTN10416500
下:ISRCTN32612072
上は急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の換気方法の研究です(OSCAR試験)
本文の解釈には全く関係ありませんが、参考までに。
<臨床疑問>
P:軽度~中等度の認知症患者494名
→(本文より)DSM-Ⅳで診断。MMSE>10、10Feetを独歩で移動可能、椅子に着席できる。
→4ヶ月週2回グループセッション:理学療法士監督下にジムもしくは施設でエアロバイク(ウォーミングアップ5分+許容レベルに合わせた運動)+ダンベルなどを使ったレジスタンス運動+1時間のホームワーク。その後、自宅で150分/週の運動。
C:通常ケア
O:12ヶ月後のADAS-cogのスコア
→11項目、70点満点。高得点ほど認知機能悪化を示す
→大元のプライマリアウトカムは6ヶ月、12ヶ月でのMMSEとBADL(要はADL)
→事前登録情報の最新のプライマリアウトカムは6ヶ月、12ヶ月でのADAS-cog
(「6ヶ月」が論文では削除されている)
⇒実際に集まった患者群にTable1で示されている範囲で特に気になる偏りはないが、併存疾患は示されていない。平均年齢I76.9歳vsC78.1歳。独居I16%vs21%。
⇒介入の指示を守れた人とそうでない人をTable2で示している。やや男性が多いよう。
<批判的吟味>
・ランダム化:コンピュータで作成した乱数による。I群:C群=2:1。グループセッションがあるため、アンバランスなランダム化になった。
・マスキング:アウトカム評価者のみ
・真のアウトカム:代用
・アウトカムは明確?:明確
・ITT解析?:ITT
・サンプルサイズ:468名(20%は脱落する見込み)
・追跡率:I群85%、C群83%
<結果>
Table3より
ADAS-cog I vs C
開始時: 21.2 vs 21.4
6ヶ月: 22.9 vs 22.4 MD-0.6 95%CI:-1.6~0.4
12ヶ月: 25.2 vs 23.8 MD-1.4 95%CI:-2.6~-0.2
⇒1年後、有意差をもって介入群で悪化(臨床的意味のある差ではないが)
NIHR健康技術評価プログラムで公的資金を投じて行われた研究だが、認知機能の他QOLも測定している(医療技術評価の為QALYを測定したかったのだろう)が、そちらも有意差はなかった。
個人的感想「運動、キツ過ぎね?」
※この研究には4つほどコメントがついているので、一部を紹介
「4ヶ月間の介入後に評価されなかったため、著者は認知における中高度運動の効果について結論することができない」
いやいや、4ヶ月で認知機能に差がついたら、元の診断名が間違ってるでしょ!(アルツハイマー病は年単位で進行する疾患)
「この研究は認知症における身体活動の役割に関する多くの否定的な報道を生み出している」
こんだけの強度の運動を平均年齢76.9歳に課した部分を報道は考慮しないのね(;^ω^)