広島文献を読む会(2018.4.27開催)のお題論文を読んでみた~内視鏡術後のピロリ菌除菌で胃がんが予防できるか?~
<背景>
HCAのメンバーには入れてもらっているものの参加できていないので、一人寂しく読んでみた。
<急ぐ人向け結論>
除菌した方が良いとの結果。
しかし、研究中に怪しげな操作が行われており、除菌が有用とは言えない。
<お題論文>
Helicobacter pylori Therapy for the Prevention of Metachronous Gastric Cancer. - PubMed - NCBI
PMID: 29562147
事前登録情報
使用するチェックシート
論文を10分で読むためのワークシート - aheadmap ページ!
<臨床疑問>
アブストラクトより
P: 早期胃癌または高悪性度腺腫の内視鏡的切除を受けた470人の患者
I: H. pylori除菌療法
C: プラセボ
O1: 1年のフォローアップかそれ以降での内視鏡検査で検出された異時性胃癌の発生率
O2: 3年後の胃体部小弯の腺萎縮の改善
本文より追加
P:18~75歳。がんは内視鏡検査で診断。(転移のない早期がん)ピロリ菌は組織学的検査かウレアーゼテストで確認。
I:アモキシシリン1000mg、クラリスロマイシン500mg、ラベプラゾール10mgを1日2回7日間
C:プラセボ+ラベプラゾール10mg
O:最初の1年は3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月。それ以降は年2回。最大3年。
⇒実際に集まったのは平均60歳、男性約70%、家族歴有が20%弱。偏りはなさそう。
<ランダム化比較試験(RCT)の批判的吟味>
ランダム化?:OK
アウトカムは明確?:二つなのでOK
真のアウトカム?:発生率はいいけど、腺萎縮の改善は代用度が高そう
盲検化?:二重盲検(正確には参加者、ケア提供者、研究者、アウトカム評価者の4者)
ITT解析?:modified intention-to-treat(mITT)とアブストラクトにある
(実際にmodified intention-to-treatで解析されたのはO1: 1年のフォローアップかそれ以降での内視鏡検査で検出された異時性胃癌の発生率だけのよう)
脱落率:O1は15.8%、O2は30.4%
⇒「modified intention-to-treat」で解析から除外していいのは、割り付け後に治療を受けなかった者のみなのに、追加手術も除外されておりmITTとは言えない。
O1での除外は介入群42名、対照群32名だが、介入群42名中36名と対照群32名中24名が追加手術を理由に解析から除外されている。
このやり方は、介入群で有意差を出すときに使われる結果の信頼性を損なう方法。
(介入群の結果が良いように錯覚させるバイアスが働くため)
※なお、ここで不誠実な方法で除外された人をO1のアウトカム発生者として計算すると、介入群50名(21.2%)、対照群51名(21.8%)となり、有意差は消える。
<結果>
Fig2より
O1:異時性胃癌の発生率 HR 0.50(0.26~0.94)
Table2より(記載順も論文準拠)
O2:腺萎縮改善率
幽門 I:25.8% C:18.8% OR 1.51(0.88~2.59)
小弯 I:48.4% C:15.0% OR 5.30(3.08~9.13)
大弯 I:24.5% C15.8% OR 1.73(0.98~3.03)
Table2で、プライマリアウトカムが二つ目に記載されていることに強烈な違和感。
(プライマリアウトカムは論文でもっとも言いたいことなので、通常1番最初に記載する)
で、登録情報を見ると「腺萎縮および腸上皮化生の改善」がオリジナルのプライマリアウトカム。
はい、SPIN(良い結果に見せかけるためにアウトカムを途中で変更すること)です。
途中もっともらしくサンプルサイズの計算が載ってましたが、デコイです。
更に解析で都合の悪い症例を除いているので、ほぼ捏造ですね。
「ちょっと盛られた」臨床試験どころの話ではないです。
( 医学書院/週刊医学界新聞(第3246号 2017年10月30日 )
この結果をもとにピロリ菌の除菌を迫るのは止めましょう。
それは、極めて不誠実で詐欺的な行動です。
今回は以上です。
会場がどんなふうに盛り上がっているのか気になって仕方ありません(´;ω;`)